菅沼菜々が涙の復活V 昨季16度の予選落ち…スイング改造も「諦めなくてよかった」/国内女子ゴルフ

菅沼菜々が復活V グリーン上で優勝トロフィーをなでた(撮影・高橋朋彦)
パナソニックオープンレディース最終日(4日、千葉・浜野GC=6751ヤード、パー72)首位タイで出た菅沼菜々(25)=あいおいニッセイ同和損保=が5バーディー、2ボギーの69で回り、通算10アンダーで今季初優勝を飾った。2023年10月の「延田グループ マスターズGCレディース」以来の勝利でツアー通算3勝目。昨季は出場29試合で16度の予選落ちを喫し、3シーズン保持したシードを失うなど、どん底を経験した〝女子ゴルフ界のアイドル〟が、主催者推薦での出場で涙の復活Vを果たした。
沈めれば優勝が決まる40センチの短いパーパット。打つ直前、苦悩に満ちた日々が菅沼の脳裏をよぎった。「昨年はつらかったな」。1年7カ月、待ち望んでいた頂点へ─。力強く両手を突き上げると、涙があふれだした。
「ここまで早く復活できると思っていなかったので、信じられない。夢見た場所に戻ってくることができて、うれしい」
16番を終えた時点で後続に2打差のトップ。17番(パー5)でボギーをたたき、1打リードで18番(パー3)に向かった。第1打はグリーン奥23ヤードのラフへ。ピンチに陥ったが、第2打をロフト角56度のウエッジで40センチに寄せる〝神アプローチ〟で勝負を決めた。
どん底からはい上がった。2023年に2勝を挙げて迎えた昨季は、右膝を痛めた影響もあって、本来のスイングを見失った。持ち味の正確なショットが乱れ、出場29試合で16度の予選落ち。前年11位だったメルセデスランキングは79位に沈み、3季守ったシードを手放した。「ゴルフ場に来ることがいやになった。もう復活できないと思った…」と苦しんだ。

菅沼菜々は涙も見せた(撮影・高橋朋彦)
このオフは「ゴルフが楽しいと思えるまでは」と、プロになって初めて1カ月半もの間、クラブを握らずに過ごした。転機となったのは、1月に東京都内で開催したファンミーティング「ナナイロに染まれ!」だった。歌や踊りを披露して400人のファンと交流し、「パワーをもらって今年も頑張ろうと思った」。前を向き、直後に練習を再開した。
新たなコーチとの出会いにも恵まれた。昨季終了後から森守洋コーチとスイング改造に着手した。「シンプルなスイングになって、ティーショットが曲がる恐怖がなくなった」。最終日前日も動画を送ってスイングを見てもらい、「これなら曲がらない。信じてやっておいで」と背中を押された。
今季はQTランク(ツアー出場優先順位)102位で、出場機会は主催者推薦などに限られる立場だった。前週は男子ツアー「前澤杯」に出場して男子プロから刺激を受け、今季女子ツアー自身4戦目の今週は「パナソニックカラー」の青いウエアで優勝をつかんだ。
この勝利で、今季の残りの試合と来季の出場権を獲得。「諦めなくてよかった。来週から試合に出られることが一番うれしい」と笑顔が戻った。鮮やかにカムバックを果たした〝女子ゴルフ界のアイドル〟が、再びスポットライトを浴びた。(鈴木和希)
■菅沼 菜々(すがぬま・なな) 2000(平成12)年2月10日生まれ、25歳。東京・立川市出身。5歳でゴルフを始める。埼玉栄高時代の17年「日本ジュニア(15~17歳の部)」で優勝。18年にプロテスト合格。23年8月「NEC軽井沢72」で初優勝。同年10月の「延田グループ マスターズGCレディース」で2勝目。昨季はメルセデスランキング79位でシードを失った。今季QTランク102位。158センチ。

優勝した菅沼菜々のティーショット(撮影・高橋朋彦)
★バスに乗れるようになった
菅沼は埼玉栄高時代から不安障害の「広場恐怖症」を患っており、飛行機や新幹線などの公共交通機関に乗ることが困難だったが、優勝後の会見でこのオフからバスに乗れるようになったことを明かした。20分ほどバスに乗る機会があり挑戦したところ、問題なし。「どん底に落ちて気持ちが強くなったからなのか、少しずつ症状がよくなっている」という。バスに乗った理由は「昨季稼げなかったからタクシーはもったいないと思った」と話し、報道陣の笑いを誘った。
★運転手の父も笑顔
菅沼の父・真一さん(56)は復活優勝を会場で見届けた。「18番の第1打をグリーン奥に外したときは、心拍数が130くらいになったけど、本当によくやったと思う」と目を細めた。昨季低迷していた姿は「2勝したことがプレッシャーになっていた。切迫感があった」という。「広場恐怖症」の娘を支えるため、普段は移動の車でハンドルを握る真一さん。「また長距離を運転することになるけど、試合に出られるのはうれしい」と満面の笑みを浮かべた。

菅沼菜々は父・真一さん、母・めぐみさんと喜びを分かち合った(撮影・高橋朋彦)