日本で「トゥクトゥク」は普及する? 避けるべき「公道カート」の二の舞、安全と電動化で観光地改革なるか

国内で広がる観光トゥクトゥク

 最近、国内の観光地で「トゥクトゥク」を見かけることが増えた。トゥクトゥクとは、タイなど東南アジア・南アジアで普及する自動三輪車だ。現地では主にタクシーとして使われている。起源には諸説あり、日本から輸入したダイハツ・ミゼットが元とする説や、人力車が進化した説がある。国によって呼び名も異なる。インドやパキスタンでは「オート・リクシャー」、フィリピンでは「トライシクル」と呼ばれている。

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 トゥクトゥクは独特な形状をしている。日除けのビニール天井はあるが、側面は大きく開放され、風通しがよい。暑い東南アジアの気候に適した乗り物である。音を立て、やや不安定な乗り心地も東南アジアらしさを感じさせる。トゥクトゥクという名前は走行音に由来する。外観は赤や青、黄など派手な色が多く、形状も可愛らしい。夜になるとカラフルな電飾が点き、海外観光客の目を引く人気の乗り物だ。

 日本では2020年ごろから観光地での導入が見られる。タクシーではなく、レンタルとして利用されている。道路運送車両法ではサイドカーと同じ

「側車付二輪自動車」

に分類される。道路交通法上は普通自動車に準じ、普通自動車免許で公道を運転できる。高速道路も走行可能だ。ただし運転は通常の自動車と異なるため、レンタル店では簡単なレクチャーを実施してから貸し出している。近年は、個人でトゥクトゥクを所有したいという需要も増えている。

 現在は神奈川、千葉、沖縄などの臨海観光地に加え、都内や大阪市内など都市部でもレンタルが可能だ。レンタル店を複数展開する事業者や、トゥクトゥクをレンタルするタクシー会社も見られる。サイズは小型から大型まで多様で、ふたり乗りから7人乗りまで対応する。レンタル時間や料金設定は店舗によって異なるが、4人乗りで1時間あたり約4000円が相場である。

「非日常感」観光モビリティ

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フィリピンのトライシクル(画像:写真AC)

 なぜ日本でトゥクトゥクなのか――。近年、日本から東南アジアに旅行する人が増え、現地でトゥクトゥクに触れる機会が増えている。現地のユニークな乗り物に注目する人も多いのだろう。

 トゥクトゥクは観光地向けのモビリティとしてメリットが大きい。リゾート感が海沿いの観光地に合い、視界が広く風景が見やすい。グループでのコミュニケーションも取りやすい。新型コロナ禍には、風通しがよく感染リスクが低い乗り物として導入された背景もある。大きな背景として、

「観光で体験要素が求められるようになった」

ことがある。トゥクトゥクは単なる移動手段ではなく、体験型のモビリティだ。日本では消費者の観光志向が成熟し、従来の定番観光ではなく、非日常的で五感を刺激する体験が求められるようになっている。近年はインバウンド需要でも体験型観光が重視されている。

 観光モビリティにはレンタカー、レンタサイクル、タクシーなどがある。しかし、いずれも日常的に使う乗り物であり、特別感はない。トゥクトゥクは外観がかわいく、インスタ映えする。自然や街並みの匂いや音を近くで感じられ、乗り心地も独特だ。いつもの乗り物とは違うワクワク感があり、乗車体験自体が観光資源となる存在である。

電動トゥクトゥクの価値

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トゥクトゥク(画像:ビー・アンド・プラス)

 非日常的なモビリティの乗車体験は、アトラクション的な感覚を持つ。公道を走る乗り物は観光客の目に留まりやすい。実際、観光地では多くの乗り物が観光資源になっている。例えば

・人力車

・トロッコ列車

・蒸気機関車

などだ。動物を使ったものでは観光馬車や沖縄の水牛車もある。こうした乗り物は、観光地で特別な体験を提供する存在である。

 トゥクトゥクはCO2削減の面でも期待されている。東南アジアでは経済成長にともない、排気ガスによる大気汚染が深刻化したため、近年は電動トゥクトゥクが開発されている。日本でも電動トゥクトゥクをクリーンなモビリティとして導入する地域があり、電動トゥクトゥク専門のレンタル店も現れている。

 オーバーツーリズム(観光公害)対策への効果も期待される。インバウンド観光客は主に公共交通を利用するため、人気観光地ではバスやタクシーが混雑し、地域住民が利用できないことがある。近年はドライバー不足も深刻で、すぐに増便することは容易ではない。観光客の目を引く新たなモビリティを導入すれば、地域公共交通の利用が分散され、混雑緩和につながる可能性がある。

安全管理の重要性

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トゥクトゥク(画像:eMoBi)

 新たなモビリティには課題もある。

 近年話題となったのは、スーパーマリオのコスプレをして都内をカートで走る公道カートだ。インバウンドに人気だが、

・著作権侵害の問題

・公道で一般車両の妨げになる問題

が指摘された。大型トラックからは見えにくく、運転が不慣れなため事故も多発した。現在、国土交通省はガイドラインを作成し、指導を強化している。

 トゥクトゥクは自動車とオートバイの中間の操作性を持つ。運転感覚は四輪自動車と異なる。速度は時速30~60km程度だが、坂道では思ったよりスピードが出やすく、カーブで曲がり切れない場合もある。すでに事故も起きている。

 安全が確保できなければ普及すべきではない。安全管理の徹底は不可欠であり、拡大前の対応が急務だ。また、公道を走る場合は騒音など地域生活への影響も注視する必要がある。

 安全性が確保されれば、全国の観光地や都市部でトゥクトゥクに乗る機会は増える可能性がある。