元Mrs. GREEN APPLEの山中綾華が語る「ドラム一筋の私が超難関の国家試験に合格できた《理由》」

〈《社労士×ドラマー》の山中綾華が絶賛!「私がお手本にしたいマンガです」〉から続く

 人気バンドMrs. GREEN APPLEを脱退した後、社会保険労務士(社労士)になることを決意した山中綾華さん。合格率6%の超難関の国家試験に挑むも、1回目は不合格。その後、社労士事務所で働きながら猛勉強をし、翌年の2度目の試験で見事合格を勝ち取った。

【マンガ】《社労士×ドラマー》の山中綾華さんが絶賛! 「ひよっこ社労士のヒナコ」第1話 前編を読む

 折も折、きたる8月24日は年に一度の社労士の国家試験日。合格までの経緯や対策について、山中さんに詳しくお聞きした──。(全2回の2回目/ 最初から読む )

「ライスワーク」を探す, 1回目の試験は不合格, ドラマーとしての経験が役立つ, “二刀流”を目指す

山中綾華さん 写真・橋本篤

「ライスワーク」を探す

──社労士を目指された動機について、教えていただけますか。

山中 バンドを脱退した後、自分を見つめる時間が増えたんです。そこで自分のキャリアについて真剣に考えました。ドラムは自分の中で「ライフワーク」として続けたいと思った一方、お金を稼ぐための「ライスワーク」が必要だと考えたんです。

 私は高校卒業後、音楽の専門学校に進み、そこからすぐにバンド活動を始めたので、社会経験がほぼゼロでした。同年代の人と較べると、社会経験に圧倒的な差があることは否めません。そこで、何か資格を取って仕事につなげられれば、その差を少しは埋められるかもしれない。そう考えていた時、私のことをよく知る人から「こういう仕事が向いてるんじゃない?」と提案してもらったのが社会保険労務士でした。

 調べていくうちに、「何も知らなくて損をしている人たちの力になれるかもしれない」という希望が湧いてきました。昔、母親が過労で体を壊したことがあったのですが、働き過ぎを止める仕組みを知っていれば、そういうこともなかったんじゃないかと思ったんです。「法律や制度をうまく活用して、会社も従業員もウィンウィンになれるような提案ができればいいな」という夢がふくらみ、「社労士を目指してみよう」と思いました。

──受験勉強はどのような形でされたのですか?

山中 最初の半年間ぐらいは独学で行っていたのですが、出題範囲がものすごく広いんです。一度も社会に出たことがない人間がいきなり、健康保険、厚生年金、労災、労働基準法と言われても、何がなんだか分からなくて……。これはもう講座を申し込んだ方がいいと思い、通信講座を申し込みました。独学半年プラス1年の通信講座で、1回目の試験に臨みました。

1回目の試験は不合格

──1回目の試験は、残念な結果に終わったそうですね。

山中 自己採点では、4、5点足りませんでした。ただ、社労士試験の1点を埋めるのに1年かかると聞いて、「あと何年頑張ればいいんだろう」と絶望しました。問題文の言い回しから正誤を見抜く力が必要で、知識があるだけでは解けない。そこが大きな壁でした。やはり実務経験がないと、イメージが湧かないんですね。

「情報だけ持っていてもダメだ、実務に関われる環境が欲しい」と思い、1年目の試験を受けた後、自己採点ですぐに不合格だと分かったので、9月から働ける社労士事務所を探そうと動き出しました。

 事務所では、大変よくしていただきました。最初は週2日くらい出社し、あとは勉強。馴れてきたら、週に3、4日くらい出社して、あとは勉強というスケジュールにしていただきました。もちろん、試験直前にはしっかり休んで、勉強に集中しました。

──2回目の試験の手応えはどうでしたか?

山中 正直、ダメだったかもしれないという気持ちがものすごく大きかったです。試験は午前と午後に分かれているのですが、午前の問題に引っかかりやすいものが入っていて……。自信満々に解いたのに、帰りに他の受験生の「あの問題は絶対ひっかけで、あっちだよね」という話が聞こえてきて、もしその情報が正しければ、私は基準点を取りきれずに不合格が決まってしまう──。

 その場では耐えたのですが、近所のコンビニで買い物してる時に「もうダメかもしれない」と思って、号泣してしまいました。その後、予備校などが出す解答速報を見たら、「あれ、もしかして私、合ってたかもしれない」となって、少し元気をもらいました。

「ライスワーク」を探す, 1回目の試験は不合格, ドラマーとしての経験が役立つ, “二刀流”を目指す

写真・橋本篤

──合格が決まった瞬間は、どんなお気持ちでしたか?

山中 ネットで受験番号が発表されるのを見て、自分の番号があった時に「本当に合ってる?」とものすごく驚いて、また号泣しました(笑)。それぐらい自分の中でも精一杯出しきって試験を受けたし、その結果、合格できたんだなというところで、すごく嬉しかったです。

ドラマーとしての経験が役立つ

──ミュージシャンとしての経験が、受験勉強に活かされた部分はありましたか?

山中 例えば、ドラムで新しいリズムやフレーズを覚える時って、最初は必ず失敗するんです。でも、どんどん練習をするうちに体に定着していき、できるようになる。そのプロセスでずっとやってきました。ですので、受験勉強を始めた時に全く分からなくても、「そりゃそうだよね」と自然に受け入れられたんです。「何回もやっていくうちに覚えられる」と信じて、頭や身体に定着させていくというやり方は、ドラムの習得にせよ、法令の理解にせよ、通じるところがあると思います。

──今後の展望として、どのような社労士になりたいですか?

山中 とにかく会社側も従業員さん側も、お互いが「この人を雇ってよかった」「この会社で働いてよかった」と思えるような、いい雰囲気を作れる社労士さんになれたらいいなと思っています。どちらか一方に偏るのではなく、例えば、給与を上げる代わりに働き方を変えて、成果を上げてもらう──そういった仕組みを提案することで、お互いの利益につながるような橋渡しをしていきたいです。

 ここ数年の目標としては、独立開業をしたいと思っています。できれば2、3年以内には実現したいです。

“二刀流”を目指す

──今後もミュージシャンとしての活動は続けられていくわけですね。

山中 サポートドラマーとしてアーティストさんのライブで演奏したり、ドラムの先生としてオンラインレッスンをしたりしています。あとは個人的に、ドラムを叩きながらコーラスをする動画を撮ったりもしています。最初の頃は、社労士の仕事と音楽とで頭の使い方が全く違うので切り替えが難しかったですが、今は“二刀流”をなんとか両立させています。

「ライスワーク」を探す, 1回目の試験は不合格, ドラマーとしての経験が役立つ, “二刀流”を目指す

写真・橋本篤

──最後に、8月24日に行われる社会保険労務士試験に向けて勉強している方々へ、メッセージをお願いします。

山中 試験直前になって、「今までやってきたことは本当にこれで良かったのかな」と不安になることもあると思います。でも、今まで頑張ってきた自分を認めてあげて、「これだけ頑張ったんだから、もう目の前の試験まで走り切ろう」という気持ちで、最後までアクセルをしっかり踏んでほしいなと思います。ここで不安になってスピードが落ちてしまうと、乗り越えられたはずの壁も乗り越えられなくなるかもしれない。もう余計なことは考えず、突き進んじゃっていいと思います。

 今年は本当に暑いので、体調だけはとにかく気をつけて、頑張ってやりきってほしいですね。

やまなか・あやか

高校で軽音楽部に入り、ドラムを始める。2013年、所属事務所内で結成されたバンドに加入。15年、メジャーデビューし、5枚のアルバムをリリース。21年、バンド脱退を表明。23年、社会保険労務士の国家試験に合格。現在、社労士事務所に勤務しつつ、ドラマーとして活動している。

(文春コミック)

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