率直に言う 「国産車礼賛おじさん」が日本の自動車産業を滅ぼす

ネット礼賛の市場影響

 さまざまなネット記事のコメントを見ると、「国産車礼賛おじさん」が一定数存在することがわかる。彼らは長年、国産車を熱心に支持してきた。過去のコメントをたどると、ほぼ同じ内容を感情的に繰り返している。しかし、その言動には偏狭さがあり、市場にマイナスの影響を与える可能性がある。

【結婚したい企業ランキング】トヨタは3位! ホンダは何位?

 こうした層の発言には、国産車への強い思い入れが垣間見える。典型例は以下のとおりだ。

・新型モデルより先代モデルを繰り返し称賛し、新型車の改良を評価しない

・軽自動車や旧車、特にスポーツカーを過剰に評価する

・欧州車や米国車は「壊れる」「高い」と決めつける

・韓国・中国ブランドに露骨な拒絶反応を示す

・特定メーカーへの批判を繰り返し、他の消費者の購買意欲を削ぐ

こうした発言は個人の嗜好にとどまらない。ネット上で拡散されることで、新車の需要喚起を阻害しかねない影響力を持ち始めている。

軽自動車比率の功罪

ネット礼賛の市場影響, 軽自動車比率の功罪, 日本車の国際競争遅れ, 風評被害が競争力低下, 国際視点で商品力向上, グローバル市場との融合, 閉鎖市場と技術停滞

軽自動車(画像:写真AC)

 自動車産業の利益の源泉は、新車の開発・生産・販売にある。新車が売れるたびに買い替え需要が生まれ、経済循環の中核を形成してきた。

 2024年度の国内新車販売台数は457万5705台で、前年比1%増にとどまる。ピーク時の1990年の777万台からは半減に近い水準だ。市場縮小の背景には、

・高齢層の買い替え需要減少

・若年層の購入意欲低迷

がある。市場全体として需要が伸び悩んでいる状況だ。

 このような状況下で、「国産車だけが正しい」といった言説が消費心理をさらに冷やす影響は無視できない。外国車を受容せず、新型モデルすら否定する主張が繰り返されることで、市場の活性化は妨げられている。

「国産車礼賛おじさん」の嗜好は、軽自動車に偏向しがちだ。日本独自の規格で市場が形成されてきた軽自動車は、国内販売の4割近くを占めるが、ほとんどが輸出されず、グローバル市場での存在感は薄い。この構造は、消費者の文化的期待や社会的圧力が市場選好に影響を与えることで、需給バランスを歪めるリスクを含んでいる。

 さらに、旧車のスポーツカーを神格化する思想は、特定の世代やコミュニティのノスタルジーを反映し、旧車価格の高騰を招く。これが若年層の購買意欲を削ぎ、市場全体の拡大にブレーキをかけている。

 自動車産業の健全な成長には、こうした消費者心理に基づく偏狭な言説を見直し、国内外の多様な需要を取り込む戦略が不可欠である。

日本車の国際競争遅れ

ネット礼賛の市場影響, 軽自動車比率の功罪, 日本車の国際競争遅れ, 風評被害が競争力低下, 国際視点で商品力向上, グローバル市場との融合, 閉鎖市場と技術停滞

IEA Global EV Outlook 2025(画像:IEA)

 一方、世界の自動車市場では、電気自動車(EV)や高級車への需要シフトが加速している。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、中国の新車販売に占めるEVおよびプラグインハイブリッド車(PHV)の比率は、2024年に48%に達している。

 欧州でも、小型EVや高価格帯の多目的スポーツ車(SUV)で競争が激化している。テスラや比亜迪(BYD)などの新興勢力が市場をけん引し、技術革新はかつてないスピードで進んでいる。

 これに対して日本では、依然として軽自動車中心の需要構造が続く。国際競争との乖離が広がりつつある状況だ。外国車の受容性が低いため、国産メーカーは外圧による技術革新の刺激を受けにくい。競争力は磨かれず、

「井のなかの蛙」

と化しつつある。

 外国車を「高い」「壊れやすい」として受け入れない姿勢は、技術革新にブレーキをかけるリスクを孕む。日本の自動車産業は、国内市場だけに依存する限り、グローバル競争で遅れを取る可能性が高い。

風評被害が競争力低下

ネット礼賛の市場影響, 軽自動車比率の功罪, 日本車の国際競争遅れ, 風評被害が競争力低下, 国際視点で商品力向上, グローバル市場との融合, 閉鎖市場と技術停滞

SNSとデマ(画像:写真AC)

 このような閉鎖的な言動は、経済に悪影響を及ぼしかねない。国内の新車市場が縮小すれば、国産メーカーはスケールメリットを享受できず、研究開発費の回収が困難になる。経営を圧迫する事態に発展しかねない。

 さらに、自動車需要が軽自動車や旧車に偏重し、ガラパゴス化が進めば、世界市場の技術標準から断絶する局面も招きかねない。

「国産車礼賛おじさん」の情報発信が実体のない風評被害を広げれば、外国車のブランドイメージが毀損する。これにより撤退や市場縮小が起こる可能性もある。結果として、国内の自動車産業全体の競争力低下リスクが顕在化するのだ。

国際視点で商品力向上

ネット礼賛の市場影響, 軽自動車比率の功罪, 日本車の国際競争遅れ, 風評被害が競争力低下, 国際視点で商品力向上, グローバル市場との融合, 閉鎖市場と技術停滞

ホワイトハウス(画像:Pexels)

 では、どのような解決策があるのか。方向性としては、主に三つの切り口が考えられる。

 まず消費者の観点では、外国車を含む多様な製品を比較検討し、選択肢を広げることが求められる。情報発信においては、購買を抑制したり、風評被害につながる内容は避ける必要がある。実体験に基づいた合理的な評価を示す姿勢への転換が重要である。

 次にメーカー側の対応では、外国車や外資メーカーとの提携を積極的に活用し、国内市場での競争を刺激することが選択肢のひとつである。軽自動車依存から脱却し、国際市場を見据えた商品展開により、競争力を強化し商品力を向上させることも可能だ。また、中古車やサブスク型ビジネスモデルを活用し、若年層に新たな需要を創出することも有効である。

 政策的視点では、関税や規制の再設計により外国車参入を促し、市場競争を活性化させる必要がある。日本政府は、米国側の市場開放要求に応じ、非関税障壁の撤廃などで輸入促進に努める必要がある。また、EVや次世代車の普及を支えるインフラ投資を加速させるため、各種補助策も並行して推進することが求められる。

グローバル市場との融合

ネット礼賛の市場影響, 軽自動車比率の功罪, 日本車の国際競争遅れ, 風評被害が競争力低下, 国際視点で商品力向上, グローバル市場との融合, 閉鎖市場と技術停滞

自動車(画像:Pexels)

 これまでの成功事例を見ると、欧州市場では消費者がブランドにこだわらず、「性能・コスト」で判断する土壌が形成されており、EV普及を後押ししている。中国では、外資受容と国内競争をうまく融合させる一方で、BYDやNIOなどの新興メーカーが世界市場に打って出ている。

 日本では、かつてのバブル期に外国車シェアが急拡大し、1996(平成8)年には39万台を超えて過去最高を記録した(日本自動車輸入組合)。これに対する危機感から、国産メーカーが商品力を磨いた事例はいくつかある。1997年に発売されたトヨタ自動車の初代プリウスは、その顕著な例である。

 今後、外国車を受容する思考が消費者の間に広がることは、必ずしも国産メーカーにとって脅威ではない。むしろ、再成長を促す契機となり得る。そのため、日本の自動車市場は広く解放されることが望ましい。

閉鎖市場と技術停滞

「国産車礼賛おじさん」の言動は、懐古趣味にとどまらず、産業衰退を加速させる要因となっている。問題の核心は、閉鎖的な消費行動が自由競争を阻害し、技術革新を妨げる点にある。

 解決策としては、多様な選択肢を受け入れる市場環境を育てることが重要だ。国産メーカーが外圧を通じて進化する仕組みを再構築することも求められる。

 また、「国産車礼賛おじさん」の現象は、個人の嗜好や懐古趣味だけでは理解できない。社会的・文化的背景を映す鏡として捉えることが重要だ。彼らの発言や行動は、コミュニティや世代間の価値観伝達、社会的承認、消費選好の安定性にも影響する。

 偏狭な言説であっても、それが形成される社会的文脈や文化規範を無視して批判するだけでは、本質を捉えられない。市場の活性化や技術革新を促すためには、教育的・制度的な働きかけが必要だ。

 つまり、個人の信念やコミュニティ内の価値観が市場行動に与える影響を分析・理解した上で、消費者の選択肢を広げる戦略や国際競争力を高める施策を設計することが、持続的な産業成長には不可欠ではないだろうか。