2ホールのはずが“おかわり”を 英国ファンを魅了した山下美夢有の技術

小柄なチャンピオンを多くのファンが見守った

◇女子メジャー最終戦◇AIG女子オープン(全英女子) 最終日(3日)◇ロイヤルポースコール(ウェールズ)◇6580yd(パー72)

「最初の2、3ホールだけ見るはずが、18ホールついちゃったよ」。ロンドンから来たという現地のギャラリーが、3日目を終えた山下美夢有に熱心に写真撮影を求めていた。グレートブリテン島の南西部に位置するウェールズで、週末トップに立ち続けた日本人選手に多くの観客がついて歩いた。

2日目に「65」をたたき出したインパクトで一気に視線を集め、3日目はスコアを落としながらも、要所要所で粘り強さを見せて首位をキープ。17番で強気にねじ込んだ20mのパーパットには、現地のギャラリーもこぶしを握って惜しみない歓声を送った。

日本人選手も祝福

「私はあまり飛距離が出ないので、やっぱりショートゲームと正確性。ボギーを打たないゴルフがしたい」。パワーゲームに目が行きがちな米ツアーでも、その軸はブレなかった。ひとつ大きな武器を持つよりも、ショットのバリエーションや小技を磨いて穴のないゴルフをする。「ショットからリズムを作っていくので、それが狂うとパターの調子も狂う。それは徹底してやっています」とコーチである父・勝臣さんは話す。

日本で年間女王に輝いた2022年、23年はドライビングディスタンスを除いたほとんどのスタッツがトップ5入り。「(ショットの)精度と、あとはパッティングで何とかなるだろうと。日本から何も変えていることはないです」(勝臣さん)。フェアウェイから2打で乗せて、チャンスが来るのを待つ。海を渡ってコースが変わっても、信じてきたことをやり続けた。

山下美夢有の技に魅せられた

シンプルな理論で作り上げたゴルフは、全英で求められるものにピタリとはまった。「ミユはロングヒッターではないけど、ポイントを決めてそこに打つ力が秀でている」と話すのは、山下のキャディを務めるジョン・ベネット氏だ。

今季「シェブロン選手権」(30位/ザ・クラブatカールトン・ウッズ)、「全米女子オープン」(36位/エリンヒルズ)、「全米女子プロ」(6位/フィールズランチ イースト)はフェアウェイが広く、ロングヒッター有利のコース。下が硬いリンクスコースはランが稼げるため、飛距離で大きな差は出ない。今週はアップダウンに加えてフェアウェイの落としどころもタイト、強い海風の中で傾斜がきついグリーンを狙うセッティングは、山下のプレースタイルが存分に生きた。

コツコツが全英制覇につながった

「やっぱり(日本から)変えずにやってきたのが一番良かった。コツコツ地道に、コーチの父とやってきたことが結果にもつながってくれた」と山下は振り返る。2019年大会覇者の渋野日向子が“スマイルシンデレラ”の相性で親しまれたことに順じて、3日目を終えて海外記者から提案されたニックネームは『“山”だから、“クライマー”…とか?』。ちょっと語感の悪い響きに山下も笑ってしまったが、地道に歩んだ道がメジャー優勝につながったのは間違いない。(ウェールズ・ポースコール/谷口愛純)