子どものいない夫婦〈おふたりさま〉相続の落とし穴。夫の財産を妻が全部相続できない?知っておきたい「相続の基本ルール」
2023年の国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」によると、50歳時の未婚率は増加傾向にあります。人生の選択は人それぞれであり、結婚する、子どもをもつことが当たり前の時代ではなくなっています。ここでは、お子さんのいないご夫婦を、「おふたりさま」と呼び、焦点をあてています。行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家が、「おふたりさま」はもちろん、おひとりさま・子どもに頼りたくない人も、知っておきたい知識をまとめた、『「おふたりさまの老後」は準備が10割:元気なうちに読んでおきたい!68の疑問と答え』から一部を抜粋して紹介します。
【書影】子供のいない夫婦の「老後」「相続」の課題や悩みを、終活のプロから学ぶ『「おふたりさまの老後」は準備が10割:元気なうちに読んでおきたい!68の疑問と答え』
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おふたりさまが知っておきたい「相続の基本ルール」
A:いいえ。おふたりさまの場合、夫の親族にも相続の権利があります。
いきなりお金の話でせちがらいのですが、これはぜひともおふたりさまに知っておいていただきたい問題です。
夫の財産といえば、夫名義の預貯金や不動産(自宅)、株や投資信託などの有価証券……などなど。妻が専業主婦だったとしても、これらは夫婦が共同で築き上げてきた、大切な財産です。
夫亡きあとは「妻がすべて相続して、老後生活の糧にする」と考えるのが自然です。
しかし、おふたりさまの場合、「ふたりの財産」だったはずのものが、相続に直面すると、急にふたりだけのものではなくなります。
なぜなら、子どものいない夫婦に相続が起こった場合、残された配偶者だけではなく、亡くなった故人の親やきょうだいも「法定相続人」となるからです。
たとえば夫が亡くなった場合、妻だけでなく、夫の親やきょうだいにも相続の権利があるということです。
この答えを知って、驚かれた人もいるのではないでしょうか。
いざというときに「こんなはずじゃなかった」という事態にならないよう、おふたりさまに身につけておいてほしいのが、相続についての基本知識です。
優先順位も含め、誰が「相続の権利」をもつのか?
A:法定相続人とは、法律で定められた相続人のことで、配偶者、子どもや孫(直系卑属)、親(直系尊属)、兄弟姉妹(傍系血族)を指します。
人が亡くなったとき、誰が相続の権利をもつのかは、優先順位も含めて法律で決まっています。これを「法定相続人」といいます。
ちなみに、亡くなった人のことは「被相続人」と呼びます。相続をされる人という意味です。
法定相続人の基本ルール・故人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人になります。
1:故人に子どもや孫(直系卑属といいます)がいる場合、配偶者と合わせて相続人となります。配偶者がいなくて直系卑属だけがいる場合は、直系卑属のみが相続人となります。
2:故人に子どもや孫がいない場合、故人の親や祖父母(直系尊属といいます)が相続人となります。配偶者がいる場合は配偶者と直系尊属、配偶者がいない場合は直系尊属のみが相続人となります。
3:故人に直系卑属も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹(傍系血族といいます)が相続人となります。1、2と同様、配偶者がいる場合は配偶者と兄弟姉妹、配偶者がいない場合は兄弟姉妹のみが相続人となります。
法律で決められた相続人とは?(写真提供:Photo AC)
誰にどのくらい?財産の相続について…
A:「法定相続分」で割合が定められていますが、相続人の話し合いで自由に決めても構いません。
法定相続人が相続する割合(取り分)も法律で決められています。これを法定相続分といいます。
〈法定相続分の基本ルール〉
1:故人に子ども(と配偶者)がいる場合…配偶者は2分の1、第1順位の子どもが2分の1となります(例:1000万円の遺産があった場合、妻あるいは夫が500万円、子どもが2人なら250万円ずつ相続する)。配偶者がいない場合は、子どもや孫が100%相続します。
2:故人に子どもや孫がなく、親(と配偶者)がいる場合…配偶者は3分の2、第2順位の親や祖父母が3分の1となります(例:1000万円の遺産があった場合、妻あるいは夫が約666万円、親が約334万円を相続する)。配偶者がいない場合は親や祖父母が100%相続します。
3:故人に子どもも親もおらず、兄弟姉妹(と配偶者)がいる場合…配偶者は4分の3、第3順位の兄弟姉妹が4分の1となります(例:1000万円の遺産があった場合、妻あるいは夫が750万円、兄弟姉妹が250万円を相続する)。配偶者がいない場合は、兄弟姉妹が100%相続します。
ただし、実際に相続を行うにあたっては、法律で決められた法定相続分の通りの割合にする必要はありません。
相続人同士の話し合い(遺産分割協議といいます)によって、自分たちで割合を決めることもできます。
とはいえ、相続でもめて調停や裁判などを起こす場合、法定相続分は法的に定められた相続割合として極めて重要な意味をもちます。
仮にそこまでいかなくても、相続人同士の話し合いの際に、各自がもつ相続の権利として強い意味をもつケースが多いようです。
おふたりさまの場合は、どうなる?
この相続の基本ルールをおふたりさまに当てはめると、どうなるでしょうか。
おふたりさまの夫が亡くなった場合、故人の親が存命の場合は妻と親、そうでない場合は妻と故人の兄弟姉妹が相続人になります(図表1ー2)。
つまり、夫が亡くなった場合、妻だけでなく夫の親、あるいは夫の兄弟姉妹も相続人になるということです。
相続が発生する際はある程度年齢を重ねていることが多いでしょうから、図表1ー3のように、兄弟姉妹が相続人となるケースが多いでしょう。
この場合、妻の法定相続分は4分の3、夫の兄弟姉妹の法定相続分は4分の1となり、兄弟姉妹が複数いる場合は4分の1を人数で均等割にします。
※本稿は『「おふたりさまの老後」は準備が10割:元気なうちに読んでおきたい!68の疑問と答え』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。