一ノ瀬優希は男子プロの夫と二人三脚 家族で闘うキャリアの第2章

開幕前日にフィールドに滑り込んだ一ノ瀬優希。夫の谷口拓也にキャディを任せた

◇国内女子◇大東建託・いい部屋ネットレディス 初日(24日)◇ザ・クイーンズヒルGC (福岡)◇6503yd(パー72)

「ママ、行かないで!」。愛娘に背を向けて職場に向かう時が、なにせツラい。一ノ瀬優希は4歳の長女に「あした、もしかすると試合に出られるかもしれないから、“ばあば”のところにいてね」と言い聞かせて会場にやってきた。待機選手としてエントリーした大会で、5人目の欠場者が出たことで出場が決まったのは開幕前日。一縷(いちる)の望みを託していた午後5時前に吉報が舞い込んだ。

前週、「あおもりレディスオープン」で下部ツアー初優勝。3勝しているレギュラーツアーから数えて、タイトル獲得は実に11年ぶりだった。青森を離れ、自宅のある福岡の空港まで迎えにきてくれた娘の「おめでとう」の声に胸が熱くなった。

「でも次の日、さっそくオモチャを買わされて(笑)」。それで今週、面倒を見てくれる自身の母の家で、おとなしくしていてくれれば構わない。出場機会が貴重なレギュラー大会でのプレーは今季これが2試合目。そして、直前の勢いを地元でもしっかりキープし、初日「69」をマークした。

闘うママはカッコイイのだ

昨年5月には第2子の長男を出産。子育てにも慣れ、戦線復帰した今年はそもそも調子が上がらず、「ちょっと厳しいかなと」思っていた。調子が上向いたきっかけもまた家族の支え。2019年に結婚した日本ツアー2勝の谷口拓也が、指導者としての拠点にしていた中東から3週前に帰国。欧米ツアーの名物トップコーチ、ピート・コーワンとの親交も深い夫に直接指導を受け、復調の兆しをつかんだ。

「ここ最近、フェードというか、スライスが出てばかりだった」というショットが少しずつ、独身時代の持ち球だったドロー系に近づきつつある。この日はキャディとしても力を借り、ラフからの番手選びや、「(谷口が)自信満々だったんで…」とライン読みもおまかせ。自身は青森のコースに比べて重いグリーンへのタッチ合わせに集中できた。

出産を経た“肉体改造”の効果も大きいという。「10kgの子どもと荷物を抱えて階段に上ったりするのは、トレーニングよりもキツイ。ママたち、みんな思っていると思います。本当にそれが毎日だから、昔よりも飛距離も出るようになった」。ゴルフのために割く時間が減ったとしても、腕が衰えるとは限らない。

コーチングもするパパもカッコイイのだ

3アンダーは首位と3打差の31位スタート。2022年「リシャール・ミル ヨネックスレディス」以来となるレギュラーでの決勝ラウンド進出が見えても、「伸ばし合いなので、あしたしっかり伸ばさないと予選通過できない」と余裕はない。ああそうだ、まず今晩の夕食の献立も考えなくちゃいけない。

いつか子どもたちに、勝った姿を生で見せたい。「優勝した時に試合会場にいてほしい」と思う。ただ、2人の身体のことを考えると、夢を悠長に語ってもいられない。「この試合は近いけれど、暑くて見られない。来たところで耐えられるかな…」。そう心配になるのもママゴルファーだからこそだ。(福岡県糸島市/桂川洋一)