「私以外に誰がこの難局を乗り切れるのか」石破総理が選挙に惨敗しても「引責辞任」をしない衝撃の理由

石破総理が自分こそがこの局面での総裁に適任だと考えているわけ

「なぜ私の足を引っ張るのか」――石破首相は旧安倍派に対する怒りを隠さなくなっているという

「落ちつけば党内の雰囲気も変わる」

参院選でも大敗し、自民党内で高まる「石破おろし」の最中、石破茂総理(68)は周囲にそう語り、続投に向けて気勢を上げている。

8日の両院議員総会で臨時の総裁選開催の意向確認が決定した後も辞任圧力は強まる一方だ。だが、党内の「石破おろし」とはうらはらに報道各社の世論調査は石破政権に好意的な数値が出ている。

時事通信の8月世論調査で、参院選の結果を受けて石破氏は辞めるべきか尋ねると、「思う 36.9%」よりも「思わない 39.9%」が上回っている。支持率も6.5ポイント増の27.3%に上昇。各社の調査も同様で、自民党内の「石破おろし」に対しても「納得できる」より「納得できない」が上回る。石破氏が長年温めてきた「コメの増産方針」にも世論の8割近くが賛成と出ている。

さらに金曜夜に自民党本部前で開催される「#石破辞めるな」デモも数百人規模で開催されている。「辞任すべきではない」との世論の声を追い風に石破氏は続投の意を強めているという。

「総理のロジックでは、政治とカネの問題や旧統一教会の問題など旧安倍派が引き起こした“負の遺産”に発足当初から苛まれてきた。旧安倍派こそが責任の張本人なのに『石破おろし』を主導し、旧態依然とした自民党の体質を解決するどころか足を引っ張る。仮に自分が辞任してしまえば、旧安倍派の裏金議員たちを復権させることになる。

国会に目を向けても安倍政権下では数の力で強引に押し進めてきた。それに対して自分は通常国会では政策ごとに野党と膝詰めで話し合い、補正予算、本予算などを成立させ乗り切った。『(私以外に)誰がこの難局を乗り切れるのか』『自分たちの復権ばかりを考えている人たちに負けるわけにはいかない』と旧安倍派への怒りを隠さなくなり、自発的な辞任は考えづらい」(官邸スタッフ)

党内では昨年の衆院選で大敗し、参院選でも大敗したことで「選挙結果を受け止めろ」と引責辞任の声は消えない。綱引き状態が続くなか、反石破派が頼りとするのは臨時の総裁選を開催することだ。

投票に記名が必要になるだけで「石破派有利」に?

記者の質問に答える逢沢一郎総裁選挙管理委員長

8月19日、自民党の総裁選挙管理委員会が臨時総裁選の実施の判断に向けて初会合を開催。当初1時間の予定が1時間45分とずれ込み、会合後、委員長の逢沢一郎衆議院議員(71)はこう語った。

「良い意味でスピード感は必要だ。同時に厳正に慎重に制度設計をして間違いのない意思確認を行っていく」

今回の会合は8日の両院議員総会で党則6条4項に基づく臨時総裁選開催の可否を検討することを決定したことによるもの。任期満了前の臨時総裁選実施は自民党史上、過去に例がない。臨時総裁選の開催の是非は、所属国会議員295人と都道府県連の各代表47人の過半数の要求があれば実施される。

総数は342人であるため172人以上の求めが必要となる。過半数の要求で総裁選の前倒しは可能であるが、開催への詳細な規定はなく、意思表明は「投票か書面か」「記名か無記名か」など細かい制度設計の話をつめることから会合は始まったという。委員の一人は匿名を条件にこう語る。

「会合では記名か無記名かを巡って議論となった。総裁選のように皆で集まって無記名で投票し、開催の賛否を問う意見が上がるも、逢沢委員長が『(臨時の総裁選開催は)総裁の地位にかかわることで、厳正にやらねばならない。誰が書いたのかわからない投票は好ましくない』と疑問を呈した。議員への意思確認は書面での回答で著名と捺印も併せて求める案が出た」

まだ協議の最中だが、無記名での回答になることはなさそうだ。仮に記名回答となれば、反石破派は不利となる。過半数に届かず総裁選が不開催となれば、石破政権の続投となり、総裁選の開催に賛成したものが人事で干されることは目に見えているからだ。

「8日の両院議員総会の時点では大まかに半数超が総裁選開催派で、石破擁護派は多くとも2割、中間派が3割ほど。記名となれば中間派議員への影響は少なくない。副大臣や政務官、党の役職に付いている議員は総裁選開催に賛成するなら役職を辞するのが筋ともなろう。参院選大敗の熱が冷めないうちに中間派議員をとりこみたい反石破派にとって時間をかければかけるほど不利な状況となる」(同委員)

総裁選挙管理委員会は協議を急ぎつつも、議員への意思確認が行われるのは、9月初旬にとりまとめが行われる参院選の総括を経た後の9月上旬以降となる見込みだ。

それまでの間に19日、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が官邸を訪問。20日、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が横浜市で開幕。8月下旬から外交日程が続く石破氏にとってまたとないPRと重なる。

「23・24日には韓国の李在明大統領が来日し、日韓首脳会談を開催。インドのモディ首相は29~30日の日程で訪日予定。9月23日からニューヨークで国連総会が開催される。国連総会一般討論演説に向けた総理のスピーチの準備が進んでいる。

安倍元総理が得意としていたが、成果がなくとも海外の要人と会談すると“やってる感”で支持率は上がるもの。支持率が上昇すれば、党内だけでなく、野党も対応を変えざるを得なくなる。

反石破派は『石破おろし』を叫んでいるだけで、誰を『ポスト石破』に選ぶのかを決めていない。新総裁の下で、国会対策として連立をどうするのかなどの戦略も打ち出せていない。ただ、世論調査が良くとも選挙結果は消えたわけではない。惨敗の結果を遠ざけ党内の理解をどこまで得られるのか」(前官邸スタッフ)

参院選大敗で風前の灯ともいえた石破政権。前例のない臨時の総裁選へ突入するのか、世論を背景に持ち直すのか。どちらにせよ自民党内の争いで、これこそが国難と言えるのではないだろうか。

総裁選の行方はどうなっていくのだろうか

総裁選の選挙管理委員のメンバー

取材・文:岩崎 大輔