元舞妓が告発した「お風呂入り」「給与月5万」… 弁護士も“花街の違法行為” と指摘「現代の奴隷そのもの」
元舞妓の桐貴清羽(きりたかきよは)さん(26)が告発した、舞妓の労働実態が大きな波紋を呼んでいる。「舞妓と接待文化を考えるネットワーク」の呼びかけ人の一人、岸松江弁護士に話を聞いた。
――そもそも、舞妓は法律上、「労働者」といえるのでしょうか?
1954年に、国は全国の芸妓を労働基準法の取り締まり対象としています。そして、58年には京都労働基準局が、市内の置屋やお茶屋など539事業所を労働基準法の適用対象と判断しています。舞妓は、「労働者」に該当するというのが、法的にも実態的にも妥当な見解です。
――労働者であれば、契約書が交わされるはずです。しかし、桐貴さんは中学3年生の時、置屋に履歴書を提出し、置屋の女将と面接をしただけで、契約書は交わさなかったと証言しています。
使用者は労働者を雇い入れる際、賃金や労働時間などの労働条件を原則として書面で本人に伝えなければいけません。「労働条件明示義務」といい、労働基準法第15条に規定されています。舞妓の場合、使用者は置屋に当たります。
契約書を交わしていなければ、置屋は労働条件明示義務に反したことになり、30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
■明確に違法行為
――桐貴さんは舞妓として深夜まで働き、休みは多くて月2回。給与は小遣いとして月に5万円だったと話しています。
深夜労働も月2回の休みも、法定労働時間を超えて働かせるのは明らかに労働基準法違反です。月5万円のお小遣いは、最低賃金法違反です。
――お座敷では、酒も飲まされていました。
未成年の場合、特に問題となるのが酒席、つまりお座敷での接待です。労働基準法第62条および年少者労働基準規則で、18歳未満の年少者に対し安全・健康・道徳を害する恐れのある労働を禁止しています。酒席での接待は、その典型的なケースです。明確に違法行為に当たります。
――お座敷での飲酒は、置屋も罰せられるのでしょうか。
未成年者飲酒禁止法で、親権者や監督者に対して、20歳未満の未成年者の飲酒を知りながら制止しなかった親権者や監督者には、科料が科せられることがあります。置屋の女将は、親権者に代わって監督する立場として処罰の対象になります。
――舞妓はお客と温泉地などに行き、一緒にお風呂に入る「お風呂入り」と呼ばれる行為もあったといいます。実質的な「性接待」です。
わいせつな行為は本人が16歳未満の場合、たとえ同意があったとしても、相手が5歳以上年長である場合は、刑法上の「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」が成立します。さらに、置屋が「お風呂入り」の事実を把握しているのであれば、犯罪を手助けしたとして「ほう助犯」の責任を問われることもあります。
■安心して相談できる窓口を
――桐貴さんは、舞妓が置かれた状況は「現代の奴隷」だと訴えています。
中学校を卒業したばかりの子どもが、労働者としての権利や自身の人権について何の教育も受けないまま置屋に入り、人権侵害を受けていることすら自覚できずに働かされています。携帯電話はお客とのトラブルを避けるという理由で所持を禁止され外部との連絡手段を断たれ、助けを求めることもできません。実際に「檻」に閉じ込められているわけではありませんが、自由を奪われた舞妓は、現代の奴隷そのものです。
――今年、岸弁護士は「舞妓と接待文化を考えるネットワーク」の呼びかけ人の一人として桐貴さんとともに声を上げました。舞妓の人権を守るにはどうすればいいのでしょう。
舞妓は労働者である以上、まずは労働基準局が調査し、賃金未払いなどの違法行為がないか確認し、あれば置屋に対して指導や取り締まりを行うべきです。また、舞妓を「京都の文化」として発信している京都市も、その裏で人権侵害が起きていないかを把握する責任があります。舞妓が安心して相談できる窓口を設けるなど、行政として具体的な対策を講じる責務があります。
(AERA編集部・野村昌二)