露の「時間差攻撃」の標的、ウクライナ消防士はそれでも救助へ…「生き残った意味は市民守るため」

ロシアによる無人機やミサイル攻撃が続く中、活動を続ける第18消防救助隊のオレクサンドル・ドマロフさん(4日、キーウで)=冨田大介撮影

 ウクライナ侵略を続けるロシア軍は、「ダブルタップ」と呼ばれる攻撃手法を多用している。一度攻撃し、負傷者の救助に駆けつけた人たちを狙って時間差で再び攻撃を加える方法で、被害を拡大させる狙いがある。標的とされる消防士や救助隊員は、市民の命を救うため、それでも現場へ駆けつける。(キーウ 倉茂由美子)

 キーウを管轄する国家非常事態庁の「第18消防救助隊」。8月上旬、出動のサイレンが鳴ると、消防士のオレクサンドル・ドマロフさん(39)は同僚3人の遺影が飾られたテーブルにそっと手を置き、車庫へ向かった。3人は6月、活動中に露軍のダブルタップ攻撃で殉職した。3人の中には、ドマロフさんのおい、アンドリー・レミンニさん(当時28歳)もいた。

 「あれは過去最悪の夜だった」

 6月6日午前1時頃、商業施設が無人機攻撃を受け、ドマロフさんは現場へ向かった。上空には、また別の無人機が約10機飛来。シェルターに隠れて行き過ぎるのを待ち、消火活動を始めると、レミンニさんが乗ったはしご車が到着した。

 「手伝うよ」と駆け寄ってきてくれたレミンニさんに、「あっちを頼むよ」と持っていたペットボトルの水を投げた。キャッチしたレミンニさんはにっこり笑い、仕事に取りかかった。

 爆発音が響いたのはその直後だった。1発目でドマロフさんのヘルメットが吹き飛び、直後の2発目で体が強く打ち付けられた。意識が遠のく中で、レミンニさんの姿を必死に捜したが、どこにも見当たらなかった。50メートル先まで吹き飛ばされていたためだった。

同僚失っても現場へ

 ウクライナの首都キーウを6月6日に襲ったロシア軍による時間差の「ダブルタップ」攻撃で、第18消防救助隊のオレクサンドル・ドマロフさん(39)は、おいのアンドリー・レミンニさん(当時28歳)を含む同僚3人を失い、自身も負傷した。

 レミンニさんらの殉職を知ったのは、ドマロフさんが病院で意識を取り戻した時だった。これまで、幼い子どもの遺体を扱う時が一番つらいと思ってきたが、それとは全く別の、悔しさと怒り、罪悪感に襲われた。

 レミンニさんは、ドマロフさんの誘いで同じ消防士の道を選んだ。勇敢で人の役に立とうとする性格だった。あの時も、レミンニさんの業務でははしご車の中で待機することもできたが、消火活動に加わった。「手伝いを頼まなければ。消防士の仕事を勧めなければ……」と自責の念に駆られると同時に、「自分も死んでいたかもしれない」と恐怖に襲われた。

 それでも迷わず職場に復帰した。復帰翌日には、同隊の拠点周辺にミサイル2発が撃ち込まれ、攻撃は容赦なく続いた。だが、「市民を守るために働く人が絶対に必要だ。自分が生き残った意味はそこにある」との思いを強くしている。

 戦争犯罪を調査しているNGO「トゥルース・ハウンズ」は昨年10月、ロシア軍がウクライナ侵略開始から昨年8月末までの2年半に、少なくとも36回のダブルタップ攻撃を行ったとの調査結果を公表した。

 ウクライナメディアによると、昨年12月時点で死亡した国家非常事態庁の救急隊員らは99人。そのうち活動中のダブルタップ被害は34人に上る。その後も、同様の被害は続いている。

 ロシアはシリアの内戦ですでにこの手法を利用していた。シリアのアサド政権(当時)を支援して内戦に介入し、反体制派地域で活動していた救助団体「シリア民間防衛隊(ホワイト・ヘルメッツ)」を標的とした。同隊によると、死亡した隊員約300人のうち、多くが活動中に攻撃を受けていた。

時限爆弾 死目前

被害現場でがれきの撤去や救出活動を担うペトロ・サフカさん(15日、キーウで)=冨田大介撮影

 「ロシアはより効率的に人を殺す方法を常に学び続けている」

 被害現場でがれきからの救助作業を担う緊急救助隊員のペトロ・サフカさん(25)はこう語った。最近、露軍による無人機攻撃の「進化」を実感しているという。

 今年3月、無人機攻撃があった現場で約1時間後に救助活動を始めようとした時、突然がれきのあちこちで爆発が起きた。1発目の無人機攻撃の際、同時に時限爆弾をまき散らしていた。「がれきの中では、爆弾があっても見つけることもできない。あと少し早く活動を始めていたら、全員が死んでいたかもしれない」と話す。

 それでも、現場に出れば一切の恐怖心を捨てる。感情にとらわれては冷静な判断ができず、仲間をさらに危険にさらすことになるからだ。がれきの下から生存者を救出できる確率は極めて低いが、「たとえ助けられなくても、遺族の元に家族を返し、埋葬してもらうことも重要な務めだ」と語った。

眠れぬ夜 地下駅へ…空襲続くキーウ

空襲警報が発令され、地下鉄の駅に避難してきた人たち(4日夜、キーウで)=冨田大介撮影

 ロシア軍が無人機やミサイルによる空襲を連日行っているウクライナでは、市民の眠れぬ夜が続き、疲労が色濃くなっている。長期戦を耐えるため、睡眠を確保しようと模索が続く。

 4日夜のキーウ。空襲警報が鳴り、地下鉄の駅に市民が集まり始めた。約30分後に警報は解除されたが、その後も寝袋やキャンプ用のベッドなどを抱えた人たちがホームへ降りてきた。多くの人が朝まで過ごすという。

 近くに住むタマラさん(79)は夫(79)と孫(20)と避難し、「定位置」に椅子やベッドを組み立てた。近所にミサイルが落ちた際に自宅の壁にひびが入り、「次に衝撃があれば崩れる。怖くて眠れない」と駅で寝るようになった。食品小売店に勤めるルドミラ・フラマルチュクさん(39)は、夫(37)と長女(9)と猫を連れて2か月前から毎日駅で寝ている。「警報の度に避難したのでは、寝不足で日中頭が働かない。寝心地よりも睡眠時間が大事」と話した。