ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈され、米政権が慌てた瞬間とは
ロシア海軍の旗艦が沈没
ロシアのプーチン政権がウクライナへの全面的軍事侵攻を開始してから間もない2022年4月のこと。ウクライナ海軍の攻撃により、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没を遂げた。これについて、当時、バイデン政権の当局者が顔色を変えたという報道が『ニューヨーク・タイムズ』紙によってなされた。しかし、ウクライナ海軍はこれを否定した。
「モスクワ」撃沈に対する米国の反応
『キーウ・インディペンデント』紙によれば、ウクライナ海軍のドミトロ・プレテンチュク報道官はウクライナ公共放送に対し、「その情報はまったく裏付けが取れていません」とコメント。
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沈没の原因は
同報道官はさらに、ウクライナが黒海でこの戦果を挙げた理由について、米情報機関の協力のほかにもいくつかの要素があるとした。
画像：Wiki Commons By George Chernilevsky, Own Work, Public Domain
刻一刻と変化する戦況
プレテンチュク報道官いわく：「当時は本格的な侵攻が始まったところで、戦況は陸上でも海上でも、さまざまな判断や指針などによって、刻一刻と変化していました」
ウクライナ製ミサイルで攻撃
2022年4月13日、ウクライナ軍は国産の対艦ミサイルでロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を攻撃、これを撃沈した。ウクライナを電撃的に攻略しようと狙っていたプーチン政権にとって、言うまでもなく大きな痛手となった。
印象的な大戦果
「モスクワ」の沈没はウクライナが強大なロシアに立ち向かうことができると示す、印象的な大戦果となった。では、ウクライナ支援に熱心だったはずのバイデン政権（当時）がこの戦果に当惑したというのは一体、どういうことなのだろう？
米当局者の意外な反応
『ニューヨーク・タイムズ』紙は今年3月29日付の記事の中で、「モスクワ」の撃沈を知ったバイデン政権の関係者が激昂し、慌てふためいたと報じた。
ウクライナと米国の不安定な関係
同紙いわく：「（「モスクワ」の）撃沈は目覚ましい戦果であり、ウクライナ軍のスキルとロシア軍の無能さを示すものだった。しかし、この事件は開戦から数週間の時点における、ウクライナと米国の不安定な関係を反映していた」
レーダー画面に現れた予期せぬ目標
報道によれば、ウクライナ海軍の当局者らが普段どおり、米当局と電話で情報交換を行っていたところ、レーダーの画面に予期せぬ標的が現れたらしい。これが「モスクワ」であると判明すると、ウクライナ軍はただちに国産の対艦ミサイル「ネプチューン」で攻撃を仕掛けたのだ。
画像：Wiki Commons By President.gov.ua, CC BY 4.0
米国が「モスクワ」を発見
『ニューヨークタイムズ』紙の取材に応じた米高官いわく、「米側が『これは「モスクワ」だ！』というと、ウクライナ側は『なんてこった、ありがとう。ではまた』と答えた」とのこと。「モスクワ」が沈没したのはその直後だ。
米当局の反応
ところが、米側は「モスクワ」攻撃を事前に知らされていなかったことに激怒。さらに、ウクライナ軍が高性能な対艦ミサイルを保有していたことに驚いたほか、「モスクワ」という「強大なロシアの象徴」を攻撃するつもりはなかったため、慌てふためいたという。
画像：Wiki Commons By Mil.ru, CC BY 4.0
ロシア海軍の象徴
確かに、「モスクワ」は黒海におけるロシア海軍のプレゼンスを象徴するものだった。乗組員510人を擁するスラヴァ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」はそれまで、ウクライナ領の奥深くに向かってミサイルを発射することができたのだ。
「ロシア軍にとっては痛手」
ロイター通信は当時、「老朽化してはいたが、同艦はクリミア半島を拠点とする黒海艦隊およびロシア海軍の誇りを象徴するものであり、（撃沈は）ロシア軍にとって痛手となった」と報道。
1941年以来となる大型戦艦の喪失
ロシアが大型戦艦を戦闘によって失ったのは、1941年にドイツ軍の急降下爆撃機によって旧ソ連の戦艦「マラート」が撃沈されて以来の出来事だった。しかし、「モスクワ」の撃沈は戦術的な成果以上の意味を持っていた。
画像：Wiki Commons By Unknown Luftwaffe photographer - Stanley, Roy M., Col. Eastern Front Images, Public Domain
スネーク島でのエピソード
「モスクワ」はスネーク島に駐留していたウクライナ軍の守備隊に降伏を呼び掛けたことで知られている。このとき守備隊は断固、ロシアに抵抗する姿勢を見せ、ウクライナ国民の戦意を高めることとなった。
「モスクワ」による降伏勧告
CNN放送によれば、「モスクワ」は無線でウクライナ兵らに向かって、「こちら、ロシアの軍艦。諸君には無用な流血や犠牲を避けるため、武器を置いて降伏するよう勧める。さもなくば、爆撃を覚悟したまえ」と伝えたという。
「くたばってしまえ」
これに対し、ウクライナ軍の守備隊は「ロシアの軍艦など、くたばってしまえ」と返答。ロシア軍はその直後にスネーク島を占領したため、ウクライナ側の守備兵は当初、全滅したと思われることになった。
無事に帰国した兵士も
ゼレンスキー大統領は当時、「守備隊員は最後まであきらめず、英雄的な死を遂げました。ウクライナ英雄の称号が追贈されるでしょう」とコメント。しかし、実際には全員が戦死したわけではなく、捕虜交換によって無事に帰国した兵士もいる。
画像： Wiki Commons By Press service of the Regional State Administration, CC BY 4.0
黒海における戦況が一変
さて、黒海におけるロシア海軍の象徴を撃沈したことは、ウクライナにとってイメージ戦略の上で大きな意味をもったばかりか、黒海での戦況が一変するきっかけにもなった。「モスクワ」撃沈の後、ウクライナ軍はロシア軍の船舶を立て続けに沈没、破損させていったのだ。
ロシア海軍は自信喪失
『キーウ・ポスト』紙いわく：「ロシアは軍事的な痛手を被った上、自信を打ち砕かれた。実際、『モスクワ』撃沈を受けて、ロシアの黒海艦隊はウクライナ沿岸部から離れた地域に移動している」
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7億5,000万ドルの損害
また、『キーウ・インディペンデント』紙によれば、「モスクワ」の沈没によってロシア軍は7億5,000万ドルの損害を被ったが、ロシア側は当初、そのことを隠そうとしていたという。しかし、ロシア海軍の旗艦が沈没したのは日露戦争以降では初めてとなる一大事であり、隠しおおせるはずがなかった。
