「戦争の反省」発言で石破首相にブチギレる人が気づいていない《慰安婦問題》との相似とは?

Photo:JIJI
「戦争の反省」騒動に火をつけた
“意外すぎるメディア”とは?
「何が反省だ、バカやろう! もう日本に反省するところなんて1ミリもないだろ!」
「こいつ完全にやらかしやがった、これでまた中国に足をすくわれるぞ!」
参院選の敗北から「醜い生き物」「権力に固執して見苦しい」などと罵詈雑言(ばりぞうごん)のサンドバック状態にある石破茂首相が、ここにきてついにネットやSNSで「国賊認定」をされてしまった。
8月15日に開かれた全国戦没者追悼式での式辞で、2012年の野田政権以来、歴代首相が封印してきた「反省」というNGワードを口にしたと報じられた。これにより、「日本の国益を著しく損ねる」「中国や韓国につけ入る隙を与えた」と、石破首相はこれまで以上にボロカスに叩かれているのだ。
愛国心あふれる人々、保守の皆さんのお怒り、憤りは痛いほどわかる。が、本当に日本のことを愛しているのならば、「反省」の2文字ごときでそこまで目くじらを立てない方がいい。
実は今回の騒動、マスコミ報道を鵜呑みにすることなく事実を冷静にふりかえってみると、靖国問題や従軍慰安婦問題の成り立ちと非常によく似ていることに気づく。それは一言で言い表すとこうなる。
「中国や韓国側が特に問題視していなかったことを、日本の左派メディアが鬼の首をとったかのように報じて、それに過剰反応した保守や右翼が猛反発することで、中国や韓国も外交カードとして利用する」
わかりやすいのは、靖国問題だ。もともと戦争で亡くなった軍人を祀る神社のことなど中国も韓国もまったく気にしていなかった。どの国にも似たような施設はあるからだ。しかし、靖国神社が東条英機元首相らいわゆる「A級戦犯」を合祀(ごうし)したことを、朝日新聞が「大問題」として煽ったことで、それが海を渡って中国や韓国にまで伝わった。中韓は「こりゃ外交カードに使えるじゃん」と考えたのだ。
今回の「13年ぶりの反省復活」も同じにおいがプンプンする。
左派メディアの煽りを真に受けて、保守の皆さんが石破首相を口汚く罵れば罵るほど、中国や韓国は「へえ、日本の首相は反省を口にするだけでここまで叩かれるのか」と思うだろう。すると「じゃあ気に食わないヤツがいたらどんどん反省を求めていくか」となるのは自然の流れだ。

韓国・ソウルの日本大使館跡地付近に建つ慰安婦像 Photo:JIJI ▼「この記事を読む」から続きが読めます▼
一方、石破首相がここまで叩かれているのを見たら次期内閣は「反省」を封印する。
そうやってガードをかためるほど、中国や韓国としては「日本は右傾化している」「戦争を正当化しはじめた」などとネチネチと叩き続けることができる。
13年前までは誰も問題視していなかった「反省」という2文字が、今回の騒動によって靖国・従軍慰安婦問題のような「国際問題」へと格上げされてしまったのだ。
「そんな陰謀論を信じられっかよ」と冷笑する保守の方たちも多いだろうが、この政治的イシューの火付け役を見れば、笑ってもいられないはずだ。
それは「朝日新聞」と「毎日新聞」である。
そもそも今回、石破首相が炎上したきっかけは8月15日に両紙がほぼ同じタイミングで流した「速報」である。
石破首相「反省」、戦没者追悼式の式辞で 強い思いで13年ぶり復活(朝日新聞 8月15日 11時59分)
石破首相、式辞に13年ぶり「反省」復活 全国戦没者追悼式(毎日新聞 8月15日11:58)
ご存じのように、「全国戦没者追悼式」は先の戦争で亡くなった日本人戦没者に対して行われる政府主催の追悼式で正午には黙祷(もくとう)が行われる。その1〜2分前に日本を代表するサヨ…ではなくリベラルメディアのツートップが大慌てで「速報」を打った形だ。
そう聞くと“妙な違和感”を覚える人もいるのではないか。今、保守や愛国心あふれる人々が激怒をしていることからもわかるようにイメージ的には、石破首相の「13年ぶり反省復活」に即座に反応して、「皆さん、首相が問題発言をしましたよ!」と速報を出すのは保守メディアの役目である。
しかし、読売新聞が報じたのは朝日、毎日から遅れること18分の12時17分、産経新聞にいたっては1時間遅れの12時57分だ。
なぜ保守メディアと左派メディアの「逆転」が起きたのか。「単に朝日と毎日の記者が優秀で早く原稿を送ったんじゃない?」と思う人もいるだろう。
確かにその可能性もゼロではない。だが、個人的には朝日と毎日がここまで露骨に「反省復活」を大袈裟(おおげさ)に煽ったのは、中国やアジア諸国に対して「みなさん、日本政府は“反省”という言葉でお茶を濁そうとしてますよ」と“ご注進”することで国際問題化させて最終的には「反省以上」を求めていくためではないかと考えている。
それを窺えるのが両紙の社説だ。
朝日新聞は16日付の社説で「アジア諸国への加害責任には触れておらず、何を反省し、教訓とするのかは明確でない」と石破首相を批判。さらに「首相談話を出すべきだった」という。
これは毎日新聞も同様だ。というか、「何を反省し、教訓とするのかについては、曖昧に述べただけだ。日本が侵略し植民地支配したアジア諸国への加害責任には触れていない」とまるで示し合わせたかのようなお説教が並んでいる。
つまり「13年ぶり反省復活」を大きく報じたのは好意的な評価をしているからではない。タチの悪いカスハラ客のようにこの言葉をきっかけに「反省って言うけど、何について反省しているのか具体的に言えよ」とさらに追いつめて、どうにかして「加害責任」まで言及させようというのが朝日・毎日の狙いなのだ。
実はそんな両紙の煽りをモロに利用している人々がいる。そう、中国共産党だ。
《中国国営通信社・新華社は「日本投降80周年 石破茂重提“反省”戦争却避談加害責任」(日本降伏80周年 石破茂、戦争の「反省」を改めて提起するも加害責任を語らず)と題した記事を配信した》(wedgeオンライン8月19日)
実は朝日・毎日・中国共産党がこだわる「加害責任」をやめたのは安倍元首相である。2013年、やはり全国戦没者追悼式でこれまでの首相が口にしてきた「加害責任」と「不戦の誓い」に触れなかった。これを問題視したのは左派マスコミ、そして中国共産党である。
《国営新華社通信は「戦争の『加害責任』と『不戦の誓い』に触れなかったのは驚愕させられる」「世界は安倍政権の憲法改正と右傾化を阻止しなければならない」などと批判しました》(テレ朝NEWS 2013年8月16日)
今回の石破首相の式辞も「加害責任」には触れていない。朝日や毎日のミスリードによって、石破首相がなにやら急に「土下座外交」のようなことを始めたように誤解をしている人も多いが、実は安倍元首相以降の歴代の方針を踏襲した極めて「無難な式辞」なのだ。
…なんてことを言うと、愛国心あふれる人たちの中には「何が無難だ!日本の首相が戦争を語る文脈で“反省”を口にすることがどれほど危険なことかわからないのか!」とキレてしまう方も多いだろう。しかし、実はそこにもミスリードがある。
皆さんが「中韓に強気な姿勢を貫いた保守政治家」として今も心の拠り所にしている安倍晋三元首相も「戦後70年首相談話」のなかで「反省」をちゃんと口にしている。この姿勢は日本政府として揺るぎないと明言しているのだ。
我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。
こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。(2015年8月14日 内閣総理大臣談話)
冒頭で筆者が「反省の2文字にそこまで目くじらを立てるべきではない」と申し上げたのは、これが理由だ。
石破首相が「反省」を口にしているのは、親中でも反日左翼だからでもない。安倍元首相が70年談話の中で述べた「痛切な反省と心からのお詫びを表明してきた歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」というスタンスを踏襲しているに過ぎないのだ。
このあたりについては日本経済新聞社の大石格編集員の『安倍談話は村山談話を否定していない 「80年談話は不要」の真意』(Nikkei Views 8月13日)が非常にわかりやすく解説しているので、「反省など許せない」と怒っている人ほどお読みいただきたい。
強い憎悪で国を割る
“日本の敵”が使う常套手段
さて、このような話を聞いていると、「歴代内閣の方針を踏襲しているだけで、しかも安倍さん同様に加害責任も言及していないのに、なんで石破首相はこんなに叩かれるの?」と不思議に思う方もいるだろう。それはシンプルに「権力闘争」のためだ。
ご存じのように、安倍元首相が亡くなってからいわゆる「保守」の政治勢力は弱体化してしまった。先の参院選でも旧安倍派は苦戦し、2024年の自民党総裁選で高市早苗衆議院議員の推薦人として名を連ねた方たちもかなり落選してしまった。
では、そんな保守勢力が再び輝きを取り戻すにはどうすればいいのか。昨今の世界的なトレンドを見ると、「敵をつくって有権者の怒りを煽る」が王道だ。
外国人への不平不満を訴えて躍進した参政党やドイツのAfD(ドイツのための選択肢)、ディープステートに対する不信感で政権に返り咲いたトランプ氏などの例を出すまでもなく「強い支持」には「強い憎悪」が必要なのだ。
ここまで言えばおわかりだろう、日本の保守勢力の復活のためには、かつての民主党政権のように「日本を貶める売国政治家」が必要。そして、それが石破首相なのだ。
いずれにせよ、今回の朝日と毎日が火付け役の「反省復活」を真に受けて、石破首相を叩くほうが日本の国益を損ねる。
先ほどから申し上げているように、全国戦没者追悼式という国内イベントで「反省」を口にすることなど大した問題ではない。歴代内閣の立場を踏襲しているだけで実際、中国国営メディアも「反省」というワードのある・なしなど問題視していない。
しかし、今のように日本人があまりに大騒ぎをすれば、中国などは「日本の首相に反省を言及させること」に価値を見出しかねない。彼らからすれば、国内世論が分断して保守の首相叩きが始まる便利な政治カードが一枚増えたようなものだ。
アメリカや旧ソ連など大国の対外工作活動を見れば明らかだが、敵国の力を弱めるということで最も効果的なのは「内紛を仕掛ける」ということだ。
ストレートに言えば、反政府運動や革命組織などに武器や資金を与えて、国民同士を対立させる。互いに潰し合っているのを、高みの見物をしていればいい。あとは生き残った政治勢力をサポートするか、もっと煽って暴走をさせるか。いずれにせよ、自分たちの手を汚さずに、国力を低下させるには最も賢いやり方だ。
実際、旧ソ連のコミンテルンも日本の陸軍内部に働きかけて、対中戦争を煽っていたという「説」もある。
そう考えると今の日本も怪しい。「反省」などこれまでの首相も当たり前に使っていたワードを、いきなり左派メディアが大騒ぎし始めた。右翼的な人々が怒りに震えて、反政府感情も高まっている。石破首相に心の底から消えてほしいという「愛国者」もたくさんいるはずだ。
80年前からナショナリズムを過度に煽られた時の日本人は危ない。
「この売国奴め!」「そっちこそデマに踊らされた排外主義者だろ」なんて罵り合っていると、自分こそが「真の愛国者」になっているようで気持ちがいい。
しかし、今は日本人同士でもめている場合なのか。日本国内の世論が分断されることで「漁夫の利」を得るのは一体誰なのか、ちょっと立ち止まって冷静に考えてみてはいかがだろうか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
