夫が「仕事辞めたいんだよね…農業したい」 息子が大学生になって“突然の宣言”、不安すぎる老後に妻は…
夫が「仕事辞めたいんだよね…農業したい」 息子が大学生になって“突然の宣言”、不安すぎる老後に妻は…
子育てが一段落し、ようやく自分たちの人生を考える余裕ができた頃、パートナーからの予想外の発言に戸惑いと不安を抱く人も少なくありません。大阪府在住のKさん(50代)も、一人息子が東京の大学に進学して家を出たことをきっかけに、思いがけない夫の“第二の思春期”に直面することになりました。「仕事辞めたい」「農業したい」「専業主夫になりたい」と語り出す夫に、Kさんは老後資金の不安で胃痛の日々を送ることになったのです。
子どもが大学生になった途端の「爆弾発言」
手塩にかけて育てた一人息子が無事に東京の大学へ進学し、家を出ていきました。親としてのひとつの節目を迎え、肩の荷がおりたような気がしました。そんな中、長年、家族のために働いてきた夫が、ある日ぽつりとつぶやきました。
「俺さあ、仕事辞めたいんだよね」
最初は聞き流していたKさんでしたが、夫は続けざまにこう言ったのです。
「里山で農業とかしてみたいなあ」
その瞬間、Kさんの頭の中には「老後資金」「住宅ローン」「まだかかる息子の学費」「物価高騰」という赤字まみれのフラッシュバックが駆け巡ったのです。
夫の勤務先では、ちょうど早期退職を募っていました。不景気で業績も厳しく、退職金の上乗せで退職者を増やしたいとのことでした。夫はこれを「チャンス」と捉えます。
「このタイミングで辞めるのもありかな」
そう語る夫の目はキラキラしていた。だが、その瞳の輝きが、Kさんには恐怖に映ったのです。
本当に夫が疲れているのなら…とも思うけど
夫の祖父母は地方の山奥で農業をしていたので、夏休みになると小さい息子を連れて何度も訪れていました。築100年ほどの古民家での暮らしは、夏休みの田園風景としては最高でした。しかし、義父母もそこで農業はしておらず、地方都市に出てサラリーマンをしていました。夫も高校卒業後すぐに上京し、サラリーマンになったので、農業の経験など、ありません。ですが、今になって急に「あの山に帰って農業やるのもいいかもなあ」と言い出したのです。
突然何を言っているのだろうとKさんは絶句しました。趣味で家庭菜園をやることとは訳が違います。仕事をやめて農業をするということは、ほぼ自給自足の生活となること。相当の覚悟が必要です。
さらに夫は別の日、こう言いました。
「俺、専業主夫になりたいな。掃除とか洗濯とか、家でゆっくりしていたい」
聞き間違いかと思いました。なぜなら夫はどちらかというと仕事人間だったからです。専業主夫という言葉を使っていますが、実際は早期のリタイアメントを指しているのでしょう。ある程度お金が溜まっているならそれもありですが、まだまだこれから息子の大学の授業料もあるし、老後資金はかつかつです。いままで家事のほとんどはKさんがしていました。夫は料理の経験はゼロです。Kさんはなんだかお気楽に取れる夫の発言に苛立ちました。
「私が働いてあなたが専業主夫になるってこと?」
と確認すると、
「まあ、そういう感じ?」
と他人事のように笑うのです。
さすがに耐えられず、Kさんは親戚や友人に相談しました。すると、誰に話しても、開口一番にバッサリと言われました。
「ありえない!それ離婚案件だよ」
Kさん自身は、離婚するつもりもなければ、夫が疲れているのなら少し休むのもいいかもしれないと思っていました。ただ、当面の問題は生活費です。息子が大学を卒業するまでは学費がかかります。Kさん自身も働いているものの、このタイミングで退職して田舎に移住し、農業を始めるというのは、あまりにも無謀すぎではないでしょうか。
農業に憧れる“中二病世代”
心理学では、40代半ばから50代にかけて訪れるモヤモヤ期を「ミッドライフクライシス(中年の危機)」と呼ぶそうです。人生の折り返し地点を過ぎ、自分の残りの人生を見つめ直す時期と言われています。この時期に転職や起業、離婚を選ぶ人も少なくないようです。
夫の場合、それが「農業」「田舎暮らしをする」「専業主夫になりたい」という形で表出したのでしょうか。つまり、第二の思春期、中2病の大人版です。
とはいえ、夫の夢は無邪気すぎます。しかし、その夢が現実になるかどうかは別問題で、Kさんは妻として、息子が大学を卒業するまでは安定した収入を確保してもらわねばならないのです。
「せめて大学卒業まで待って。そのあとでゆっくり考えよう」
そう言うと、夫は「まあ、そうだよな」と呟きました。
◇ ◇
第二の思春期は、夫にだけ訪れるものではありません。誰にでも、自分の人生を見つめ直し、違う道を歩んでみたくなる瞬間はあるでしょう。ただ、そのとき一番大切なのは、支えてくれる家族への説明責任と、具体的なプランではないでしょうか。
「農業やりたい」「仕事辞めたい」「専業主夫になりたい」と思ったとき、まず妻に話す前に、天寿を全うするまでの中期的計画と、銀行口座と家計簿を開いてからにしてくれないだろうか。
「一人で生きてるなら別にいい。でも私を巻き沿いにするなら、せめて人生設計を壊す前に、電卓くらい叩いてほしい」
Kさんはそう切に願う日々なのでした。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)