米、ウクライナ平和維持部隊を空軍力で支援へ

上空を監視するウクライナの移動式防空部隊

ドナルド・トランプ米大統領は19日、欧州各国がウクライナに派遣する平和維持部隊に関し、米国も空軍力で支援する用意があると示唆した。一方で地上部隊の派遣は否定した。

和平合意が成立した場合にウクライナに派遣される多国籍部隊の計画は、19日に加速。トランプ氏は前日、ホワイトハウスでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や他の欧州首脳とこうした構想を協議していた。

欧米当局者らによれば、トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領とアラスカで会談後、米軍制服組トップのダン・ケイン統合参謀本部議長に対し、北大西洋条約機構(NATO)による安全の保証のような選択肢を平和維持部隊向けに策定するよう指示した。

米軍制服組トップのケイン統合参謀本部議長

当局者らによればケイン氏は19日に英国、フランス、ドイツ、フィンランドなど、前日のホワイトハウスでのウクライナ会合に参加した国々の軍トップらと直接会談する予定。当局者の1人によると、NATO軍最高司令官で欧州米軍司令官も兼任するアレクサス・グリンケウィッチ大将も参加する協議は、政治指導者らのために軍事的選択肢を練り上げることが狙いとなる。

NATO軍高官によると、グリンケウィッチ氏は20日にNATO防衛トップらに対し、ウクライナでの戦争についてビデオ会議で説明も行う。同氏は首都ワシントンから会議に参加するという。

一方で計画されている部隊は、多くの重要な外交的課題にも直面している。

トランプ氏はウクライナに欧米の部隊が派遣されることに関し、プーチン氏にも受け入れられるとの見方を示した。だがロシア政府は、NATO加盟国からウクライナへの部隊派遣に反対してきた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は19日、「NATO加盟国が参加してウクライナに軍事部隊を派遣するというシナリオは、これまで繰り返し表明してきた通り、一切認めない」と発言。またそのような措置は「予測不可能な結果を伴う制御不能な紛争の激化」につながる可能性があるとも指摘した。

トランプ氏は米軍として平和維持部隊に提供する可能性のある航空面の役割に関し、戦闘機、防空システム、また監視ドローンなどを含むのかどうかは具体的に述べなかった。同氏は米FOXとのインタビューで「安全保障に関して、欧州側は地上部隊を派遣する用意がある」としたうえで、「われわれは特に航空面で支援する用意がある。なぜなら、われわれが持っているような装備は他にはないからだ」と述べた。

米国防総省は、欧州の部隊を支援するためにウクライナ国外に航空機を配備する可能性がある。これには、同国内の欧州部隊が攻撃された場合の支援のための戦闘機や、和平合意を監視するための監視ドローンが含まれる。米国はまた、欧州部隊や装備などを輸送機で空輸したり、地上配備型防空システムを欧州に提供したり、軍事情報を提供したりすることもできる。

英国とフランスが主導する欧州各国政府は、停戦後にウクライナに派遣される平和維持部隊を支援するよう、数カ月にわたって米国に働きかけてきた。各国は部隊が攻撃された場合、米軍が介入できるという保証がないのであれば、ウクライナに兵力を派遣することに慎重な姿勢を取っている。英国政府はこれを米国の「後ろ盾」と呼んでいる。

ロシア政府による軍事行動の可能性について、NATO加盟国が懸念していることを示す動きも見られる。各国は19日、ロシア軍機がウクライナにミサイル攻撃を行った際、防空システムを含むNATO軍が警戒態勢に入ったと明らかにした。

ポーランド南東部に配備された防空システム「パトリオット」

米軍主導の軍事演習に参加するヘリコプター

NATOは今回の措置について、ロシアのミサイルがウクライナ向け装備の物流拠点を含むポーランドの領空に入る可能性があることを懸念したものだったと述べた。結果的にロシアによるポーランド領空侵犯は発生しなかった。

マルコ・ルビオ米国務長官は18日の欧州首脳らとのホワイトハウスでの会合を受けて、ウクライナ向けの安全の保証に関し欧州側との協議を開始する。当局者らによると安全の保証は、同盟国の1カ国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなすとするNATOの第5条をモデルにしており、ウクライナを支援するとの約束が含まれる可能性もある。

シンクタンク「ランド・ヨーロッパ」のジェームズ・ブラック副所長は、安全の保証に関して米国から信頼に足るコミットメントがなければ、「ロシアに対する効果的な抑止力やウクライナへの安心供与を実現することは難しい」と指摘。ブラック氏は欧州軍について、ロシアとの紛争を続けるために必要な兵たん、情報収集、サイバーセキュリティー、また大規模な精密ミサイルが不足していると述べた。

また平和維持部隊における米国の役割を明確にすることは、ドイツやイタリアなどが不安を持たずに部隊に参加することにもつながる。

フランス当局者らは、政府としてまず3000人から5000人の部隊をウクライナに派遣する可能性があるとこれまでに言及。また英仏の陸軍将校らは4月にウクライナを訪れ、選択肢をすでに検討している。英国は過去数十年間に陸軍が大幅に縮小されていることから、空軍支援の提供に重点を置く可能性が高い。

ジョン・ヒーリー英国防相は4月、「われわれの軍事計画立案者らが取り組む最も難しい課題の一つは、部隊の展開が必要となる状況が明確でないことと、われわれ全員が望んでいる和平合意の詳細が整っていないことだ」と議会で述べていた。