大型SUVインフィニティ新型「QX80」成功の是非

インフィニティの新しいフラッグシップSUVである新型QX80(写真:平野 陽)

日本での発売も噂される日産自動車(以下、日産)の大型SUV「パトロール」。アメリカでは「アルマーダ」として展開されているが、じつは兄弟車と呼べるモデルが、もうひとつ存在する。それがインフィニティのフラッグシップSUVである「QX80」だ。

【写真を見る】日本では販売していない日産車、インフィニティのフラッグシップSUV「QX80」の内外装(20枚)

【写真】日本では販売していない日産車、インフィニティのフラッグシップSUV「QX80」の内外装(20枚)

発売から1年、新型QX80の状況

前身モデルにあたる「QX」から数えて4世代目、車名が「QX80」に改められてからは2世代目となる新型QX80は、2024年3月21日にアメリカで正式発表。生産は日本の九州工場で行われており、同年8月に初期ロットがラインオフしている。

試乗車は「AUTOGRAPH」という最上級グレードで、22インチホイールを標準装備(写真:平野 陽)

つまり本格的なデリバリー開始から、ちょうど1年が経過しようとしているところだが、2025年の第2四半期における販売台数は2872台を記録。先代モデルのみで構成される前年同期と比べ、28%増を実現した。2025年上半期では6936台、前年同期比47.1%増と好調に推移している。

全グレードに電子制御4WDシステムのINFINITI All-mode 4WDを設定(写真:平野 陽)

車両本体価格は、最安グレード「PURE」の後輪駆動モデルで8万2450ドル(執筆時のレートで1217万9560円)。今回試乗した最上級グレードの「AUTOGRAPH」で11万595ドル(同じく1633万7160円)と高額だが、セールス実績からは富裕層にしっかりアピールできていることがうかがえる。

最新デザイン言語“Artistry in Motion”を採用した最初のモデルでもある(写真:平野 陽)

人気の秘密は、まずその優美でおおらかなデザインだろう。新型QX80は、インフィニティの最新デザイン言語である“Artistry in Motion”をコンセプトにデザインされた最初のモデルである。直訳すると「動きの中の芸術性」となるが、よりシンプルに「動く芸術」と訳したほうがわかりやすそうだ。

印象的なフロントグリルのデザインは日本の竹林がモチーフ(写真:平野 陽)

先日、モントレーカーウィークで発表された最新モデルの「QX65」にも同じデザインコンセプトが貫かれ、豊かな曲線で描かれたシルエットはQX80と共通したものが感じられる。竹林をモチーフにしたフロントグリル、多灯レイアウトのLEDシグネチャーライトといったディテールも、今後のインフィニティ各車に引き継がれていく特徴となるだろう。

QX80のボディサイズ&パワートレイン

「AUTOGRAPH」のボディサイズは全長5364mm、全幅(ミラー・トゥ・ミラー)2349mm、全高1978mm。ホイールベースは3073mm(写真:平野 陽)

新型QX80のボディサイズは、全長が5364mmで、ホイールベースが3073mm。幅に関してはミラー・トゥ・ミラーで表記されており、2349mm(格納時で2115mm)に達する。全高はホイールやサスペンションの違いにより1945mmもしくは1978mmとなるが、まあ、とにかく巨大だ。

パワートレインは3.5リッターV6ツインターボエンジンと9速ATの組み合わせ(写真:平野 陽)

エンジンはパトロールやアルマーダと同じVR35DDTT型の3.5リッターV6ツインターボを搭載。従来は5.6リッターのV8エンジンを搭載していたが、最高出力は450hp(456ps)/5600rpm、最大トルクは516lb-ft(700Nm)/3600rpmと、ともに大幅に向上している。トランスミッションは9速ATだ。

電子制御サスペンションを備え、スポーティな走りを披露する(写真:平野 陽)

4つあるグレードのすべてに4WDを設定する一方、「PURE」と「LUXE」という下の2グレードにはFRも設定。「PURE」以外のグレードには、電子制御エアサスペンションとダイナミック・デジタル・サスペンションと呼ばれる減衰力をアクティブに可変するサスペンションが標準装備されている。

ボディ・オン・フレーム構造のシャシーは、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンション形式を採用し、フレームは従来型比でねじり剛性を25%、横方向の剛性を57%向上しているそうだ。実際乗ってみると、第一印象は予想以上にスポーティで硬めな乗り味に感じたのだが、距離を重ね、各種操作にも慣れてきたころには、それがあらゆるシーンで巨体を支える基礎となる「体幹の強さ」だと気づかされた。

電子制御エアサスペンションは、走行中は車高を約1.2インチ下げて空気抵抗を抑制する一方、オフロード走行時は逆に2.1インチ高く設定することも可能。当然、それに伴い重心の高さも上下するため、カーブを曲がるときのロールや凹凸による上下動の大きさも変化する。カーブの曲率が大きかろうと、急に強風に煽られようと、いついかなるときでも上質な乗り味が変わらないのは、強化されたフレームと緻密な可変制御を実現するサスペンションの賜物である。

ハンズオフ機能の「ProPILOT Assist 2.1」

「AUTOGRAPH」はハンズオフアシストも実現する「ProPILOT Assist 2.1」を標準装備(写真:平野 陽)

追い越しの提案はヘッドアップディスプレイにも表示され、スイッチひとつで自動制御のレーンチェンジを実現(写真:平野 陽)

そして、最上級グレードである「AUTOGRAPH」には標準で装備される「ProPILOT Assist 2.1」のハンズオフアシスト制御も見事だった。先行車のスピードが遅い場合は、メーターやヘッドアップディスプレイを通して追い越しを提案され、ステアリングに備わるレーンチェンジスイッチを押して承認すると、車線変更と追い越し加速を自動で制御。広野の一本道をひたすら直進することの多いアメリカでは、これ以上なく助けになる機能だ。

日本の文化もデザインに盛り込まれた新型QX80のインテリア(写真:平野 陽)

日本の「雅(みやび)」からインスピレーションを受けたというインテリアデザイン。京都の職人文化のように、柔らかな素材を幾重にも重ねた美しさと、14.3インチディスプレイを2枚並べた先進性とを融合させている。Googleが提供する車載OSのGoogle built-inも搭載され、直感的に操作できるGoogleマップがデフォルトで使えるのも、多くのユーザーにとって有益だろう。

9インチタッチスクリーンでエアコンや車両制御を操作(写真:平野 陽)

「AUTOGRAPH」は冷蔵庫も標準装備(写真:平野 陽)

センターコンソールには9インチのタッチスクリーンが備わり、エアコン操作のほか、走行モードの切り替えや車高の上げ下げといった車両操作にも対応する。また、「AUTOGRAPH」にはアームレスト下に冷蔵庫も標準装備され、長い道中、飲み物をつねに適温で飲めたのはとても助かった。

フロントシートは10ウェイパワーシートを標準装備(写真:平野 陽)

「AUTOGRAPH」はシートトリムもパリッとした座り心地のセミアニリンレザーで、試乗車はバーガンディの内装色を採用。シートヒーターやシートベンチレーションのほか、マッサージ機能も備わっている。アメリカのオーディオブランドであるKlipschのプレミアムオーディオシステムも標準装備され、低音の効いた素晴らしいサウンドを聴かせてくれた。

セカンドシートは7人乗りキャプテンシートを標準設定。「AUTOGRAPH」を除くグレードには8人乗りベンチシートもオプション設定されている(写真:平野 陽)

そして、さすがはフラッグシップと感心させられたのはセカンドシートの豪華さとサードシートの広さ。どの席に座っても快適に過ごせる空間が実現されていた。

「AUTOGRAPH」はセカンドシートにもタッチスクリーンコンソールを装備。エアコン、リクライニング調整、シートヒーターとシートベンチレーションの操作に対応。フロントシートと同様、マッサージ機能まで完備されている(写真:平野 陽)

大人でも十分座れるサードシートにも電動リクライニングを装備。「AUTOGRAPH」にはシートヒーターも備わる(写真:平野 陽)

サードシート使用時の荷室奥行きは約430mmと、必要十分な広さ。サードシート格納時は約1245mm、セカンドシート格納時は約2133mmと広大だ(写真:平野 陽)

ラゲッジスペースも先代モデルから拡大しており、サードシート後方で28%、セカンドシート後方で17%、それぞれ容量が増えている。荷室の側面にはセカンドシートとサードシートの格納・展開を行ったり、車高を上げ下げするスイッチも備わり、シート格納時のフロアもフラットで使いやすい。

荷室側からシートや車高を調整できるスイッチを装備(写真:平野 陽)

燃費について

カタログ燃費はコンバインドモードで17mpg(7.22km/L)だが、今回の試乗では510.2マイル(821km)を走行して、19mpg(8.07km/L)の平均燃費を記録。なんとカタログ燃費より優秀な燃費を叩き出してしまった。おそらくハイウェイの大半を「ProPILOT Assist 2.1」で走ったことにより、速度を一定に保てたことが大きく影響したのだろう。

デザインと先進性で、新型QX80は新時代のインフィニティを印象付けることに成功した(写真:平野 陽)

トランプ関税の影響は未知数ながら、新型QX80がインフィニティのフラッグシップを名乗るにふさわしい魅力にあふれていることは、今回の試乗を通してしっかりと確認できた。新時代のインフィニティを代表し、ブランドイメージを再構築する役割を、存分に果たしていくことだろう。