「インドが独裁ロシアと縁を切れない理由」を偏差値70の中高一貫校受験生はどう解く?

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教科書や参考書の勉強だけでは太刀打ちできないのが、渋谷教育学園幕張中学の入試問題だ。地政学や野鳥の知識など大学入試レベルの問題がズラリと並ぶが、知的好奇心旺盛な子だけが解ける仕掛けが隠されている。東大合格者を多数輩出する渋幕が、本当に大切にしている力とは?※本稿は、佐藤 智『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』(飛鳥新社)の一部を抜粋・編集したものです。

渋幕の入試で問われるのは

思考力、読解力、好奇心

 入試問題には、その学校が育成したい生徒像が投影されます。私立校には建学の精神があり、その実現に向けてあらゆる学びが設計されていく。その学びの入口が、入試問題です。

 渋幕でいえば、「自調自考(編集注/渋幕が掲げる教育目標の1つ。「自ら調べ、自ら考える」こと。近年では、「自らを調べ、自らを考える」という意味へと深化している)の力を伸ばす」「倫理感を正しく育てる」「国際人としての資質を養う」が建学の精神にあたり、あらゆる教育活動がそれを軸に設計されています。

 渋幕の入試の傾向としていえることは、国語・算数・社会・理科の4教科すべて、文章量が非常に多いということでしょう。他の難関校と比較しても、長文が出題されます。

 つまり、「読解力」がとても重要となるのです。

 学園長講話の中でも教養が重視されており、その思いからか、日頃から活字に親しむ習慣が問われているように感じます。

 また、「思考力」も問われています。

 最近は中学入試全般において、「思考力」が重視されるようになりました。その中でも、渋幕はその傾向が顕著です。国語・社会・理科は知識を詰め込む学習だけではどうにもならない、知識を活かす力が問われています。

 こういった知識を広げたり応用したりするために大事なのが、「好奇心」といえます。

 ちなみに、卒業生の1人は、「好奇心をもって考えることが好きでなければ、あの入試問題を解こうと思わないんじゃないかな」といっていました。

地政学を知らなくても

想像力があれば解ける良問

 例えば、社会では、文章に書かれていることから背景をできる限り想像して、自分の知識と結び付け、それを記述に落とし込むような問題傾向が見られます。知識があるだけではなく、時事ニュースや日本の伝統など幅広い視野が求められていました。

 実際に問題を見てみましょう。2023年の二次入試における社会では、次のような問題が出ています。

 地政学という言葉があります。それは簡単にいえば、「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えること」をいいます。次の地図のように世界には、日本のように海に囲まれた国や、内陸部でたくさんの国と国境を接している国もあります。その国の置かれた環境によって、政治や経済などの考え方も変わってきています。

 例えばインド(A)は、インド亜大陸のほとんどを領有する連邦共和制の国家です。世界では第7位の国土面積と第2位の人口を持つ国であり、南にはインド洋があり、南西のアラビア海と南東のベンガル湾に挟まれています。都市部と農村部の経済格差は大きく、多くの人々が貧困に苦しんでいます。

 シンガポール(B)は、マレー半島先端部にある小さな島国です。少ない国土ではありますが、経済的には、アジア有数の豊かな国となっています。

同書より転載

 問 2022年2月に始まるロシアのウクライナ侵攻後、国際連合がロシアを非難する決議を重ねましたが、インドは全て棄権しました(2022年10月現在)。その理由を、インド北部の地政学的な要因と、それに関わる具体的な国名を1つあげて、解答用紙のわく内で説明しなさい。※ただし、「けん制」という言葉を必ず使用してください。

 いかがでしょうか。正直、大人から見ても難しく、大学受験レベルの問題が出ているように感じます。

世界にも社会にも自然にも

意識を向けておかねばならない

 少しだけ出題の背景を考えてみましょう。

 20万部を突破したベストセラー、『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』(田中孝幸/東洋経済新報社)の発売は2022年2月。前年からロシアとウクライナの緊張状態が高まっていたこともあり、「地政学」という学問領域が注目されていました。中学生以上向けの本ではありますが、小学生でも理解できることはたくさんあります。この本は前述の入試問題が出る日の約1年前には出版されているのです。

 設問に対する学校からの模範解答はありませんが、塾などが作成した解答を見ると、インドと中国の関係性を述べたものが多かったです。

 教科書や参考書だけではなく、目の前で起こっている世界や社会の情勢について、家族の会話の中で、触れていけるとよいのではないでしょうか。もちろん、重々しい話ばかりしていたら子どもも疲れてしまうので、関心を持った時だけでOKです。

 また、世界地図をトイレに貼っておく、それぞれの国にまつわるドキュメンタリー番組や旅番組をテレビで流しておく(大人はちょっとした旅気分を味わいましょう(笑))など、あらゆるシーンに学びの機会をつくっていくことはできます。

 理科も同様で、複雑な問題文を整理して読解する姿勢を重視しつつ、自然科学に触れる機会がどれだけあるかも問われているように感じます。

 例年理科でよく出る問題が、昆虫などの生物、植物などの写真を並べて、どれが何にあたるのかを答える問題です。2021年の一次入試では、次のような写真の中から、旅鳥である「シギ」と「チドリ」を選ぶ問題が出ました。

同書より転載

 これもなかなか難しい問題ですが、「イ」はよく見かけるスズメ、「ウ」はわからないけど冬でも池にいるのを見たことがある気がするから、旅鳥ではなさそう。

「エ」もよく見るハトで、「カ」はきっとカモだ……といった調子で、自然によく触れ合っている子どもであれば、消去法であてられるかもしれない内容です。

 世界の動植物をすべて丸暗記することはできません。ここでは、暗記力を問うているのではなく、身近な生活や体験から思考を巡らせて、自分なりの考えを構築していく力を問うているのでしょう。

机に向かう勉強だけでは

渋幕の入試は突破できない

 机に向かって得る学びだけではない、子どもの多様な体験と、それを通じてどんなふうに考えてきたかが重視されます。渋幕の入試問題には子どもの「思考力」「好奇心」を問うていきたいというメッセージが込められているといえるでしょう。

『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』 (佐藤 智、飛鳥新社)

 特に中学受験は年々競争が激化し、小さなうちから塾に通って何時間も勉強する……そういった子どもも増えています。けれど、渋幕では教科書や参考書での勉強だけでなく、社会や身の回りのことに好奇心を持って接してきたか、そして体験で得た知識をさまざまに組み合わせたり深めたりする力があるかを問われているような気がします。

 家庭ではわが子の関心に合わせて、自然の中でめいっぱい遊ぶ体験や、一緒に本を読んで感想をいい合う時間を設けてみるといいかもしれません。

 学びは「1+1=2」になるというような単純なものではありません。

 大人が意図した通りになるものではないのです。

 子どもはあらゆる場面で学んでいるという前提に立ち、「勉強のため」と狙いすぎず、子どもの好奇心に委ねながら多様な体験を一緒に楽しんでいきましょう。