近年注目が高まる「タンパク質を多く含む食品」多く摂ることで糖尿病リスク増大などのデメリットも。摂取量の判断には?

「**は健康によい」「**を食べると痩せる」など、世の中には様々な健康情報が広く流布しており、何が正しい情報なのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授、寺田新教授による共著『よく聞く健康知識、どうなってるの?』から、科学的根拠や理論に基づいた健康知識を一部ご紹介します。

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【グラフ】20歳以上の日本人におけるタンパク質摂取量の推移

タンパク質ってたくさん摂取したほうがよいの?

最近、コンビニエンスストアやスーパーなどで「タンパク質が摂れる!」ということを謳った食品が数多く販売されています。

タンパク質は、骨格筋をはじめとするさまざまな臓器の材料になるなど、私たちにとって欠かすことができない重要な栄養素です。

タンパク質を多く含む食品の盛況ぶりを見ていると、日本人ではタンパク質が大きく不足しているかのように思えてきますが、本当に足りていないのでしょうか?

また、タンパク質を摂れば摂るほど健康になれるのでしょうか?

日本人のタンパク質摂取量の現状

現在の日本人のタンパク質摂取量はどのくらいなのでしょうか? 厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査の結果を下図に示しました。

20歳以上における1日あたりのタンパク質摂取量(平均値および中央値)は、1990年代半ばには80グラム以上あったものが、最近では70グラム程度になっていることがわかります(この摂取量は、1950年代と同じレベルだといわれています)(1)。

では、タンパク質の摂取量が10グラム程度減少したことで、日本人の健康状態が大きく変化したのでしょうか?

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『よく聞く健康知識、どうなってるの?』(著:坪井貴司、寺田新/東京大学出版会)

厚生労働省では、国民の健康の保持・増進をはかるうえで摂取することが望ましいエネルギーおよび栄養素の量の基準として、「日本人の食事摂取基準」を5年ごとに改訂・発表しています(最新版は2025年版)(2)。

タンパク質に関しても「推定平均必要量(50パーセントの人が必要量を満たせる量)」と「推奨量(ほとんど[97.5パーセント]の人が必要量を満たせる量)」という二つの基準が設定されており、18─64歳の男性でそれぞれ50グラムと65グラム、女性では40グラムと50 グラムという値が示されています。

したがって、現在の日本人のタンパク質摂取量は、1990年代半ばに比べると確かに減少しているものの、上記の調査結果を見る限り、大部分の日本人が不足状態に陥るような深刻な状況ではないと思われます。

タンパク質を多く摂ることによるメリット

では、なぜ最近になってタンパク質を多く含む食品が注目されるようになったのでしょうか? 一つの要因として、骨格筋に対する効果があげられます。

近年、若年女性および高齢者における痩せ・低体重が大きな社会問題となっています。低体重者に共通して見られる特徴が、骨格筋量・筋力の減少で、このような状態は将来寝たきり・要介護者になるリスクを大きく増大させます。骨格筋組織の約8割を水分が占めていますが、残りの大部分はタンパク質でできているため、それを多く摂取することで、骨格筋量を増やすことができると期待されているのです。

この点に関して、タンパク質の摂取量と除脂肪量(体脂肪以外の組織量のことで、主に骨格筋量を反映する指標となります)との関係を調査したメタ解析が報告されているので、その結果を紹介します(3)。

このメタ解析では、タンパク質の摂取量と除脂肪量との関係を評価した信頼性の高い105本の研究論文を集めて解析しています(これらの研究に参加した被験者の数は、のべ5000人以上にもおよびます)。その結果、年齢や性別に関係なく、タンパク質の摂取量を増やすことで除脂肪量が増加すること、とくに、1日あたりの摂取量が体重1キログラムあたり1.3グラム程度までは、タンパク質の摂取量に比例して除脂肪量が大きく増加することが明らかとなっています(下図)。

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<『よく聞く健康知識、どうなってるの?』より>

「日本人の食事摂取基準」で示されている日本人の標準的な体重(参照体重)は、男性で64─68キログラム、女性で50─54キログラムですので、体重1キログラムあたり1.3グラムのタンパク質を摂ろうとした場合には、男女でそれぞれ~88グラム、~70グラム程度となり、1990年代に近い水準にまで戻す必要があると考えられます。

加齢にともなって骨格筋量が減少する状態を「サルコペニア」、同様に加齢によって心身の機能が衰えた状態に陥ることを「フレイル」と呼びますが、そのような状態になるのを防ぐためのタンパク質の1日あたりの目標摂取量として、総エネルギー摂取量の13─20パーセント(身体活動量が「普通」の18─29歳の男女では、それぞれ85─130グラム、63─98グラム程度)という値が「日本人の食事摂取基準」でも示されています(2)。

とくに、高齢者では、摂取したタンパク質から骨格筋を作り出す能力が若年者に比べて低下しているので、タンパク質の摂取量をさらに増やすことが重要になるという意見もあります(4)。ちなみに、骨格筋量が競技成績を大きく左右するスポーツ選手に対しては、体重1キログラムあたり1.2─2.0グラム/日という摂取量が推奨されています(5)。

タンパク質を多く摂ることによるデメリット

以上のように、タンパク質を多く摂取することで骨格筋量が増加し、将来サルコペニアやフレイルになるのを防ぐことが期待できそうです。しかしながら、私たちの健康状態は骨格筋量だけで決まるものではありません。それでは、タンパク質の摂取量とその他の生体機能との関係については、どのような研究結果が報告されているのでしょうか?

実は、タンパク質を多く含む食事は、糖尿病などを発症するリスクを増大させるという研究結果が報告されています。たとえば、ヨーロッパで約4万人を対象として行われた大規模調査では、炭水化物(糖質)もしくは脂質の摂取量を減らすかわりに、タンパク質の摂取量を増やす(タンパク質からのエネルギー摂取量を5パーセント程度多くする)ことで、2型糖尿病(i)の発症リスクが~30パーセント増大するという結果が報告されています(6)。

逆に、タンパク質の摂取量を減らすことは、糖尿病予防のための有益な手段になりうるという結果も報告されています。たとえば、エネルギー摂取量が同じ食事でも、タンパク質からのエネルギー量が全体の7─9パーセントとなるような食事を約6週間摂取した人(過体重~軽度肥満の中年)では、体重が2.6キログラム減少し、空腹時血糖値も低下したのに対して、タンパク質が総エネルギー摂取量の~17パーセントを占めるような食事を摂取した人では、そのような効果は認められなかったという研究結果が報告されています(7)。ちなみに、この「総エネルギー摂取量の7─9パーセント」という値は、沖縄の百寿者のタンパク質摂取量に近い値となっています。

減量・ダイエットを行った際には、体脂肪量だけを減らすことが望ましいのですが、骨格筋をはじめとする除脂肪組織も減少してしまうことがあります。そのような除脂肪組織の減少を最小限にとどめるために、減量中にはタンパク質を多く摂取することが推奨されています。

しかしながら、肥満者を対象として行われた研究では、減量期間中のタンパク質摂取量が通常の食事と同じ場合(0.8グラム/キログラム体重/日)には、体重を10パーセント減らすことで、インスリンの効き目がよくなり、血糖値が低下しやすくなった(インスリン感受性が改善した)のに対して、タンパク質量の多い食事(1.3グラム/キログラム体重/日)を摂取しながら減量を行った肥満者ではそのような効果が得られなかったことが報告されています(8)。つまり、タンパク質を多く摂取した肥満者では、体重や内臓脂肪が顕著に減少したにもかかわらず、依然として2型糖尿病の発症リスクが高いままだったのです。

さらに、アメリカで行われた国民健康・栄養調査においても、高タンパク質食(総エネルギー摂取量のうち20パーセントもしくはそれ以上がタンパク質で構成されているような食事)を摂取している50─65歳の男女(6381名)では、低タンパク質食を摂取している人たちに比べて、18年間の追跡調査期間中における死亡率が75パーセントほど高く、さらにがんおよび糖尿病による死亡率も4倍高かったことが報告されています(9)。

以上のように、確かに骨格筋量を増やすという点においては、タンパク質を多く摂取することが効果的といえそうですが、その一方で、糖尿病の発症率や死亡率といった点においては、むしろ好ましくない影響をもたらす可能性があることが示唆されています。体のある一部の機能に対して優れた効果が得られることが報告されると、私たちは、その栄養素を少しでも多く摂取しようとします。

しかしながら、その栄養素を過剰に摂取することで、別の部分ではむしろ悪影響が生じる可能性もあります。したがって、世間で有効だといわれている栄養素に関しても、「他の部分に対してはどのような影響があるのか?」ということに注意を払いながら、摂取量を増やすべきか否かを冷静に判断する必要があります。

(i)過食や運動不足などが原因で発症する糖尿病で、一般的に生活習慣病と称されるタイプのものをいいます。一方、1型糖尿病は、主に自己免疫反応によってインスリンの分泌を担う膵臓のβ細胞が破壊されることが原因で発症する糖尿病を指します。

プラスとマイナスの両方の影響

ところで、タンパク質は、なぜこのようなプラスとマイナスの両方の影響をもたらすのでしょうか?

タンパク質を摂取した際に生じる細胞内の変化を下図に示しました。食事などで摂取したタンパク質はアミノ酸に分解(消化)され、体内へ吸収されます。そのアミノ酸(とくに、ロイシンと呼ばれるアミノ酸)によってはたらきが高まる細胞内の分子の一つにmechanistic target of rapamycin(mTOR)という酵素があります。

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<『よく聞く健康知識、どうなってるの?』より>

このmTORは、骨格筋においてタンパク質の合成を高める作用をもつ一方で、活性酸素による影響を予防・抑制する酵素(抗酸化系酵素)の量を減少させたり、DNAの修復を阻害したりする作用をもちます(10)。このように、タンパク質を多量に摂取した場合には、mTORという分子を介して、プラスとマイナスの両方の影響が生じると考えられています。

したがって、「筋肉を増やすために、タンパク質を多く摂ればよい」と単純に考えるのではなく、自分の体質や状況(筋量を増やすことを優先すべき状態なのか? それとも糖尿病などの代謝性疾患の発症を予防すべき状態なのか?)を見極めながら、その摂取量を調整する必要があると思われます。

【参考文献】

(1) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html

(2) 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf

(3) Tagawa, R. et al., Nutr. Rev., 79 : 66─75, 2020.

(4) Robinson, S. M. et al., Clin. Nutr., 37 : 1121─1132, 2018.

(5) Thomas, D. T. et al., Med. Sci. Sports Exerc., 48 : 543─568, 2016.

(6) Sluijs, I. et al., Diabetes Care, 33 : 43─48, 2010.

(7) Fontana, L. et al., Cell Reports, 16 : 520─530, 2016.

(8) Smith, G. I. et al., Cell Reports, 17 : 849─861, 2016.

(9) Levine, M. E. et al., Cell Metabolism, 19 : 407─417, 2014.

(10) ルイージ・フォンタナ(寺田新訳)『科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド』,東京大学出版会,2022.

※本稿は、『よく聞く健康知識、どうなってるの?』(東京大学出版会)の一部を再編集したものです。