トヨタのプチバン ルーミーが2025年7月の新車販売台数1位! 地味なのに9年たって売れ続ける不思議
ルーミー標準モデルのG-T。価格は206万5800円
トヨタのコンパクトワゴン、ルーミーが2025年7月の新車販売台数において1万150台で1位となった。2016年11月の発売から9年が経とうとしているのに、なぜこれだけ売れ続けているのだろうか? その秘密に迫ったみた。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ
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ボディタイプ別に分けるとルーミーがシエンタを抜きダントツ1位
ルーミー標準モデルのG-T。価格は206万5800円
自販連が発表した2025年7月の国内小型/普通車販売ランキングを見ると、1位のトヨタヤリス、2位のトヨタカローラに続いて、トヨタルーミーが3位に入った。
この内、1位のヤリスと2位のカローラは、複数のボディタイプを合計した台数だ。2025年7月におけるヤリスシリーズの登録台数は1万3904台で、この内、最も多く販売されたヤリスクロスは7480台で、ハッチバックのヤリスは5830台。
2位のカローラシリーズは1万2370台を登録しており、最も多い車種はカローラクロスで、5460台を占めている。内訳はカローラセダンが960台、カローラツーリングが2550台、GRカローラが300台、継続生産モデルのカローラアクシオが760台、カローラフィールダーが1430台である。
3位のルーミーは1万150台だが、ヤリスシリーズやカローラシリーズと異なり、ボディタイプは1種類のみだ。ユーザーから見れば、SUVのヤリスクロスとコンパクトカーのヤリス、SUVのカローラクロスとカローラセダンは別の車種になる。そこでボディタイプ別に集計すると、2025年7月の実質1位はルーミーの1万150台ということになる。
この後に、トヨタシエンタ(9289台)、トヨタアルファード(8206台)と続くから、小型/普通車販売ランキングの上位は、スライドドアを装着する背の高いトヨタ車で占められる。
■2025年7月新車販売ランキング
1位:ルーミー 1万150台
2位:シエンタ 9290台
3位:アルファード 8210台
4位:ノア 7770台
5位:ヤリスクロス 7480台
6位:ヴォクシー 7210台
7位:ライズ 7135台
8位:アクア 6831台
9位:ハイエースワゴン 6686台
10位:フリード 6572台
11位:ヤリス 5830台
12位:ヴェゼル 5691台
13位:ステップワゴン 5487台
14位:カローラクロス 5460台
15位:セレナ 5199台
16位:フィット 5180台
17位:ノート 5003台
18位:ソリオ 4310台
19位:ハリアー 4290台
20位:プリウス 4080台
直3、1LNAは62ps/9.4kgm(24.6km/L)、直3、1Lターボは98ps/14.3kgm(21.8km/L)。1Lターボは標準ボディ、カスタムともにG-Tグレードに搭載されている
ルーミーは7月だけ売れたのでは? と思う人もいるかもしれない。そこで2025年1~7月の販売ランキングを見ると2位~4位までは接戦でルーミーは5万5039台で4位だった。いずれにしても7月だけ売れたというわけではないということがわかる。
■2025年1~7月新車販売台数ランキング
1位:シエンタ 6万6167台
2位:フリード 5万5630台
3位:ライズ 5万5398台
4位:ルーミー 5万5039台
5位:ヤリスクロス 5万3440台
6位:アルファード 5万2945台
7位:アクア 4万8785台
8位:ノア 4万8465台
9位:ヴォクシー 4万6780台
10位:プリウス 4万5594台
そして軽自動車も、2025年7月の届け出台数をボディタイプ別に見ると、1位がホンダN-BOX(1万6714台/国内販売の総合1位)、2位はスズキスペーシア(1万4661台/国内販売の総合2位)、3位はダイハツタント(7782台)で、これも背の高いスライドドア装着車で占められた。統計上の3位はダイハツムーヴだが、ムーヴとムーヴキャンバスの合計だから、ボディタイプ別では順位が下がる。
前後席間の縦移動、運転席・助手席間の横移動など、車内の行き来がスムーズになる便利なスペースを確保
最近はSUVの人気が高く、小型/普通乗用車に占める割合は35%前後に達するが、販売ランキングの上位を占めるのは車内の広いスライドドア装着車だ。
これらの内、アルファード以外は、ボディのコンパクトな5ナンバー車と軽自動車になる。その代表がルーミーというわけだ。
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ルーミーは発売から9年が経とうとしているのに売れている理由
エアロスタイルのカスタムG-T
ルーミーで注意したいのは基本設計が古いこと。発売は2016年11月だから、既に9年近くを経過する。開発と生産はダイハツが受け持ち、トヨタに供給されるOEMだ。ダイハツブランドでも姉妹車のトールを販売している。ちなみにトールの7月販売台数は698台。
そしてルーミーは、開発者によると約2年という短期間で開発され、プラットフォームは2004年に発売されたトヨタパッソ&ダイハツブーンの初代モデルと基本的に同じだ。トヨタライズ&ダイハツロッキーが使うDNGAに比べて設計が古い。
ルーミーのプラットフォームは、もともと950kg前後の車両重量を想定して開発されたが、ルーミーの車両重量は1100kg前後と重い。全高も1735mmに達して高重心だから、走行安定性と乗り心地で不利になった。危険回避を想定した車線変更を行うと、ボディが左右に大きく揺り返し、段差を通過すると突き上げ感も生じる。
動力性能も同様だ。エンジンは直列3気筒1Lで、自然吸気のノーマルタイプでは、実用域を含めて幅広い回転域で駆動力が不足する。パワー不足に対応してターボモデルも用意したが、頻繁に使う2500回転前後でノイズが大きめだ。
両側パワースライドドア(ワンタッチオープン・挟み込み防止機能付)を採用
居住性では、後席の座り心地が柔軟性に欠ける。床と座面の間隔も不足して、足を前方へ投げ出す座り方になりやすい。そのほか安全装備も設計が古く、後方の並走車両を検知する機能は用意されない。右左折時に直進車両や横断歩道上の歩行者を検知して、衝突被害軽減ブレーキを作動させることもできない。従って機能では、ライバル車のスズキソリオと比べて見劣りするところが多い。
このようなルーミーが小型/普通車販売ランキングの実質1位になった背景には、複数の理由がある。まずはトヨタ車であることだ。ルーミーの開発と生産を行うのは前述の通りダイハツだが、一般的な認識は「クラウンやアルファードを手掛ける伝統あるトヨタの小型車」だ。ブランド力と安心感が高い。
販売店舗数もトヨタは国内で約4600箇所と多い。ホンダの約2100箇所、日産の約2000箇所に比べて2倍以上だ。都市部を中心にトヨタ車は他社よりも購入しやすく「販売店がたくさんあるから、どこで故障しても大丈夫」という安心感も大きい。しかもトヨタの店舗は全般的に敷地面積が広く、店内の商談スペースもゆったりしている。車検や点検で入庫する時もイメージが良い。
車両自体にもルーミーが好調に売れる理由がある。まず背の高いボディにスライドドアを装着するスーパーハイトワゴンになることだ。このタイプは軽自動車には豊富で、国内販売の総合1位になるN-BOX、総合2位のスペーシア、そのほかタント、日産ルークス、三菱デリカミニなども用意される。
ところが小型/普通車でスライドドアを備えた背の高い車種は、大半が3列シートミニバンだ。2列のスーパーハイトワゴンは、ルーミーとソリオ、その姉妹車やOEM車に限られる。
ルーミーには、助手席グローブボックス上のオープントレイや、センターコンソール下のセンタークラスターポケット、買い物フックなど、座席の周辺に収納スペースが豊富
そして本当はN-BOXやルーミーが欲しいが「近所に登り坂が多い」「親から軽自動車はやめておけと言われた」など、何らかの理由で軽自動車を避けたいユーザーもいる。小型車サイズのスーパーハイトワゴンが求められ、商品的にはソリオに注目すべき点が多いが、トヨタ車の有利でルーミーが売れ行きを伸ばした。
ルーミーが実用に徹して価格を割安に抑えたことも、販売が好調な理由だ。収納設備が豊富で、2016年の発売時点から、カップホルダーは500mlの紙カップを含めてさまざまなサイズに対応している。荷室の床を反転させると、汚れを落としやすい素材が貼られ、自転車を運んだ後の清掃もしやすい。
これらの特徴は、クルマ好きから見れば「走り曲がり止まる」という本質から離れた付加価値だが、街中を中心に使う実用重視のユーザーには大切な機能になる。
N-BOXの最も安いモデルとほぼ同額!
リアシートを前方にダイブイン格納させると、自転車などの大きな物からカーペットなどの丈の長い荷物まで積載可能
そしてルーミーには低価格グレードも用意される。最も安価なX・2WDは、装備はシンプルだが、価格も174万2400円と安い。軽自動車のN-BOXで最も安い標準ボディの173万9100円とほぼ同額だ。売れ筋になるルーミーG・2WDが193万9300円になる。売れた理由の1つに価格の安さもあるだろう。
このほかクルマの乗り替え周期が7~8年と長期化したことも影響しているだろう。購入時に所有しているクルマが7年落ちであれば、4~7万km程度は走っており、経年劣化も進んでいる。動力性能などに疑問を感じにくい。
ここまで販売台数が多いと、発売から9年近くを経過しながら、メーカーとしては「果たしてフルモデルチェンジする必要があるのか?」という話にもなるだろう。
デッキボードを跳ね上げ、フックをリアヘッドレストに固定すれば、高さのある荷物の積載が可能。リアシートをダイブインさせてボード裏面にある防汚シートを展開すると、室内を汚すことなく積み込めて便利
トヨタの販売店は、ルーミーについて以下のように述べた。
「今はコンパクトカーでも、全長が4mを超える車種が増えました。ルーミーのように3.7mに収まる車種は珍しいですね。しかもスライドドアを装着したから、いろいろなお客様が便利に使えます。
特に目立つのは、子育て世代よりも、むしろ高齢者のいる世帯です。親を病院へ連れて行く時など、スライドドアは乗り降りがしやすいです。納期も約4か月だからトヨタでは短い部類に入り、法人を含めて、急いでクルマを買いたいお客様にも選ばれています」。
以上のように、さまざまな理由により、ルーミーの販売は好調だ。ルーミーと同じく、ダイハツが開発と生産を受け持つコンパクトSUVのライズも数多く売られている。
ライズの2025年7月における登録台数は、ヤリスクロスと同等の7135台であった。ダイハツはトヨタの完全子会社として、国内販売では重要な役割を担っている。
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