アニメ制作業界、売上増加しても“6割が業績悪化”の現実 版権持たぬは茨の道…課題が顕著に
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帝国データバンクが15日に発表したアニメ制作市場動向調査によると、昨年のアニメ制作市場規模は前年を4.0%上回る3621億4200万円となり、過去最高を更新した。一方で、元請・グロス請制作会社では6割が業績悪化に直面しており、アニメーター不足による制作コスト高騰が深刻化している実態が浮き彫りとなっている。
【画像】制作業界全体での規模の伸び・元請の経営状況など【図】
2024年の市場拡大は、テレビ・映画・動画配信サービスなど複数のプラットフォームでアニメ制作需要が旺盛だったことが要因となった。今年も引き続きアニメ制作の引き合いが強く、初となる4000億円への到達も想定される。
制作会社1社当たりの平均売上は12億3200万円となり、2021年以降4年連続で増加し、2000年以降で最高を更新した。業績動向では全体で「増収」が37.2%、「前年並み」が41.8%となった一方、「減収」は20.9%と前年から6.8ポイント低下し、2001年以降で最小となった。
元請は「売上高の伸びを上回る制作コスト高に直面」
しかし制作態様別に見ると、深刻な問題が浮かび上がる。直接制作を受託・完成させる能力を持つ「元請・グロス請」では、2024年の平均売上高は27億4900万円と4年連続の増加となったものの、損益面では「増益」が40.0%と前年から大幅に低下した。「減益」は25.5%、「赤字」は34.5%となり、赤字と減益を合わせた「業績悪化」の割合は60.0%を占め、3年ぶりに6割台を記録した。
この背景について同社は、アニメ作品の供給増に伴い「業界全体でアニメーターなどのマンパワー不足がより顕在化した」ことを挙げた。制作期間が想定以上に延び、コストが収入を大きく上回る逆ザヤを計上するケースが前年に比べて目立ったと分析している。
制作スケジュールを正常化するため、フリーランスのアニメーターや原画・動画専門スタジオに外注する本数も増えたが、下請制作でも同様に人材不足で受注可能な事業者が限定的であり、外注コストが高騰したという。
コストの高騰が如実に現れている制作業界だが、元請制作のうち大型アニメ作品やヒット作品に関連する制作会社はアニメ制作以外の事業、つまり二次利用を含むライセンス事業が好調となっており、売上高が大幅に増加したことも報告されている。
大手は“版権ビジネス”伸びる
実際、上場企業として業績を開示しているIGポートの資料によると、アニメ制作事業は11億162万円の営業損失を記録。同社は『SPY × FAMILY』『怪獣8号』などの制作を行っているが、制作期間の長期化やコスト高騰が響いた。しかし、制作作品を活用した版権事業については売上高39億5616万円(前期比31.7%増)と伸ばしていた。
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同社は今後の見通しについて、アニメ制作市場規模は過去最高を更新し続ける一方で、制作会社では売上高の増収ペースを上回る制作コストの高騰や人件費の増加、人材不足に伴う制作遅延といった状態が鮮明となり、コスト増を価格へ転嫁できない「利益なき繁忙」状態へ陥りつつあると警鐘を鳴らしている。アニメ制作産業の持続的な成長に向けた適正な取引環境の構築が欠かせないとの見方を示した。