【ランボルギーニ テメラリオ・1万回転の真意】「GT-R、S2000を所有する開発者の日本車愛」と「エンジン内部に日本製パーツ」
2025年9月1日に発売したMotor Magazine11月号の特集は「ザ・スーパーカー」。ド直球すぎるタイトルだが、いま再び、スーパーカーに焦点を当てる。今回はその中からPart1 ランボルギーニ編に登場したテメラリオの試乗記を紹介する。(撮影:永元秀和/アウトモビリ・ランボルギーニ S.p.A)

そもそもスーパーカーってどんなクルマなのか?

かつて少年たちの憧れだった「スーパーカー」。では、いまの時代、それはどう見えるだろうか。
そもそもスーパーカーの定義とは何か。流行りのAIに訊けば「その時代の『上位1〜2%』の性能と希少性で、非日常を体現する公道用スポーツ」との答え。さらに「①時代相対の頂点性能=当代ベスト層の加速・最高速・パワーウエイト②非日常の存在感=造形・音・パッケージが日常車と明確に一線③希少性×高価格=生産台数・価格・入手難度が特別を担保」の3点が必須条件らしい。
理屈としては理解できるのだが、かつて熱狂した少年たちは性能よりもまず「見た目」に心を奪われたのではないだろうか。実際、その性能を体験できたのはひと握りだったわけで。クルマ雑誌や漫画が高性能ぶりを伝え、世界が一気に広がった。
当時はスーパーカーと呼べるモデルも限られていたから、線引きは明快だった。だが今やセダンやSUVにもスーパースポーツ並みの性能を持つものがある。区別は難しく、時代は変わった。それでも、そんな曖昧さを抱えながらも揺るがない本質は、「人に夢を見せるクルマ」であること。
そこで今回は「2ドア」「全高が低い」という条件を大前提に、性能と見た目の両面でスーパースポーツを語れるブランドの象徴的モデルを厳選。ページをめくれば思わず唸る「カッコいい写真」で構成した(「カッコいい写真」はぜひMotor Magazine 11月号を手にとって御覧ください)。
前置きはこれくらいで。スーパーカー大特集のトップバッターを飾るランボルギーニの最新作、テメラリオを紹介しよう。
紫のテメラリオ、存在感の理由

最高許容回転数10000rpmに到達するV8ツインターボエンジンPHEVを搭載する「新世代の猛牛」テメラリオは純粋な「速さ」だけでなく、造形と体験で夢を更新してくれる。
実はテメラリオ、Motor Magazine誌には何度も登場している。直近では2025年2月号でも日本国内で撮り下ろして紹介した。今回も特集の表紙撮影に合わせ、先行して車両を押さえた。
ただし、撮影時は未登録車のため自走での移動は限られた敷地内のみ。エンジンは始動できたが、走行はごく短距離に留まった。10000rpmまで回る4L V8ツインターボの『アイドリングだけ』を味わうというもどかしい体験である。それでも、ビビッドな紫を纏ったテメラリオは、そのモヤモヤさえ払拭するほどの『スーパーカー然』とした存在感だった。
鍵はやはりスタイリングだ。以前、別な色で見た際には上品ながら幾分おとなしい印象も受けた。だが本来はド派手にもなり得る紫を、ここまで気品を保ったまま着こなすのは、デザインの完成度があってこそだろう。デザイン統括を務めたミーティア・ボルケルト氏は「レヴエルトとは明確に差別化したかった。極力ラインを減らし、よりクリーンな新しいデザインランゲージを採用した」と語る。

リアスタイルはレヴエルトともまったく異なる新しいデザイン。オートバイに影響を受けたというタイヤがむき出しの姿は新鮮で、電動化モデルが出揃ったランボルギーニ、新世代のスーパーカーを体現する。
そのインスピレーション源のひとつはオートバイ。切れ上がったリアまわりのメカニカルな処理はまさにバイクのそれ。325幅のリアタイヤはトレッドの半分以上が露わで、かなり斬新だ。
コクピットは、従来型より意外に余裕がある。操作系はレヴエルトにかなり近く、メーターやセンターコンソールのレイアウトも含め、乗り込んだ瞬間に気分は映画「トップガン」のマーヴェリック。自然と頭の中にはあの音楽が流れる。鼓動だって、もう高鳴りっぱなしだ。
それから約1カ月。ポルトガルでの試乗機会が巡ってきた。会場はエストリル・サーキット。試乗車のボディカラーは美しいブルーだ。やはり注目は、超高回転型V8ツインターボだろう。
アジアの中でもランボルギーニの販売が好調な日本では、いまだV12の人気が圧倒的。先行のレヴエルトも多くのバックオーダーを抱える。だがウラカンの後継となるテメラリオはV10自然吸気(以下、NA)ではなく、V8ツインターボ+PHEVを採用した。NA礼賛派の目にはどう映るのか。
テメラリオが示す10000rpmの美学

エンジン本体を眺めることはできない。ただしV8の文字の下にはイタリア語で「ORDINE DI ACCENSIONE(点火順序)」“15374826”と記されている。
数字を並べると、NAのウラカンの最高許容回転数は8500rpmだったのに対し、テメラリオはターボで10000rpmに到達する。一般にターボは高回転まで回さずともパワーが出せるので、回す必要がないというのが定説。F1は1.6L V6ターボで15000rpmだが、それは低回転域をあまり必要としないから。高出力・高回転を目指せば、低回転では過給の立ち上がりがレスポンス低下を招くので、市販車のターボで高回転化する必然性は薄い。
では、なぜテメラリオは10000rpmを実現したのか。その答えのひとつはハイブリッド化。低回転域はクランクシャフトに直結したリアモーターとフロント2基のモーターが巧みにアシスト、4000rpm以降は大型タービンが本領発揮してトップエンドまで一気に吹け上がる。まさにNAとターボのいいとこ取りだ。
なぜそこまで高回転にこだわったのか。技術トップ、ルーヴェン・モール氏が『カーガイ』だからと片づけるのは簡単だが、その影響は確かに大きい。歴代の日産GT-Rなど国産スポーツカーを多数所有する氏は、日本のクルマ文化にも深い理解を示す。とりわけ1999年に登場したホンダS2000に衝撃を受けたという。「まさに日本のエンジニアリングと野心。同じように後世に伝えるエンジンを目指したかった」そして、どのセグメントにも存在しない、唯一無二の「10000rpm」を狙ったのだ。
仕様は資料でも多くを語らないが、フラットプレーンクランク、チタンコンロッド、鍛造ピストン、フィンガーフォロワー式バルブトレーン、DLCコート……などの採用が読み取れる。もちろんそれだけで到達できる世界ではない。点火、燃焼、そしてそれらを束ねる制御。「レース志向の高回転ユニットを量産で成立させる」という矜持が全体を貫いている。ちなみにコンロッドメタルは日本製。それも10000rpmを支える重要部品のひとつとなる。
サーキットでの加速体感が塗り替える常識

メディア試乗会が行われたのはポルトガルにあるエストリル・サーキット。かつてF1ポルトガルGPも行われたこの場所でテメラリオをドライブ。コースは1周4.182 km、ストレートではゆうに300km/hを超える。
サーキットで走り出すと、走りは想像以上だった。以前、日本の富士スピードウェイ本コースでのレヴエルト試乗経験があるが、体感加速はこちらが上に感じられた。
0→100km/hは2.7秒、0→200km/hは7.3秒未満。スペック上はレヴエルトにわずかに及ばないはずだが、回転上昇の鋭さ、音、微振動の相乗効果か、加速感は強烈。猛牛の名に違わぬ荒々しさで、視界の先のコーナーへ瞬時に吸い込まれていく。だが深くブレーキを踏み込んでも挙動は乱れず、狙った姿勢で減速。そこから中回転域を経て再び10000rpmまで針が駆け上がる。
システム総合920psの出力を持ちながら、安定して加減速できるのは、減速時にリアモーターの回生を強め、加速時にはフロントモーターを積極的に使う前後モーターの配分を極めて巧みに操っているからだ。ローンチコントロール使用時にはさらに「限界突破」10250rpmまで回るという演出も痺れる。直線が続くなら、公称343km/hの先までも行けてしまいそうな勢いを感じる。
驚くべきは、直線番長ではないこと。これは独自の制御技術LDVIや電動トルクベクタリングを用いた現代のランボルギーニならではだが、非常識な速度域でも各コーナーをいとも容易くクリアしていく自在さを持つ。ハンドルの初期応答はレヴエルトと明確に異なり、より軽快でリニアさが強い印象。ドライバーの腕次第でまだまだ詰められる余地を感じた。専用開発のブリヂストン製タイヤのグリップ、連続走行でもタレない安定感は5ラップ×3本のセッションを通じて一貫していた。
もちろん、これはサーキットでの話。多くのオーナーがこの性能を公道で使い切ることはない。では、なぜここまでパフォーマンスを追うのか。ルーヴェン氏の言葉を借りれば「『このクルマはこれだけのパフォーマンスを持っている』というオーナーの誇りのため」。常に出し切る必要はない。だが『ここぞ』という場面で、誰もが間違いなく満足できる性能を備える、そこにこそ価値がある。
「新世代のランボルギーニ」は令和を代表するスーパーカーに、なる

走りの楽しさは「現行ランボルギーニイチ」と言っても過言ではない。このクルマのエンジンを10000rpmまで回すことができるオーナーに嫉妬する。
プログラムにはさらなるお楽しみも用意されていた。ひとつはドリフト体験。スポーツモード&ドリフトモードに設定し、サーキット内の1コーナーでトライ。初回こそ綺麗に決まったが、2本目以降はスピン・・・それでもハンドルとアクセルペダルで容易に向きを変えられるコントローラブルさ、ドライブモードで性格が明快に変わる柔軟性を確信した。
もうひとつはローンチコントロールによる発進加速。コルサモードで左足ブレーキ、ハンドル左上のフラッグマークを押す。ニュートラルでアクセルペダル全開、回転が高まり、ブレーキペダルをリリースした瞬間にロケットスタート。エストリルのメインストレートで停止から260km/h付近まで一気に伸びる。周回走行以上に、パワートレーンのリニアさと純粋なパワーを濃密に味わえた。
忘れてはならないのが高音域のV8サウンドだ。走行中はヘルメット越しで楽しむ余裕がなかったが、他メディアの全開走行時にサーキットに響く、レーシングカー然としたハイトーンは、快感。
「音」で言えば、オーディオも刷新された。イタリアのハンドクラフトブランド、ソナス・ファベール製サウンドシステムを選べる。これもEV走行が可能なテメラリオならではの楽しみか。時に静かに流し、極上の音楽に身を委ねるという『もうひとつの非日常』が味わえるのだ。
現実と非現実を自在に行き来させる、まさに夢のクルマ、すなわちスーパーカー。新世代のランボルギーニ、そして令和のスーパーカーの実力を、確かに垣間見ることができた。
今月はこの他にもアストンマーティン DB12、ベントレー コンチネンタル GTスピード、マクラーレン750S&GTSなどの最新モデルの試乗記から、フェラーリ、マセラティほかスーパーカーブランドが勢揃い。さらじ大特集の後半では1970年代の「スーパーカーブーム」に焦点を当てた特別企画「スーパーカークロニクル」も展開。あわせて、ぜひ御覧ください!
テメラリオ主要諸元
全長:4706m
全幅:1996mm
全高:1201mm
ホイールベース:2658mm
エンジン:4L V8 DOHCツインターボ+モーター
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速DCT
乗車定員:2名
0→100km/h加速:2.7秒
最高速度:343km/h

Motor Magazine11月号の大特集「ザ・スーパーカー」。各ブランド最新モデルの試乗記や解説、さらにはランボルギーニGIROやモントレーカーウィークなどのイベントレポートを掲載。後半には特別企画として、懐かしい1970年代の「スーパーカーブーム」の名車たちとその記事を再掲載。(撮影:永元秀和)