【独占インタビュー:ガブリエル・ボルトレト】最も期待されていなかったルーキーから期待大の新人になった……「僕は幸せな男」
F1に辿り着いたドライバーたるもの、長年目指して来た地位を確固たるモノとするために、何を改善できるかということに常に焦点を絞り、前を向く傾向にある。
つまり過ぎ去った過去の功績に対する感謝は後になってから……時にはキャリアを終えてから行なうものである。しかしガブリエル・ボルトレトはその例外であるようだ。
今季ザウバーからF1デビューを果たしたボルトレトは、20歳という若さの輝きを放ちながらも、その若さからは想像もつかないほどの思慮深い洞察力と観察力を兼ね備えている。
ボルトレトの人生は、この2年で劇的に変化した。24ヵ月前の彼は、FIA F3に参戦中であり、まだシングルシーターでのタイトルを獲得したことがない……そんなドライバーであった。それ以前に参戦したフォーミュラ・リージョナルやFIA F4のイタリア選手権でも、特に目立つような成績を残していたわけではなかった。

Gabriel Bortoleto, Sauber
しかしこのFIA F3でチャンピオンを獲得すると、彼のキャリアは大きく変わった。翌年にはFIA F2にステップアップし、これも1年目にも関わらずチャンピオンを獲得。当初はマクラーレンの育成ドライバーだったが、ザウバーが引き抜くほど魅力的な存在となった。
そして2025年、ザウバーからF1デビューを果たした。この2025年は、ルーキードライバーが多数参戦。メルセデスの秘蔵っ子アンドレア・キミ・アントネッリ、昨年の時点で代役デビューしいきなり入賞するなどしたオリバー・ベアマン(ハース)ら、大きな注目を集める”同期”が数多くいたため、ボルトレトはその影に埋もれるような形だった。しかも同じく同期のアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)は、開幕直後から入賞を重ね、評価を高めていった。
ボルトレトはチームのパフォーマンス低迷も相まって、二桁順位の着順を続けていき、正直に言ってほとんど注目されていなかった。しかし第11戦オーストリアGPで8位に入り初入賞すると、13戦ベルギーGPでは9位、14戦ハンガリーGPでは6位と、夏休みを迎える直前に立て続けに入賞を積み重ね、一気に注目を集める存在となった。
ボルトレトは、当然ハンガリーでの6位という成績に満足しているわけではない。はるかに高い目標を掲げている。しかしここにいられることの幸運も忘れてはいない。
「僕は幸せな男だ。今経験していること、そして与えてもらったチャンスに感謝している」
ボルトレトはmotorsport.comのインタビューにそう語った。
「F1でのチャンスを得るに相応しい能力を持つ友人が何人かいる。今の僕のような立場になるためなら、何でもする才能豊かな人たちだ。そのことを、僕はよく考える。それが僕を奮い立たせ、与えられたチャンスを最大限に活かすために、あらゆることに全力を尽くす原動力になっている」
■ただ努力することしかできなかった

Gabriel Bortoleto, Sauber
12歳のボルトレトは、故郷ブラジルを離れ、イタリア北部のデゼンツァーノ・デル・ガルダに移り住んだ。そこでカートで成功を収めた後、シングルシーターへと転向したが、その道のりは困難の連続だったという。
「難しい時もあったよ」
そうボルトレトは語った。
「2022年(フォーミュラ・リージョナル2年目)には、エンジントラブルに何度か見舞われた。これは公表されていないことだ」
「あの時唯一できたことは、腕まくりをして、できる限り挽回することだけだと悟ったんだ。言い訳をする意味はない。今振り返ってみると、あの状況が僕をより強いドライバー、より強い人間へと成長させてくれたと実感している。改善できる点に全力を注ぎ、コンマ数秒を稼ぐ努力をした。それによって、成長できたと思う。技術的な問題が解決した時、その確信を得ることができた」
「全てがうまく整うと、勝てるようになった。シーズン終盤は、とても好調だったと思う」
実際ボルトレトは、ハンガロリンクでの第12戦でこのシーズン2度目の表彰台登壇を果たすと、スパ・フランコルシャンでのレースやカタルニア・サーキットでのレースで優勝。ランキング6位でシーズンを終えた。
「でも最終的に確信できたのは、F3のテストを初めて行なった時だった。トライデントのマシンでヘレスでのテストに挑んだ。これほどのパワーを持つマシンをドライブしたのは初めてだったが、ライバルに0.5秒の差をつけてトップに立つことができた」
「マシンのフィーリングからエンジニアとの関係まで、全てが自然に進んだ。その日、僕はきっとうまくやれるだろうと確信したんだ。そして実際に1年目のシーズンで、タイトルを獲得することができた」
■アロンソとの出会い

Fernando Alonso, Aston Martin Racing, Gabriel Bortoleto, Sauber
なお2022年にボルトレトにとって、コース外でも重要な年だった。フェルナンド・アロンソが率いるFA14マネジメント・チームに加入したのだ。
「フェルナンドは、2022年の半ばにチームにやってきた。それは、僕にとって非常に重要なステップであり、大きな付加価値になったんだ」
そうボルトレトは言う。
「2023年にはF3に参戦し、初めてF1の併催レースに出場した。サーキットに初めて入った瞬間、主要なF1チーム全員の視線を浴びながらレースをするという現実を痛感した。だからフェルナンドに、レースウィークの過ごし方、プレッシャーや期待感への対処など、様々なことに対するアドバイスを求めた」
「アロンソのような多忙なドライバーには、そんな時間があまりないと思う人がいるかもしれない。でも彼は常に時間を見つけ、休暇を犠牲にしてまでサポートしてくれたのは確かだ。彼の協力的な姿勢は素晴らしいし、もちろん僕にとっては大きな付加価値だった」
■マクラーレン入りを決めた、ピロからの電話
とはいえ結局のところ、キャリアを進めていくには勝つしかない。それに勝るものはない。F3にデビューしたボルトレトは、突如としてF1チームが注目する若手ドライバーのひとりとなった。
「2023年シーズン、開幕から2戦連続でフィーチャーレースを優勝し、素晴らしいスタートを切れた。その後のある日、エマニュエル・ピロから電話がかかってきたんだ」
ピロはベネトンやスクーデリア・イタリアからF1に参戦したこともあるドライバー。F1では好成績を残せなかったが、ル・マン24時間レースでは5度の総合優勝を達成するなどした実績を持つ。
「F1では、僕のエンジニアを彼の息子であるゴッフレドが担当してくれていたけど、エマニュエルと会ったことは一度もなかった。当時彼が、マクラーレンで若手ドライバーのプログラム責任者を務めていたことさえ知らなかった」
「その時の電話のことを、よく覚えている。本当に驚いた。エマニュエルは素晴らしい人だった。契約書の準備には時間がかかったけど、最終的には僕が正式にプログラムに加わる、最初のドライバーになった」
ボルトレトはF2でも光る走りを見せ、マクラーレンを驚かせた。しかしあまりにも早く実績を残したボルトレトに対し、マクラーレンは短期的もしくは中期的な将来さえ保証できなかったのだ。
「マクラーレンは常に、僕に対してとても正直だった。F1でレースをする他の機会があるなら邪魔はしない……そう彼らは明言してくれていた」
そうボルトレトが明かした。
「僕がF2でチャンピオンになった時、マクラーレンのシートは空いていなかった。オスカー(ピアストリ)とランド(ノリス)は若く、非常に強く、長期的な契約を結んでいる。だから、ザウバーのチャンスを聞いたマクラーレンは、約束を守って僕を放出してくれたんだ」
■僕もトロフィーが欲しい!

Nico Hulkenberg, Sauber, Gabriel Bortoleto, Sauber
ボルトレトが加入したザウバーは、2026年からはアウディのワークスチームとなる。しかも元フェラーリのマッティア・ビノットが組織全体を率い、元レッドブルのジョナサン・ウィートリーがチーム代表を務める……体制面は充実しつつある。
ボルトレトもこの新時代に向け、2025年を準備の1年に充てることができている。
これはルーキードライバーにとっては理想的なシナリオである。メルセデスがアントネッリを今季から起用したのもそのためだ。しかしザウバーは2025年シーズン開幕直後、厳しい戦いを強いられた。
「シーズン開幕直後は、楽なモノではなかった」
そうボルトレトは語った。
「チームの内部では、僕の貢献は常にポジティブに評価されてきた。下位カテゴリーとはいえ、2年連続でチャンピオンを獲得した後にランキング下位を戦う状況は、精神的にも受け入れ難いモノだった。野心を抑えるのはいつも難しいけど、レースを重ねるごとに状況は大きく改善し、トップ10圏内に入ることができるようになった。最高の気分だった」
「シーズン開幕当初と比べると、大きく前進した。当初はグリッドの後方に沈むこともあったけど、今では状況が確実に改善している。全てのサーキットで入賞を狙うのは難しいかもしれないけど、ほとんどのサーキットでポイント争いに加われると思う」
ザウバーが好成績を挙げ始める中で、ボルトレトの人柄も際立った。イギリスGPではニコ・ヒュルケンベルグが3位表彰台を獲得。これは彼にとって、キャリア初の表彰台となった。ボルトレトはこれを、まるで自分のことのように喜んだ。17歳の年齢差があるふたりだが、円満な関係を築いていると言っても過言ではない。
「ニコは素晴らしい人間であり、素晴らしいドライバーだ。シルバーストンで彼が3位フィニッシュした時は、本当に感動した」
そうボルトレトは語った。
「彼は僕を大いに助けてくれている。僕は彼から多くのことを学んだ。学び続けてきた。誰かと良い関係を築いている時、彼らの喜びのいくつかを共有するのは、自然なことだと思う」
「彼は素晴らしいレースをし、正しい決断をして、正しい結果を手にした。その瞬間、彼をお祝いしたかったんだ。そしてニコがトロフィーを手にするのを見た時、僕は自分に言った。『よし、僕もそれを手に入れるために全力を尽くすぞ。僕もそこに辿り着きたい』とね。そのイメージは、僕にモチベーションを与えてくれた」
■フェルスタッペンの存在

Max Verstappen, Red Bull Racing, Oliver Bearman, Haas F1 Team, Gabriel Bortoleto, Sauber
2022年シーズンは、ボルトレトのキャラクターを形作る上で大いに役立った。だが2025年の全てのルーキーのうち、ボルトレトはもっともF1ドライブ経験が少ない状態でデビューすることになった。しかしボルトレトは、それを言い訳にするつもりはない。
「F2のモンツァ戦で勝った後、マクラーレンのマシンを(レッドブルリンクで)半日ドライブした。ヤス・マリーナでのシーズン後テストでは、既にザウバーのドライバーだった」
そうボルトレトは語った。
「その後年が明けて今年になったけど、TPC(旧車テスト)の走行距離は限られていた。それでもテストしたけど、その日は雨が降っていた。つまり2日間のテストだけで、シーズン開幕を迎えたんだ。もっと距離を走れていれば、もっと準備が整っただろう。でもそれは、F2やF3の時と同じだ。最終的に言い訳はないよ。使えるモノを使って、最善を尽くさなければいけないんだから」
そしてボルトレトには、もうひとり強い味方がいる。それがレッドブルのマックス・フェルスタッペンだ。ふたりは、シムレースの世界で親交を深めた。
「バーチャルレースとシミュレータに対する共通の情熱のおかげで、僕らには友情が生まれた」
そうボルトレトは語った。
「僕らは2023年の初め頃に出会った。僕はF3の最初のシーズンを戦っていた。マックスはシミュレータで、大いに僕を手助けしてくれた。何をすべきか、何を変更すべきかなどを提案してくれたんだ。僕らはオンライン上で会った。彼は彼の家で、僕は僕の家でプレイする。そして、いろんなことについて話し合うんだ」
なおボルトレトにはパフォーマンスコーチとマネージャーが同行するが、それ以外の関係者が帯同することは滅多にない。
「僕の両親は、本当は僕のレースに着いて来たいと思っているんだ。でも、彼らはブラジルで忙しい日々を過ごしている」
そうボルトレトは語った。
「父は、ブラジルのストックカー選手権をマネジメントしているから、やるべきことがたくさんあるんだ。ルーベンス(バリチェロ)やフェリペ(マッサ)などの多くのドライバーが、このシリーズで戦っている」
「父は昔から、F1の大ファンだった。しかし若い頃にはあまりお金がなかったみたいで、本当にゼロから始めた。F1がインテルラゴスで開催された時には、ヘリコプターでやってくるVIPを、パドックの入り口まで案内する手伝いをしていたんだ」
「彼がグランドスタンドのチケットを買う余裕がなかったから、それが彼がサーキットにいられる方法だったんだ。父は僕にその情熱を伝え、僕らはカートで最初の一歩を踏み出した。達成不可能に思えた夢を抱えていたけど、今では彼の息子はF1でレースをしている。彼がサーキットに初めて来られるのを願っているよ」
ちなみにボルトレトの父親であるリンカーン・オリベイラは、ブラジル最大のインターネット・サービスプロバイダーの社長を務めるようになり、ストックカー・プロシリーズの共同創設者兼CEOでもある。
ボルトレトはF1デビューに伴い、モナコに引っ越し。しかし、まだ自身のアパートでゆっくり過ごす時間はないようだ。
「残念ながら、僕にはあんまり自由な時間はない」
そうボルトレトは語った。
「レースの週末には旅をするし、(スイスの)ヒンウィルにあるチームのファクトリーで過ごす時間が好きだ。特にルーキーで、学ぶべきこと、慣れるべきことがたくさんある時には、それは重要なことだと思う」
そして前述の通り、ザウバーは来季からアウディとなる。ワークスチームになるわけだ。その中でボルトレトは、しっかりと自分の役割を果たしている。
「どうなるのか、それを予測するのは、不可能ではないとしても、難しいことだ」
そうボルトレトは言う。
「実際にコースでレースを始めてみないと、順位は分からない。とはいえ、表彰台やポイント獲得に向けて、戦う準備はしておかなければいけない」
ボルトレトとザウバー/アウディにとって、今後の道のりはまだまだ長い。しかし2025年のルーキードライバーの中でも、ある意味もっとも期待されていなかったボルトレトが直近4レース中3回の入賞を果たしたことで、彼のF1キャリアはいよいよ本格的に始動したと言える。
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