本当は怖い銀行窓口、保険会社出向者による「情報漏えい」が起きた深刻な背景

「銀行窓口」で外貨建て保険トラブル, 背景に銀行の厳しい経営状況, 銀行と保険、ズブズブの関係, 「情報漏えい」どころか「窃取」

銀行による保険の販売はどこまで消費者のためになっているのか?(写真:ロイター/アフロ)

(我妻 佳祐:ミニマル金融研究所代表)

 この連載では「ミニマル金融」という概念を提唱しています。金融サービスは適切に使えば便利なものですが、深入りすると人生が破滅してしまうような巨大なリスクにも触れることになります。

 なので、金融の素人のみなさんに対して「このくらいまでで十分」かつ「このくらいは使った方がいい」という金融サービスの利用法を伝えるのが連載の目的です。

 この観点からすると、正直なところ、銀行についてはあまり書くことがありません。消費者側から見た銀行の主要な機能である預金機能と決済機能を使っているだけならば別に難しいこともありませんし、リスクもほとんどないからです。

 銀行預金は1000万円(とその利息)までは全額保護されるので、預金額が1000万円を超えたら別の銀行に移すようにすれば銀行が破綻しても預金はちゃんと引き出せます。

 金融リテラシーを身につけようとするときに、銀行の機能の詳細から勉強しようとする人はあまりいないでしょう。

 しかし、銀行にも気をつけなければならないところがあります。それが、「銀行窓口」です。預金と決済に利用しているだけなら安心安全な銀行が、窓口では非常にリスキーな金融商品を提供しているのです。

「銀行窓口」で外貨建て保険トラブル

 今ではネットバンキングが広く普及しており、銀行窓口にいくことも少なくなったのではないかと思います。私も、「通帳とハンコでお金を下ろす」ということを一度もやったことがなく、いわばATMネイティブなので、銀行窓口には年に1回行くか行かないかくらいです。主要な引き出し口はもちろんコンビニATMです。

 一方、高齢者はまだ銀行窓口での手続きをすることが少なくありません。少し古い資料ですが、2017年に国民生活センターが銀行窓口での保険販売についてのトラブルを調査しています。

 以前より典型的な銀行窓口でのトラブルの事例が、「定期預金が満期になったので銀行窓口に行ったら、貯蓄型or投資型の保険商品を買わされた」というものです。預金者は銀行から勧められた商品であるから元本保証の安全なものだと思って契約したところ、実際は保険商品に加入しており、損失が出てしまうというケースです。

【事例】定期預金が満期になり、銀行窓口に行ったら変額終身保険の契約をしてしまった

 数年前、銀行の定期預金が満期になり、銀行へ行ったところ、窓口の職員から「相続税対策になる。○○生命という会社は知っているか」と聞かれ、「知らない」と答えたが、相続税対策になることにメリットを感じ、意味がよく理解できないまま1000万円と500万円の契約に合意した。銀行が保険の勧誘をするとは思っておらず、私は、元本が保証される定期積み立てのつもりで契約した。

 後日、契約書面が届いたが、確認しなかった。先日、運用状況の通知が届いたので確認したところ、外国通貨建ての変額終身保険であることがわかり、すでに300万円以上元本が減っていた。また、保険は15年満期だが、私は80歳代なので10年以上の長期契約は必要ない。契約の際に元本割れのリスク説明は受けておらず、為替手数料や解約控除などの説明を受けた記憶はない。契約を解除して1500万円を返金してほしい。

(2017年10月受付 80歳代 女性 愛媛県)

※引用元:保険商品の銀行窓口販売の全面解禁から10年を迎えて ‐新たに外貨建て保険のトラブルも‐、独立行政法人国民生活センター

 そもそも、なぜ銀行が保険商品を販売するのでしょうか? 銀行からすれば自行でせっかく集めた預金を保険会社に渡してしまうようなものです。

 次ページのグラフをご覧ください。

背景に銀行の厳しい経営状況

「銀行窓口」で外貨建て保険トラブル, 背景に銀行の厳しい経営状況, 銀行と保険、ズブズブの関係, 「情報漏えい」どころか「窃取」

出典:一般社団法人全国銀行協会統計資料

 これは2001年からの全国の銀行(地方銀行含む)の預金額と貸出額の推移です。預金額が右肩上がりに増えているのに比べ、預金額に占める貸出額の割合(預貸率)は2000~2010年代は減少傾向であることがわかります。すなわち、2000年代は、銀行は預かるお金が増えても貸し出す先はそれほど増えなかったということです。2020年代に入り、ようやく預貸率の低下は底を打った形です。

 会社が倒産しないよう国策として金利は低く維持されていましたが、会社はその金利すらも満足に負担できないほど経営状況が悪かったということになります。政府がデフレ脱却を最優先に掲げていたのは、このような経済状況を好転させるためでした。

 すると、銀行は預金を受け入れてもそれを収益につなげることができず、預金につく利息(雀の涙だったとはいえ)や、口座の維持管理費を考慮すればむしろ預金を受け入れれば受け入れるほど損であったということになります。

 そこで、銀行が収益性を改善するために取った手段のひとつが、「預金を保険会社にあげてしまって、銀行は保険会社から手数料をもらう」というものでした。

 これは銀行にとっても保険会社にとってもメリットがあり、まさにwin-winのビジネスモデルであったといえます。もちろん、先に説明したように、loserはトラブルに巻き込まれた消費者です。

銀行と保険、ズブズブの関係

 いうまでもないことですが、「保険」とは貯蓄ではカバーしきれないリスクに備えるための仕組みであり、貯蓄を主目的とした保険商品は「保険本来の趣旨」からは外れるものです。それでは、保険商品の銀行窓口販売が解禁されて、銀行窓口で本質的な保険商品は販売されているのでしょうか?

 このような資料があります。

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出典:投資信託等の販売会社に関する定量データ集2022(令和4)年度9月期(金融庁)

 これは、銀行で販売されている保険商品のうち、外貨建て一時払保険(クリーム色)、円貨建て一時払保険(緑色)、平準払保険(灰色)の比率を表したグラフです。

 このうち、外貨建て一時払保険と円貨建て一時払い保険は、契約時に保険料を全額払い込むという典型的な財テク商品であり、「定期預金が満期になった顧客の資金を移すもの」というイメージの商品です。外貨建ての保険商品というのは円金利がゼロ近傍となったため保険会社が苦肉の策で編み出した商品であり、外貨建てでは元本が維持されるものの、円建ての価値は為替の状況によっては保険契約者が大きく損をする商品です。

 最近は大幅な円安局面なのでおそらく損失は出ていないでしょうが、本来、為替の動向は素人にはまったく読めないもので、外貨建て保険というもの自体が保険本来の趣旨に則ったものなのか、厳しく問われるべきでしょう(ある保険会社の人は「最近は日本を出て海外で暮らす人も多いですからリスクは小さいですよ」、と言い放っていました)。

 さて、グラフを見てパッとわかることは、銀行窓口では、保険本来の目的にかなう平準払の商品はほとんど販売されていないということです(唯一、主要行イのみに努力のあとがうかがえます)。平準払とは定期的に一定額を支払うタイプの商品で、「月額○円でXXの保障」という、一般的なイメージの保険です。

 そのような保険が銀行で売れているのであれば、「確かに銀行での保険販売を解禁した意味があった、チャネルが多様化した」と評価できるのでしょう。しかし、現実に起きたこととしては、単に銀行の預金を保険会社に飛ばす手段を与えただけといえるでしょう。

 このような構造のもと、銀行と保険会社は関係を強化していきますが、最近、2つの大きな不祥事が起きました。ひとつは保険会社による顧客の個人情報の窃取で、もうひとつが日本生命による出向先銀行の機密情報の窃取です。

「情報漏えい」どころか「窃取」

 ひとつめの不祥事は、銀行に限りませんが、保険代理店に出向していた保険会社の職員が、他社の保険契約者の個人情報を窃取し、保険会社で保有していたという問題です。

 報道をみると「情報漏えい」というワードが使われていますが、これではまるで単なる事務ミスのような印象になってしまいます。保険会社の職員が意図的に個人情報を盗用したものも含まれているわけですから、「窃取」というのが適切でしょう。本来、個人情報保護法違反により刑事罰に問われる可能性もある事案です。

個人情報取扱事業者若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、刑事罰(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科される可能性があります(法第179条)。

引用元:https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q11-1/

 規模としては、損保の事案が大手4社で268万件、生保の事案が18社で約43万件の個人情報の漏えい(窃取含む)と、相当な規模です。

 ふたつめの不祥事は、日本生命の職員が三菱UFJ銀行に出向していた際に社外秘の資料を持ち出していたという、こちらも信じがたい事件です。

 これはいってしまえば「日本生命が三菱UFJ銀行に対して産業スパイ行為を働いていた」というもので、しかも日本生命は現在の経団連会長も輩出しているわけですから、我が国の企業倫理全体が問われかねない事件といえます。

 まだ調査継続中のようですが、三菱UFJ銀行以外に同様の事例はなかったのか、組織的な関与があったのか、それとも個人の行為だったのかが今後の調査での争点になっていくでしょう。

 これらの不祥事もきっかけになったのか、三菱UFJ銀行とみずほ銀行は保険会社からの出向受け入れをやめることを表明し、三井住友銀行も生命保険会社からの出向受け入れをやめる方向で検討しているようです。

 貸出利息で収益を上げるという銀行のビジネスモデルが危機に陥った結果として保険販売等の「アルバイト」に精を出すことになったわけですが、企業業績の回復により本業でしっかり収益を上げることができるようになったことでもはや預金を保険会社に飛ばす理由もなくなり、個人情報や機密情報の窃取という保険業界の不祥事が噴出している今こそ、銀行が改めて「顧客本位」の姿を取り戻すチャンスなのではないでしょうか。

 2007年に銀行窓口での保険販売が解禁されたときに、最後まで反対していた人が「銀行窓販を解禁しても保険会社と銀行が儲かるだけで、バカを見るのは消費者ですよ」と言っていたのが記憶に残っていますが、どうもその人の言ったとおりになったのではないかと感じています。

 銀行は、「顧客に保険を勧めるのが本当に正しいことなのか?」をしっかり考えてほしいものです。

「銀行窓口」で外貨建て保険トラブル, 背景に銀行の厳しい経営状況, 銀行と保険、ズブズブの関係, 「情報漏えい」どころか「窃取」

我妻 佳祐(わがつま・けいすけ)1981年生まれ、山形県米沢市出身。99年、京都大学理学部数学科入学。2006年、京都大学大学院理学研究科修士課程にて生命保険の研究で修士号を取得する。同年、金融庁に入庁。保険、証券、開示、銀行等金融行政に幅広く関わる。14年、京都大学大学院理学研究科博士後期課程を修了し、生命保険の研究で博士号を取得。19年に金融庁を退官。その後、アクセンチュア等のコンサルティング会社勤務を経て、21年に生命保険の買取サービスを提供する株式会社ライフシオンを設立。25年より光通信グループにてライフワークである生命保険の理想を追求する事業を開始する。