阪神1強の舞台裏で流れる「セ・パ解体論」 2軍再編が1軍3地区制への呼び水となるか

40試合連続無失点のプロ野球記録を樹立した阪神・石井大智。防御率0点台の安定感で虎のブルペンを支えている=17日、東京ドーム(松永渉平撮影)
阪神「1強」の舞台裏で、球界内にセ・パ解体論が流れています。選手会の幹部が発した1軍の「4球団3地区制」は現実味を帯びるのでしょうか。藤川球児監督(45)率いる阪神は巨人3連戦(東京ドーム=15~17日)に2勝1敗と勝ち越し、優勝マジックは「22」に。2年ぶり7度目のリーグ優勝は確定的ですが、2位以下が借金状態というセ・リーグの勢力図の中で、中央球界ではエクスパンション(球団拡張)の機運に絡めて「セ・パ解体論」が議論されているもようです。阪神圧勝の後は球界のルールが変わる…。歴史は繰り返されるのでしょうか!?
2位以下は借金生活
かつて逆の立場で喧噪渦巻くグラウンドを眺めていた記憶があります。あの暗黒時代、巨人戦はいつも負け越して、敵地の東京ドームでは「闘魂こめて」を嫌というほど聞かされたものです。それが、どうでしょう。今季は巨人戦で15勝6敗の貯金9。阪神は109試合消化時点で66勝41敗2分けの貯金25ですから、貯金の約3分の1は巨人から頂いたものです。敵地に響き渡る虎党の「六甲おろし」を聞きながら、こんな時代がやってきたのか…と感慨にふけっています。
それでも、チームを率いる藤川球児監督は「選手たちは道中ですから。シーズンが終わったときにどういった成績があるのかというところは個人の楽しみでもあるし、ゲームのある4時間はチームとして一つになって戦う。現状ではまだ満足できていないんじゃないですか」と冷静沈着に話していました。
指揮官は今季が初陣です。前監督の岡田彰布氏(67)に比べて指導者としての経験値がないことを戦前は不安視されていたはず。それが、ここまでの戦いぶりは百戦錬磨。「球児はコーチ経験がなくても大丈夫。結果を出せる能力はある」と話していた阪神電鉄本社首脳の言葉が脳裏を駆け巡っています。
1リーグ3グループ制に
阪神はまさにわが世の春で残り試合を戦っていくのでしょうが、独走Vが確定的な状況下、球界では地殻変動の前触れのような動きが見受けられます。それを簡潔明瞭に表現するならば「セ・パ解体論」。一連の流れはこうです。
7月14日に開催されたオーナー会議で、来季からイースタン・リーグとウエスタン・リーグを解体し、2軍の公式戦を「1リーグ3グループ制」に再編することを全会一致で承認しました。東地区が日本ハム、楽天、ロッテ、ヤクルト、オイシックスの5球団。中地区は巨人、DeNA、西武、中日、くふうハヤテの5球団。西地区が阪神、オリックス、広島、ソフトバンクの4球団。全体の14チームで順位を決め、上位球団でプレーオフを実施します。
イ・ウを解体して1リーグ3グループ制の再編に至った背景には、移動時間の短縮や経費の削減があります。そしてリーグ再編が決まった際に強調されていたのが、新潟と静岡にそれぞれ本拠を置くオイシックス、くふうハヤテの2軍公式戦への参加によってプロ野球の空白地が埋まり、野球普及に大きく貢献している-という話でした。
2軍のリーグ再編を受けた7月17日、東京都内で日本野球機構(NPB)と日本プロ野球選手会の事務折衝が行われました。席上で選手会の森忠仁事務局長は「野球普及の話を聞いて選手会としては確かに必要だと思う。だったら1軍でやるべきではないか。1軍をエクスパンションで(球団数を)増やしたりとか、1軍で活躍できる選手をもっといろんなところで見せていく方が活性化になるのではないか。選手会としては〝1軍もやって〟というのを改めて強く感じた」と話したのです。
CSが抱える不条理
選手会幹部が正式な会議で初めて言及した「1軍のリーグ改編案」。エクスパンションした上での改編という趣旨が強調されましたが、議論の中では2軍が1リーグ3グループ制に移行するのだから、この際1軍も現在のセ・パを解体。12球団を3地区4球団ずつに振り分けるか、3地区5球団ずつの15球団制や、さらに増やして4地区16球団制に拡張していく-という方法論も話題に上がったもようです。

東京ドームの左翼席を埋める阪神ファン。伝統の一戦で猛虎を後押ししている=4月6日、東京ドーム(佐藤徳昭撮影)
確かに2軍が来季から1リーグ3グループ制に再編されるのに、1軍のセ・パ2リーグ制は手付かずのままというのも、見方によってはどうなのだろうといえるかもしれません。
一つの案がセ・パを解体し、東地区=日本ハム、楽天、ロッテ、ヤクルト▽中地区=巨人、DeNA、西武、中日▽西地区=阪神、オリックス、広島、ソフトバンク-と分けるものです。各地区の優勝チームに加え、各地区2位のうち最高勝率のチームがポストシーズンに進出。4チームが準決勝(5回戦制)と決勝(7回戦制)を行って日本一を決める。こうすれば、リーグ3位からの日本一といった現状のクライマックスシリーズ(CS)でみられる「敗者復活戦」の色合いは薄れます。
先週のコラム「借金あれば出場権剥奪 独走Vならアドバンテージ2勝付与…CSルール改定を検討せよ(8月12日アップ)」で、CSの問題点を指摘しました。現状、セ・リーグは阪神が貯金を独り占めにし、2位の巨人が借金1(52勝53敗3分け)、3位DeNAも借金2(50勝52敗5分け)です。もし、このままの状態でCSに突入し、レギュラーシーズンで借金のあったチームがファイナルステージで阪神を破れば、こんな不条理なことはないでしょう。レギュラーシーズンの軽視も甚だしい。それでも今のCSは事実上の「敗者復活戦」ですから、文句は言えません。しかしセ・パ解体で3地区制にすれば、CSの不条理は今よりも解消されるはずです。

阪神を率いる藤川球児監督。投打ともに充実の戦力を備え、首位をひた走っている=16日、東京ドーム(松永渉平撮影)
リーグ分立から75年
現状のセ・パ2リーグ制は1950年からですから、もう76年目を迎えていますね。長い歴史の重みを考えれば、あまりにも荒唐無稽かもしれませんが、55年に現状の形となったイースタン・リーグとウエスタン・リーグは今年限りで71年の歴史に一区切りを付けます。どんな世界にも変革は付き物です。
阪神が圧倒的な強さで日本一になった85年。バース、掛布、岡田や真弓を擁する強力打線は無双状態でした。それが、翌年は大リーグ流の低めのゾーンをとる「新ストライクゾーン」導入によって勢いをそがれました。投低打高の傾向を変える試みでしたが、明らかに阪神を狙い撃ちしたルール改定でした。
阪神が強いとルールが変わる? 球界の水面下の動きから目が離せません。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て客員特別記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

ソフトバンクとの日本シリーズを制し、チャンピオンフラッグを手に場内一周する(左から)DeNAの牧秀悟、筒香嘉智、三浦大輔監督。リーグ3位から日本一に輝いた=2024年11月3日、横浜スタジアム(渋井君夫撮影)