ロシア軍が戦場で日本の中古車を使い始めた可能性、早急な輸出規制が必要だ
ロシアの民間団体からロシア軍に引き渡された車両(2月23日撮影、写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ領土を攻撃しているロシア地上軍は侵攻当初、機甲戦力と呼ばれる戦車・歩兵戦闘車・装甲車が主体となり、火砲・電子戦・ドローンの支援を受けて攻撃していた。
そのため、これまで注目されてきたのは、戦車・装甲車・火砲・電子戦兵器・ドローンによる攻撃とその兵器の損失であった。
一方で、「軍用車両」(トラック、ジープ、タンクローリー車)は、攻撃や防御を行う兵器ではないこともあり、私は注目してこなかった。
注:今回の記事では、民間の一般車両(四輪車、オートバイ)を含めた場合、「車両等」の用語を使用した。
そして最近のロシア地上軍は、歩兵が徒歩または、オートバイに乗車して、無謀に攻撃する様相になってきている。
このような戦況にあって最近、車両やタンクローリー車の損失が急激に増加している。その数量は甚大である。
歩兵とともに前進する戦車や装甲車の損失が減少する中で、車両の損失が増加していることに異常性を感じている。
そこで、ウクライナ参謀部が公表しているロシアの車両等の損失データを見直して、月ごとの棒グラフ(グラフ1)にした。
グラフ1 車両とタンクローリー車の月ごとの損失推移
出典:ウクライナ参謀部が日々発表するデータを筆者がグラフにしたもの
今回は、ロシアが戦争で使用している「車両等」について次の順序で考察する。
①ロシア軍の車両等がウクライナに大量に破壊されている現状と車両等の損失が急増している理由。
②戦車等の損失を代替できる車両について。
③ロシアが戦場で使用する可能性がある中古車を輸出している国とその関わりについて。
④日本のロシアの地上作戦への認識と今後の対策について。
1.大量破壊されているロシア軍の車両等
ロシアが侵攻を始めた1年後の2023年2月頃には、車両等の破壊は約250両/月であった。
それから約1年後には約1000両に、その半年後に約2000両、さらに半年後に約3000両、4か月後に約4000両に達した。
最近の2か月は少し減少し、それでも約3500両の損失を出している。
侵攻後1年後でも約250両/月だった車両等の損失が、3年数か月後には約4000両の約16倍に増加したのである。
侵攻当初は6か月間で約1500両だったのが、ここ最近(2025年2月から7月まで)の6か月間では2万1100両であった。約14倍に増えているのである。
車両の損失が半年で約1500両であれば軍用車両の補充も簡単だが、2万両以上となれば、軍用車両だけで補充するのは難しいだろう。
2.なぜ車両等の損失が急増しているのか
車両等は通常、戦闘部隊の兵站基地(段列)や予備部隊の位置までしか前進して来ない。敵部隊から発見されないところまでしか出て来ないのが普通である。
だから、車両等が第一線まで進出して、敵から発見されて破壊されることはほとんどない。
それなのになぜ、前述のようにロシア軍の大量の車両が破壊されているのか。理由は2つある。
①ウクライナのFPV「First Person View(一人称視点)」ドローン攻撃により、ロシア軍の予備部隊および兵站基地、つまり、車両等がある位置まで攻撃できるようになったこと。
②車両等が第一線付近まで進出せざるを得なくなったことである。
①の場合、ウクライナ軍のドローン攻撃がうまくいっているとしても、ロシア軍の車両等の損失は多くても月に250両の3~5倍だろう。
つまり、750~1250両を超えることはないとみられる。ところが現在、その数をはるかに超えて、毎月3000~4000両の損失が出ているのである。
3.戦車等の損失代替は軍用車両
ロシア軍の戦車・歩兵戦闘車(戦車等)が約1万1000両、装甲車が約2万3000両、合計約3万4000両という膨大な数量が、ウクライナ軍によって破壊された。
グラフ2 ロシア軍の戦車等・装甲車の損失数の推移
出典:ウクライナ軍参謀部の日々の発表を筆者がグラフにしたもの
ウクライナ軍による月間破壊数により推定すると、戦車等では2023年10月から2024年6月まで月間400両近く、2024年7月から2025年4月までは月間約250両、2025年5月からは7月までは急激に減少し、7月には100両以下になっている。
装甲車では、2023年10月から2024年11月まで月間約700両、2024年11月から2025年4月までは月間約600両、2025年5月からは7月までは急激に減少し、7月には200両以下になっている。
損失数を合計すると、戦車では約6000両、装甲車では約1万3000両である。そして、現在ではこれらを投入できる数は、月間それぞれ100両と200両の合計300両だ。
戦車等と装甲車の製造や改修には、莫大な資金と時間が必要であるため、それらの数量を急激に増やすことはできないのである。
これらの戦車等や装甲車は、敵を直接攻撃するという役割が主な任務であるが、もう一つの任務として、歩兵を戦場まで運搬するという役割もある。
戦車等は兵をその上に乗せて(跨乗:こじょう)、装甲車はその内部に乗せて運ぶのである。
図1 歩兵を戦場まで運搬する要領(戦車等・装甲車がある場合)
出典:各種情報に基づき筆者が作成
ロシア軍の戦車等や装甲車が大量に破壊されている今、それらの代わりに、ロシア軍は車両による兵員・兵站物資の運搬に大量の車両等を補充していたのである。
戦場で使われる戦車等の数量が極端に減少したにもかかわらず、地上戦闘、特に歩兵の損失を厭わない攻撃(肉挽き攻撃)の勢いはやや衰えたとはいえ、続行、継続できている理由は、そこにある。
図2 歩兵を戦場まで運搬する要領(車両等で行う場合)
出典:同上
4.損失の車両は純粋な軍用車両なのか
戦車等・装甲車の損失が増加した2023年10月頃から現在まで、車両等の損失数は約4万8000両である。
ロシアはこの数量を、軍用車両だけで対応できているのか。
最近のロシア地上軍の攻撃の映像を見ていると、一般車両やバイクが使用されていることが分かる。それも極めて頻繁に使用されている。
侵攻当初は、多くの軍用車両が道路を埋め尽くしていた。その損失は、現在では5万両を超えている。
このため、軍用車両だけでは兵員や兵站物資の輸送ができず、民間の車両が徴用されて使用されているのだ。
一般の車両が戦場で発見されれば早々に破壊されるのは目に見えている。であれば、新車を戦場に投入するとは考えにくい。
そこで気になるのが、「これらの車両はロシア国内だけで賄えているのだろうか」ということである。
ロシアが通常の経済活動を継続しているかぎり、国内に余っている真新しい車両はないはずだ。
ロシアは外国から中古車を輸入していることになる。それは、どこなのか。
5.ロシアが中古車を輸入している国
「e-stat(政府統計の総合窓口)」によると、2024年度に日本から輸出された中古車は95万台。
輸出先は、1位ロシア(20.8%約20万台)、2位アラブ首長国連邦=UAE(20.8%約20万台)、3位モンゴル(11.1%約11万台)であった。
ロシアのAUTOSTAT情報統計局によると、ロシアは2025年上半期に約18万2000台の中古車を輸入した。
ロシアに輸出した国は、1位日本(49.5%約9万台)、2位韓国(22.5%4.0万台)、3位中国(12.4%2.3万台)、4位ジョージア(7%1.3万台)、その他(約9%)であった。
日本と韓国だけで72%13万台だ。
中古車の貿易情報を総合すると、中古車がロシアに直接渡っているケースとUAE、韓国、香港、モンゴルなどが迂回輸出国となり制裁回避のルートを取るケースがあるという。
ロシアはあらゆるルートを使って、中古車を輸入しているのである。
ロシアへの輸出規制はどのようになっているのか。中古車を含む自動車では、すべての車種の輸出が制限されているわけではない。
軍事転用可能な品目「ハイブリッド車(HV)」「プラグインハイブリッド車(PHV)」「電気自動車(EV)」「排気量1.9リットル超の内燃機関車」「貨物自動車」「ブルドーザー」などが輸出禁止品目になっている。
これらの輸出規制は、それらの部品が兵器に組み込まれることを防ぐためのものである。
現在のロシアでは、地上軍を支援するために大量の車両等が投入されている。そして、大量の損害を出している。
それらを補充しているものが中古車なのである。
ロシア市場では、基本的に耐寒性と耐久性を兼ね備えた車種が好まれている。それに加え、「過走行車」や「事故車」「水没車」なども輸出向け車両として注目されている。
壊れた車も、エンジンだけでも使えれば、ロシアの軍用車に組み込み使用することができるからだ。
ロシアは、地上作戦を継続するために、兵員と兵站物資を運ぶ中古車を大量に必要としている。違法な方法を使ってでも、中古車と車両部品を輸入しているのである。
6.ロシアの地上攻撃を支える中古車
ロシアの地上攻撃では、一般の中古車両が、兵員や兵站物資を戦場に運び、それらは兵器になっている。
そして、それはウクライナ軍によって大量に破壊されている。月間4000両という月もあった。
破壊されている車両数が4000両であれば、軍の地上作戦に実際に使用されている数量は、損失量の10倍以上、4万両以上が使用されていると考えられる。
これからも大量に破壊される可能性があるため、今後補充しなければならない中古車は10万台を超えるだろう。
それらを補充するための新車を製造する能力がロシアにあるとは考えにくい。中古車を購入していると考えるのが合理的だ。
輸入中古車によってロシアの地上作戦が継続できているのである。
ロシアが損失を出している車両の補充が、現在の半分になれば、兵員・弾薬・食料などを運ぶ量が半分になる。そして、戦闘回数は半分に減少するだろう。
100%補充ができなければ、地上攻撃はほとんど止まることになる。
戦場で使用されている可能性が高い車両の補充をしているのは、現在のところ規制外とはいえ日本なのである。
日本政府は、中古車のロシアへの輸出を直ちに規制すべきである。
ロシアへ輸出される中古車は兵器として使用されているのである。その量は数台レベルではない、10万台以上である。
日本から輸出された10万台以上の車両が、侵略国ロシアの地上攻撃を支援していると見なされれば、ウクライナや欧米から批判を招く危険性も高い。
日本は責任を重く感じるべきである。
ロシアは、あの手この手で迂回輸出、書類の偽造を行い、規制をすり抜けている。これは輸入国のロシアだけではできるものではない。
ロシアへ輸出するために規制のすり抜けに手助けしている国内外の企業が存在する可能性もある。
戦い方も使う兵器も変化した今、一般の車両が兵器として使われるようになった。それも10万台以上という車両の数である。
一般の部品が兵器に使われることを防ぐ安全保障貿易管理はこれまでどおり重要であり継続すべきであるが、大量の一般製品そのものが兵器と使用されていることも踏まえて、安全保障貿易管理を見直すべき時期に来ていると考える。