ロシアが燃料配給制、ウクライナのドローン攻撃で

ウクライナのドローン攻撃を受けたロシア・ソチ郊外の燃料貯蔵庫(3日)
ウクライナの攻撃を受けたロシアは現在、燃料の配給制に追い込まれている。
故ジョン・マケイン米上院議員(共和、アリゾナ州)が「核兵器を持ったガソリンスタンド」と呼んだこともあるロシアは、製油所を標的としたドローン攻撃により、燃料生産能力の約13%が現在停止しているとアナリストらは指摘。また2022年のウクライナ侵攻以降に欧米各国が打ち出した制裁により、これらインフラの修復や残存施設の整備能力も制限されているという。
同時にロシア国内の鉄道網や空港ではウクライナのドローン攻撃の影響で頻繁に混乱が生じ、夏の休暇中も自動車での移動を強いられる市民が増加。収穫期であることも燃料需要を急増させている。
これらが重なった結果、ロシアのシベリアや同国が占領するクリミアなど複数の地域ではガソリンスタンドで配給制を導入。ガソリンが入手可能な場所でも価格は上昇しており、原油価格が大幅に下落する中、ロシアのオクタン価95のガソリン卸売り価格は今年に入り45%上昇している。
ウクライナの外相を務めたパブロ・クリムキン氏は、「戦争は前線だけで起きているわけではない。そのため、システム的な打撃は非対称的な重要性を持つ」と指摘。「これらの攻撃は軍事活動に直接的な影響を与えないが、ロシア経済に影響を与える。そしてロシア経済はすでに問題を抱えているため小さな圧力でもボトルネックを生み、システム内部の問題を増幅させる可能性がある」とした。
ウクライナは長距離ドローン産業を発展させ、2023年からロシアの製油所に対する攻撃を開始。バイデン前米政権は当時、世界の原油供給の混乱を懸念し、このような攻撃に反対していた。ウクライナは最近まで、ロシア経済の生命線である石油・ガス輸出インフラへの攻撃をおおむね控えていた。

給油のためガソリンスタンドに列をなす車両(ウラジオストクで22日)
だがそれも今や過去のものとなり、ウクライナのドローンは24日にはバルト海沿岸の戦略的施設であるウスチルガを炎上させた。この数日前にはベラルーシ、ハンガリー、スロバキアにロシアの原油を供給するドルジバ・パイプラインが使用不能に陥っている。過去1カ月間でロシア国内10カ所以上の製油所が攻撃を受けており、その一部は国境から数百マイル(数百キロ)離れた場所にある。これはウクライナのドローンがより強力になり、数も増えたことが背景にある。
ロシアの主要な国営ガス会社の一つであるガスプロム・ネフチで22年まで幹部を務めていたセルゲイ・バクレンコ氏は、「ウクライナは現在、持続的攻撃を実行できる。昨年もこれを試みたが弾頭は軽く、成功率も低かった。今は攻撃で生じた影響が修復されると新たな攻撃が続く状況にある。もしウクライナがこの圧力を維持し、ロシアが修復できる以上の頻度で製油所に損害を与えることができれば状況は全く異なるものになるだろう」と述べた。
ドナルド・トランプ米大統領はロシアの要求の少なくとも一部を受け入れ戦争を終結するようウクライナに圧力をかけているが、ドローン攻撃はウクライナの政治的道具にもなっている。米国防総省は今春以降、米国製の長距離陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)でウクライナがロシアを標的とすることを制限してきた。だがウクライナ製兵器にはこのような制限はない。
ウクライナ国立戦略研究所(NISS)の研究員で、ウクライナ軍を支援する同国の慈善団体「カムバック・アライブ」のミコラ・ビエリエスコフ氏は、「われわれは攻撃範囲を常に拡大し、戦術も改善している。確かにパートナー国には依存しているものの、独自の能力、独自のカードを開発し、主体性も持っている」と述べた。
また「ロシアはあまりにも大きいため防空システムが十分に行き渡ることはなく、われわれはこれを利用している。過去の戦争と異なり、ロシアはその規模や戦略の深さが実際には不利になっている」とも付け加えた。
ロシアの戦争は石油、ガス、燃料の輸出に支えられており、ウラジーミル・プーチン大統領は死傷者が増加しているにもかかわらず、高額の入隊ボーナスで軍への志願者を募集することができている。
トランプ氏はロシアから輸出される原油の約38%を購入しているインドに対し、25%の追加関税を発表。一方で同氏はハンガリーのオルバン・ビクトル首相への書簡でドルジバ・パイプラインに対するウクライナの攻撃について「非常に怒っている」とも述べている。ウクライナの攻撃で同施設は数日間停止した。
ウクライナはドローンに加え、巡航ミサイル「フラミンゴ」を含む独自のミサイルも開発。オスロ大学のミサイル専門家ファビアン・ホフマン氏によると、フラミンゴはより大きな弾頭を持っており、ゲームチェンジャーになる可能性がある。
ホフマン氏は「敵の産業・経済的標的を妨害できる長距離攻撃能力が、それらを包括的に破壊できる能力へと移行すれば、ロシアにとってはるかに対処が難しくなる」と説明。「ロシアはこの戦争を続ける限り、ウクライナが本当にロシアに打撃を与えることができるということを考慮に入れなければならなくなる」とした。
ロシア経済は最近まで比較的堅調な成長を続けてきたが、持続的なインフレや高金利、欧米の制裁も影響を及ぼし始めている。国際通貨基金(IMF)は7月、ロシアの今年の国内総生産(GDP)成長率の予想を0.9%に下方修正した。これは2024年の4%超から大幅な低下となる。通常冬季に安価な燃料を買い付けて夏季に転売する燃料トレーダーらは、今年は十分な備蓄を確保できなかったが、高金利の影響がその主な理由となっている。
ロシア政府当局者らは現在、トラクターメーカーから家具メーカーまでさまざまな企業が生産を縮小する中、景気後退のリスクを公然と警告している。ロシア中央銀行は7月、景気減速の兆しを受け主要政策金利を20%から18%に引き下げた。ガソリン価格上昇は約9%で推移するインフレをさらに押し上げ、中銀が抱える課題がさらに複雑化する可能性もある。

ウクライナのドローン攻撃で火災が発生したプロレタルスク近郊の燃料貯蔵庫を捉えた衛星画像
米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアフェロー、クレイトン・シーグル氏は、「ロシアはガソリン価格に非常に敏感で、急激な価格上昇を防ぐことはプーチン氏の支持率維持に加え、国内で不満が広まることを阻止するうえで重要だ」と述べた。だがロシア国内では今月だけでも少なくとも六つの主要製油所が攻撃を受け、一部は複数回攻撃されており、シーグル氏はこれらの製油所の一部が少なくとも4~6週間は停止すると予想している。
ロシア政府は、国内市場には燃料が十分に供給されていると述べ、石油会社に卸売り燃料価格を安定させるための長期的な対策に取り組むよう指示しているとした。政府は価格抑制のため、7月には燃料輸出を禁止している。
アナリストらはプーチン氏のウクライナ戦争における戦略目的や国内での権力掌握に関し、燃料不足だけでは影響が生じないとの見方で一致している。ベルリンのカーネギー・ロシア・ユーラシアセンターのフェロー、アレクサンドラ・プロコペンゴ氏は、「痛みこそ伴うものの、戦略的な混乱は生じない」と述べた。
だがウクライナ国防相を務めたオレクシー・レズニコフ氏は、ウクライナで行われているような戦争ではあらゆる混乱が意味を持つと指摘。「現代の戦争は資源の戦争であり、ウクライナはゴリアテの弱点を見つけようとするダビデなのだ」と述べた。