なぜ?全日本女子選手権で軽量級が躍進 57キロ級主戦場の白金未桜が準V まさに「柔よく剛を制す」 角田夏実も2勝

柔道・全日本女子選手権決勝で田中伶奈(左)と対戦した白金未桜=20日

 4月20日に横浜武道館で行われた体重無差別で争う柔道の全日本女子選手権が、例年にない盛り上がりをみせた。当日券は販売されず、一般席はほぼ満席。1449人の観衆が集まった。パリ五輪48キロ級金メダルの角田夏実(32)=SBC湘南美容クリニック=が2勝を挙げるなど注目を集めた中、57キロ級を主戦場とする白金未桜(しろかね・みお、19)=筑波大=が準優勝を成し遂げた偉業も称賛に値する。

 体重無差別の日本一決定戦。大会最多の9連覇を誇る塚田真希(現女子日本代表監督)をはじめ、当然ながら最重量級が活躍してきた。

 白金は決勝で78キロの田中伶奈(大阪府警)に一本負けも、初戦は115キロの高山紗楓(警視庁)を旗判定3-0で突破。会場を驚かせた。

 階級が上の相手に背負い投げ、袖釣り込み腰を積極的に仕掛けた。「挑戦者の立場。自分のできることはやりきった。決勝の舞台に立てるとは思わなかった」。すがすがしい表情で語った。

 61キロ級で1986年の第1回大会を制し、最軽量の優勝記録を持つ森山(旧姓八戸)かおり氏はこの日、決勝前に講道館護身術の演武を披露。白金の活躍を「柔よく剛を制す、が柔道の醍醐味(だいごみ)。ルールが変わったので大きい人相手の戦略が立ち、勝ち目が出てきた。白金さんは自信になったのでは」と語った。

 角田の戦い方にも共通するが、両袖を持って奥襟など釣り手を与えず、体を引きつけられることを避けた。相手より先に技をかけ“印象点”を稼ぐ。2戦目は78キロの和田梨乃子(パーク24)を終盤、相手の強引な仕掛けに体を預けて隅落としで有効を奪った。続く70キロの寺田宇多菜(JR東日本)を旗判定2-1、準決勝は70キロの西篠里奈子(龍谷大)を同3-0で破った。

 延長ゴールデンスコアの国際ルールと異なり、同大会は時間(本戦5分、決勝8分)終了で旗判定となる。延長時の消耗を回避し、白金は「自分にとっては有利。最後に一気に追い上げる。体力が持ち味なので」と話す。新しく導入された足取りの一部解禁も「小さい自分には有利」と歓迎した。

 寝技の「待て」が国際ルールより早くコールされ、旗判定は立ち技の積極性を重視する傾向も追い風になった。筑波大は女子部員が少なく、78キロ超級のホープ井上朋香(1年)と練習する環境も生かした。

 今大会で78キロ超級は4強にゼロ、8強で1人のみ。代表選考大会ではなくなったとはいえ、かつての塚田真希と薪谷翠の厳しい激突に比べると物足りない面もある。前述の森山氏は代表クラスの辞退者続出を嘆きつつ「そもそも女子の重量級に人が少ない」と言う。指導する神奈川では、昨夏の高校総体県大会78キロ超級の出場者は3人。少子化と柔道離れは深刻だ。

 とはいえ、史上最軽量で決勝に進んだ白金の価値が損なわれるものではない。夙川学院中1年時には同高3年に阿部詩が在籍し、技を受けてもらった思い出を持つ。世界ジュニア優勝を目標に掲げつつ、晴れやかに「軽量級でも大きい人と戦えると自信になった。来年は頂点に立ちたい」と誓っていた。(デイリースポーツ・山本鋼平)

 ◆白金未桜(しろかね・みお)2005年11月23日、神戸市出身。3歳で柔道を始め、神戸少年柔道蟻クラブから夙川学院中に進学。3年時に佐久長聖中に転校し、佐久長聖高に進学。昨年の全日本ジュニア優勝、同講道館杯5位。得意技は袖釣り込み腰。三段。155センチ、57キロ。筑波大2年。兄の宏都(筑波大)は4月の全日本選抜体重別選手権、60キロ級の準決勝で永山竜樹を破り2位に入った。