ついに掴んだトップチームへの切符。されど吹き付ける向かい風|角田裕毅のF1前半戦振り返り
角田裕毅は2025年、激動の前半戦を過ごした。その去就をめぐってはシーズン開幕前から騒がれたほど。レーシングブルズからレッドブルに昇格した後も、その動向には大きな注目が集まっている。
F1がサマーブレイクを迎えて一時休戦となっている今、ここまでの角田の戦いを振り返ろう。
“分かっていた”判断|開幕前夜

Yuki Tsunoda, RB F1 Team
神奈川県相模原市出身の角田にとって、今年はF1参戦5年目。レッドブル/ホンダの育成ドライバーとして、アルファタウリから2021年にデビューを果たし、チームがその後RB、レーシングブルズへと姿を変える中、一貫してイタリア・ファエンツァに拠点を構える同チームからF1を戦ってきた。
前身トロロッソ時代からこのチームの存在意義のひとつは、才能あるドライバーをシニアチームであるレッドブルへと送り込むこと。セルジオ・ペレスが成績不振により2024年限りでレッドブルを離れることが決まり、当然4シーズンの経験値を積んだ角田も後任候補のひとりだった。
しかしレッドブルが2024年12月に下した判断は、グランプリ出場経験わずか11回という若手リアム・ローソンを起用するということだった。角田が疑問視されていたと言われる忍耐力の面、そして将来性を見込まれての採用だった。
昇格レースに敗れた角田は5回目のシーズン開幕を引き続きレーシングブルズで迎えることとなったが、レッドブルがこうした判断を下すということを心のどこかで理解していたという。
「正直なところ、正式発表の瞬間にかなりの怒りや失望は感じませんでした。よく分かりませんが、おそらく心の中では準備できていたんだと思います」
F1合同ローンチイベントの際に角田はそう語り、こうも続けた。
「彼らがなぜリアムを選んだのか……その理由は理解できます。仕方のないことです。僕にはどうしようもありません。それ(判断)は尊重していますし、色々とひっくるめて、今シーズンも集中を切らすことなくF1に相応しい自分を証明していきたいです」
翼を授かる|第3戦日本GP

Yuki Tsunoda, Red Bull Racing Team
それでも腐ることなく入賞争いを演じていた角田にチャンスが訪れたのは、第2戦中国GP終了後。扱いの難しいレッドブルRB21に乗るローソンが開幕2戦で不振を極め、改善の兆しが見られなかったことから首脳陣は早々に決断を翻した。角田にとっては、待ちに待ったシニアチームへのステップアップ。“翼を授かった”瞬間だった。
奇しくも、角田のレッドブルデビュー戦は母国レースである第3戦日本GP。RB21は“ホンダ特別仕様”の紅白カラーリングに衣替え。鈴鹿サーキットには、新たな門出を祝福するかのように満開の桜が咲き誇る……お膳立てが全て揃った。
これまでの日本人F1最上位は、鈴木亜久里、佐藤琢磨、小林可夢偉が記録した3位。それを塗り替える姿を目撃できるのではないか……ファンや関係者の期待が膨らんでいくのをよそに、角田本人はそのプレッシャーを「楽しんでいる」と冷静さを保とうとしていた。
そして角田は日本GP初日からトップ10に食い込む走りを見せた。予選ではQ2敗退、決勝でも12位と入賞に手が届かなかったものの、ドライバー交代が正しい選択だったということを証明した。
転機|第7戦エミリア・ロマーニャGP

Yuki Tsunoda, Red Bull Racing
満足感と悔しさが複雑に絡み合う感情と共に日本を後にした角田は、翌戦バーレーンGPで予選Q3に進出し、決勝は9位入賞。続くサウジアラビアGPは決勝で接触リタイアとなったもの予選で8番手タイムをマークしていた。またマイアミGPではF1スプリント、決勝共にポイントを獲得し、まさに上り調子だった。
こうした背景から角田は、レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコから、4度のF1チャンピオンであるマックス・フェルスタッペンに「迫ることができる唯一のチームメイト」という評価を得た。ヨーロッパラウンドが開幕するエミリア・ロマーニャGPでアップデートパーツを受け取り、さらにその差を縮めていくことに期待が高まった。
しかし、そんな筋書き通りには行かなかった。予選Q1最初のアタックで角田はRB21のコントロールを失い、マシンが横転する大クラッシュを喫した。決勝では最後尾から幸運にも助けられて10位入賞を手にしたものの、角田は落胆ぶりを隠さなかった。
「あのクラッシュは、自信を持つのに全くプラスにはならなかったと思います。まだ学びの段階です。あのクラッシュで、自分がまだこのマシンのことを全く理解していないことに気付きました」と角田はエミリア・ロマーニャGP終了後に語った。
「正直に言うと、あのクラッシュの瞬間は今でも鮮明に覚えています。コーナーにターンインしたところから、全てが予想外の動きでした。あの動きは、初めて体験しました」
ここから角田の歯車は噛み合わず、表彰台、優勝への距離も遠のいていった。
暗中模索|第9戦スペインGP

Yuki Tsunoda, Red Bull Racing Team
マシンに対する自信が最も重要なモナコGPで角田は予選順位が響いて17位、続くスペインGPでは予選最下位とレッドブルで初めて“底”を経験。チームとしては前任者ローソン以来の予選結果であり、2019年以降続くチームのセカンドシート問題は角田をもってしても解決できないかとも思われた。
角田が苦しんだ原因のひとつは、エミリア・ロマーニャGP予選でのクラッシュが関係していた。マクラーレンを筆頭とするライバルの後塵を拝するレッドブルがエースであるフェルスタッペンを優先せざるを得ない状況下で、角田は投入されたばかりのアップデートパーツを破損し、旧型パッケージの使用を余儀なくされていた。本格化する来季マシン開発にチームが多くのリソースを割く必要があるという事実も、角田にとっては助けにはならなかった。
スペインGPを13位で終えた以降も角田の低調は続き、カナダGPで12位と一度持ち直したものの、オーストリアGP、イギリスGPと2戦連続で完走したマシンの中で最下位となってしまう。ドライ/ウエットコンディション双方で激しいタイヤのデグラデーション(性能劣化)に悩まされ、他車との接触によるタイムペナルティが追い打ちをかけた。
しかし角田がパッケージ差を加味すると改善傾向にあったこと、フェルスタッペンすらRB21に手を焼いていたことから「苦戦の根本的な問題はドライバーではなくマシン特性にある」という風潮へと状況が変化していた。
一瞬の瞬き|第13戦ベルギーGP

Yuki Tsunoda, Red Bull Racing
角田はベルギーGPでもF1スプリントまではパッケージ差が足かせとなり、マシンそのモノの“限界値”も近いことを示唆していたが、レッドブルは予選から比較的新しい仕様のフロアを角田のRB21に投入。今度は壊すことなくQ3まで生き残り、7番グリッドを確保した。
ベルギーGP決勝ではチームとのコミュニケーションの問題で角田は入賞のチャンスを逃し、サマーブレイク前最後のハンガリーGPではフェルスタッペンを含めレッドブル全体として大きく苦戦を強いられた。しかし、そうした中でも、角田は予選パフォーマンスでフェルスタッペンに接近。ベルギーGPからクリスチャン・ホーナーに代わってチーム代表を務めることになったローレン・メキーズも「今回のユウキの結果は、実に力強いモノだった。おそらく、これまでで最高の結果と言えるだろう。スパでも進歩していたし、彼とエンジニアリングチームは、非常に良い仕事をしてきたと思う」とハンガリーで称賛のコメントを残した。
ベルギーGPの予選で光を放った角田。マシンへの適応やチーム全体としての苦闘から、2025年シーズン後半戦も楽な戦いにはならないということは想像に易い。そうした中でのドライバー個人としてのミッションは、持ち前のペースを活かし結果を最大化させることだ。サマーブレイク明けの初戦となるオランダGPは、8月29日(金)にザントフールトで開幕する。
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