『父親リスト』がラグビー界でも話題に…大谷翔平の赤ちゃん誕生10日前にリーグワンでも似た事案が起こっていた

妻の出産立ち会いの翌日、三重戦にフル出場してトライも決めた埼玉のコーネルセン(左=11日の三重戦で)

「父親ルール」検討の必要性を訴える埼玉のディーンズ監督

◇コラム「大友信彦のもっとラグビー」

 米大リーグのドジャース・大谷翔平選手の赤ちゃん誕生の際に適用された産休制度「父親リスト」が、ラグビー界でも話題になっている。同制度は最長3日間の取得が可能でその間、他の選手を出場登録できるものだが、大谷の赤ちゃん誕生前の10日、ラグビーリーグワンでも似た事案が起こっていた。

 11日に行われた三重―埼玉の試合後の会見。勝った埼玉のディーンズ監督はFWコーネルセンについて「昨日2人目の子どもが生まれて、今日は試合に出て勝って、トライも取った。彼にとっては良い週になったね」と祝福すると「子どもが生まれそうになったけれど、試合の登録メンバーから外せる規定がなかった。今後は日本協会でもルール作りを検討してほしいね」と続けた。

 日本では遅れがちな男性の産休、育休支援だが、育児参加へのサポートは社会の必然だ。スポーツ選手として活躍する年齢と出産・育児の適齢期は重なることが多い。社会に明るい話題を届けるのがスポーツの使命である以上、選手の育児参加サポートは競技の発展にとっても重要だ。

 では、ラグビーリーグワンでは出産によるメンバー変更は認められないのか? というと、実はそうでもなさそうだ。

 リーグワンではキックオフの48時間前にリザーブを含めたメンバーを登録する。登録メンバーの変更は規約で「負傷または急病等やむを得ない事情があり、かつ、主審およびマッチコミッショナーの承認を得た場合に限り認められる」とされている。リーグワン事務局によると、2022年に出産立ち会いのために出場登録選手変更が認められた実例があるという。出産への立ち会いは忌引と同様「急病等」の「等」に含まれるのだ―。だがその慣例は、具体的には記されていない。

 コーネルセンは出産への立ち会いも試合出場も望み、実際に試合前日に子どもが誕生し、結果として問題は生じなかった。だが陣痛の始まる時間、分娩(ぶんべん)にかかる時間は予測できないし、母体の安全も保証されてはいない。もし出産が遅れた場合はリーグに変更を申請できるのか? チーム内では規約を読み込みながら議論を重ねたという。22日、取材に応じたディーンズ監督はこう訴えた。

 「メンバーを変更できる理由の例として『出産立ち会い』の1行を加えるだけで選手や家族の精神的な負担は軽減できると思う。ルールが乱用されないよう配慮は必要だけど、リーグ運営の皆さんには検討をお願いしたい。選手の家族を守ることはラグビーにとっても大切なことですから」

 リーグもこの声を受け、来季に向け「出産立ち会い」の明文化を検討するという。グラウンド外でも選手が幸福を追求できるよう、運営側も進化を模索し続けている。

 ▼大友信彦 スポーツライター、1987年から東京中日スポーツ・中日スポーツでラグビーを担当。W杯は91年の第2回大会から8大会連続取材。著書に「エディー・ジョーンズの監督学」「釜石の夢~被災地でワールドカップを」「オールブラックスが強い理由」「勇気と献身」など。