中学生にもわかる少年法 父親殺害容疑の15歳はどう裁かれる?
写真はイメージ(Ystudio / PIXTA)
群馬県桐生市で、中学3年の男子生徒(15)が医師の父親を殺害したとして逮捕される事件が起きました。この少年は今後どうなるのでしょうか。少年法のルールを中学生にもわかるように解説します。
●この記事のポイント
今回逮捕された15歳の少年は今後、以下のような流れをたどります。
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(1)まず、大人と同じように勾留(こうりゅう)されます。(2)その後、更生のためにどうすべきかを判断するため、家庭裁判所に送られます。
(3)家庭裁判所では、少年鑑別所での調査などを通して事件の背景が詳しく調べられます。
(4)その結果を踏まえ、「少年審判」で保護観察や少年院送致などの処分が決められます。
(5)ただし、事件の重大性などから大人と同じ刑事裁判を受ける可能性も残されています。
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●5月にも千葉で15歳の中学生が殺人容疑で逮捕
報道によると、少年は8月13日ごろ、桐生市の自宅で一緒に暮らす医師の父(48)を刃物のようなもので刺して殺害した疑いが持たれています。
少年は14日夜、JR桐生駅近くにある交番を訪れ、「父親を刺した」と自首したといいます。同居していた母親と妹は県外に帰省していたということです。
今年5月にも、千葉市の路上で中学3年の男子生徒(15)が高齢女性を殺害したとして逮捕される事件がありました。
今回の桐生市の事件では、まだ中学生だということですが、もし本当に父親を殺害していた場合、刑務所に行くことになるのでしょうか。
●ステップ1:逮捕から「家庭裁判所」へ送られるまで
まず、事件を起こすと、たとえ未成年であっても、警察は大人と同じように警察に逮捕することができます。
逮捕された場合、警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に引き継ぎ、検察官はさらに24時間以内に裁判官に勾留(警察署などで身体を拘束し続けること)を請求します。
勾留が認められると、最長で20日間、外出などを自由にできない環境で取り調べを受けることになります。ここまでは、大人とほとんど同じ流れです。
大人との最も大きな違いは、この勾留が終わったあとです。
大人の場合は検察官が「起訴」か「不起訴」かを判断し、起訴されれば刑事裁判が開かれます。
しかし、20歳未満の少年は原則として、すべての事件が「家庭裁判所」に送られます。
なぜ家庭裁判所に送られるのでしょうか。
それは、少年法の目的が、大人を罰する「刑罰」とは少し違うからです。
少年法は、「罪を犯した少年の健全な育成を目指し、更生させること」を大きな目的としています。
そのため、すぐに刑事裁判にかけるのではなく、まずは家庭裁判所が少年の性格や育った環境、事件の背景などを詳しく調査し、立ち直りのために最も良い方法を考えるのです。
●ステップ2:家庭裁判所での調査と「少年鑑別所」
家庭裁判所に送られたあとはどうなるのでしょうか。
家庭裁判所の裁判官は、少年と面談などをおこない、より詳しい調査が必要だと判断した場合、「観護措置(かんごそち)」という決定をします。
これにより、少年は「少年鑑別所(しょうねんかんべつしょ)」という施設に送られます。ここで過ごせる期間は最大で8週間です。
少年鑑別所は、刑務所とは違って罰を与える場所ではありません。
ここでは、心理学などを学んだ専門家が少年と面談したり、心理テストを実施したりして、少年がなぜ事件を起こしてしまったのか、どんな性格や問題を抱えているのかを調査します。
この調査結果は、あとに開かれる「少年審判」で、裁判官が処分を決めるための重要な資料となります。
●ステップ3:将来を決める「少年審判」と処分
調査が終わると、家庭裁判所で「少年審判」が開かれます。
大人でいう刑事裁判にあたるものですが、その目的や雰囲気は大きく異なります。
審判は一般には公開されず、裁判官と少年、保護者、そして少年の味方となる弁護士(少年事件では「付添人(つきそいにん)」と呼びます)などが参加して、和やかな雰囲気の中でおこなわれることが多いようです。
ここでの目的は、少年を一方的に裁くことではなく、どうすれば少年が立ち直れるのかをみんなで考えることです。
そして、裁判官は以下のような処分を下すことになります。
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「不処分」:非行の事実が認められなかったなどと判断され、何も処分を受けません。「保護観察」:社会の中で保護司という支援者のサポートを受けながら生活し、立ち直りを目指す処分です。
「少年院送致」:少年院に入り、規律ある生活の中で、反省を深めたり、社会で生きていくための知識やコミュニケーション力を身につけたりする教育を受ける処分です。
「検察官送致(逆送)」:裁判所が「刑事処分が相当」と判断し、少年を検察官に送り返す処分です。
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●今回の事件の最大のポイント:「15歳」という年齢
今回の事件を考える上で、「15歳」という年齢が重要な意味を持つと言えそうです。
少年法は20条2項で、「16歳以上」の少年が故意に人を死亡させた場合、「原則、逆送する」というルールを設けています。
これは、事件を家庭裁判所から検察官に戻し、大人と同じ刑事裁判で裁くというものです。
しかし、今回の少年は15歳なので、この「原則逆送」の対象にはなりません。
では、絶対に刑事裁判にならないのでしょうか。
実はそうとも言えません。たとえ14歳や15歳であっても、事件の重大性や過去にも事件を起こしているかなどを考慮して、家庭裁判所の裁判官が「保護処分よりも刑罰を科すことが相当である」と判断した場合には、事件を検察官に逆送することがあります。
そして、検察官が起訴した場合、少年は大人と同じように公開の法廷で裁判を受け、有罪になれば刑罰を科されることもあります。
2020年に福岡市の商業施設で面識のない女性を殺害した当時15歳の少年は、裁判で不定期刑を言い渡され、少年刑務所に収容されました。つまり、今回の桐生市の少年も刑務所に入る可能性はゼロではないといえます。
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