落選議員が語る次の首相 武見敬三元厚労相「石破おろしは難しい」 一方“ヒゲの隊長” 佐藤正久氏は「ピンチヒッターで麻生氏」

 衆院選に続き、参院選でも大敗した自民党。衆参ともに与党は過半数を割り込み、石破茂首相(総裁)の責任を問う声は、高まっている。自民党は8日に開いた両院議員総会で、総裁選挙管理委員会が自民党総裁選の前倒しを検討することになった。石破おろしの大きなきっかけとなった今年7月の参院選で敗れた、自民党の佐藤正久氏と武見敬三氏は今、何を思うのか。

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 元陸上自衛官で「ヒゲの隊長」として知られ、参院議員を3期務めた佐藤正久氏は参院選をこう振り返る。

「自民党が惨敗した一番の原因は候補者。石破さん一人の責任ではないのはわかるが、結果責任はトップが取る必要がある。石破さんと議員との信頼関係が崩れています。辞めて、新しい体制の下で立て直しを図らなければいけないときが来ている」

■「辞める美学」が必要

 党内から公然と「石破おろし」の声が上がっているが、石破首相は続投の意向を示している。

「相互関税に関する日米合意を着実に実現させたいだろうし、戦後80年の首相としてのメッセージにもこだわりがあると思います。それでもトップというのは『辞める美学』が必要だと思うんですよ」

 佐藤氏は2007年の初当選以来、3期18年にわたり参院議員を務め、外務副大臣などを歴任した。7月の参院選では比例区で出馬。自民党は比例区で12議席を獲得したが、佐藤氏は13番目で惜敗だった。投開票日翌日の7月21日から、議員会館の事務所と議員宿舎からの引っ越し作業を行ったという。

「18年間、仕事をしたという実感はあります。議員会館の部屋で、『平和安全法制』(15年成立)を議論しながら作ったんですよ。そのときの資料なども大事に保管していましたが、引っ越し先に置いておく場所がないので、すべて断捨離しました。官僚から『お世話になりました。ありがとうございました』と泣きながら言われて、こっちも思わず泣いてしまいました。野党の議員もやって来て、涙を流してくれた。それも嬉しかったね。議員宿舎の引っ越しは妻と娘が手伝ってくれました」

■石破氏の推薦人だったことも…

 参院選では自民党が114議席から101議席と大幅に減らす一方、国民民主党は9議席から22議席、参政党は2議席から15議席と躍進した。

「自民党は総合デパートで、彼らは専門店。国民民主党は『手取りを増やす夏』、参政党は『日本人ファースト』がキャッチフレーズだった。専門店の言葉は有権者に刺さりやすいんですね」

 佐藤氏は08年と12年の総裁選では、石破氏の推薦人だった。それでも今回の参院選では選挙期間中、応援を求めなかった。

「参院選の半年前に(政治家2人が並んで写る)2連ポスターを作ったんですよ。石破さんと中谷元・防衛相、小野寺五典・自民党政調会長、高市早苗・前経済安保担当相の4パターンをね。後援会で、一番人気があったのは高市さんで、一番人気がなかったのは石破さんだった。全国をまわっていると、『石破さんがテレビに映るとチャンネルを変える』と言う人も多くいました」

 派閥裏金問題の震源地となった旧安倍派の議員が中心となり、石破氏の辞任を求める声が上がっている。

「安倍(晋三)さんがもう還付はやめようと言っているにもかかわらず、凶弾に倒れた後、(裏金が)復活した。誰がそれを主導したのかというのを解明しないと、絶対にダメ。自民党への国民の信頼は回復しないし、再生もない。石破さん自身も首相になってからの10カ月で、やってこなかったんですよ。そのまま選挙に突入して、惨敗した。この問題についてメスを入れそうにもない。だから新しい体制になってえぐらないといけない」

 世論調査では石破氏の続投を求める声のほうが強いが……。

「私はピンチヒッターとして、麻生太郎・自民党最高顧問がよいと思います。経験があるし、党内ににらみも利きますから」

 厚生労働相を務めた武見敬三氏は、この参院選で政界を去った。東京都中央区新富のこれまで倉庫代わりに使っていたという事務所を訪ねると、書棚に20~30箱ほどの段ボール箱が積まれ、1、2、3などと番号が振られていた。

■石破おろしで、批判や不満は拡大?

「議員会館を撤収するところまでマスコミが来て、邪魔だったね(笑)。段ボールは議員会館からこっちに移してきたもので、まだ、開けてない。これから全部、本を並べ直して、書棚もキチンと使えるようにするつもりです」

 23年9月から厚生労働相も務めた武見氏は、32人が出馬した東京選挙区(7議席)に自民党から立候補し、35万余の得票。参院議員6期目をめざしたが、10位に終わった。

「政治家としての私の役割は終わりました。でも、自分なりに政治の世界で培った経験や政策についての理解を、社会の役に立つように仕事は継続したいと思っています」

 選挙の応援には石破首相も白いスーツで駆け付けたという。その石破首相に対し、党内で退陣を求める声が強まっている。

「一度、総理総裁になった人をクビにするのは、ものすごく難しい。1975年から76年の『三木おろし』のときは、自民党がものすごく痛手を被り、総選挙で過半数を取れなかった。国民が納得できるような受け皿をちゃんと作りながらやらないと、自民党に対する批判や不満というのはむしろ広がるでしょう」

 石破首相はこのまま粘って続投すべきかと問うと、「それはわからない。誰がなろうとも、与党が過半数割れしている現在、新たな連立の枠組みとして、保守合同は必至だと思う」と答え、ポスト石破についてこう話した。

「名前やイメージで決めるべきではない。総理の仕事というのは現在、外交、安全保障、憲法改正にとどまらず、少子高齢化社会の中での持続可能な経済成長の在り方の模索など多岐にわたる。政局の手練手管だけで、総理を選ぶというような単純な状況ではないはずです」

(AERA編集部・上田耕司)