住宅ローン金利の上昇懸念で「変動から固定」のシフト進む、より安全な住宅ローンを組むための最善策とは?

変動型の基準金利は年内にさらなる引き上げの可能性も, いま「変動→固定」に借り換えると返済額はいくら増えるのか, それでも変動型を利用したい人の「金利上昇に負けない対策」とは, 年収に占める「返済負担率」を低く抑えておくのが無難

住宅ローン金利の上昇圧力が高まり、変動型から固定型に切り替える人が増えている(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)

 2025年夏、各種金利の上昇傾向が強まり、住宅ローン金利の上昇圧力も高まっている。そのため、住宅ローンの金利タイプの希望を、金利リスクのある変動金利型からリスクの小さい固定金利型に切り替える人が増えている。今後の住宅ローン金利はどうなるのか、そして、より安全な住宅ローンを組むにはどうすればいいのか。住宅ジャーナリストの山下和之氏が解説する。

変動型の基準金利は年内にさらなる引き上げの可能性も

 住宅ローンには市中の金利動向によって適用金利が変更される変動金利型と、一定期間あるいは完済までの金利が固定されている固定金利型がある。

 変動型は市中の金利が上がれば適用金利も上がって返済額が増えるリスクがあるが、金利水準は低く設定されている。それに対して固定型は市中の金利変化にかかわらず金利、返済額が変わらないので安心だが、その分金利は高めに設定されている。

 この住宅ローン金利、変動型は貸出期間1年未満の短期金利に連動し、固定型は貸出期間1年以上の長期金利に連動する。その長短金利がここへきて、上昇傾向が明確になりつつある。なかでも金利リスクが大きい変動型の利用には注意が必要だ。

 変動型の金利のもとになる短期金利は、日本銀行が金利水準を決める政策金利で、わが国では長びくデフレ脱却のため、大規模緩和によるマイナス金利政策が取られてきたが、2024年3月にマイナス金利が解除され、「金利のある世界」に突入した。続けて2024年7月、2025年1月に追加利上げが実施され、政策金利は0.25%から0.50%程度まで引き上げられた。

 それによって銀行の優良企業向けの貸出期間1年以下の短期プライムレートが上昇。長く1.475%が続いてきたのが、2024年8月には1.625%に上がり、さらに2025年3月からは1.875%まで上がった。【図表1】にある通りだ。

変動型の基準金利は年内にさらなる引き上げの可能性も, いま「変動→固定」に借り換えると返済額はいくら増えるのか, それでも変動型を利用したい人の「金利上昇に負けない対策」とは, 年収に占める「返済負担率」を低く抑えておくのが無難

 短期金利に連動する変動型の基準金利は「短期プライムレート+1.0%」なので、多くの銀行では変動型の基準金利が2025年4月から2.875%に引き上げられた。実際の適用金利は利用者の条件に応じて金利引き下げが実施されるので、大手行では0.5%~0.7%台で利用できるようになっている。2025年初めまでは0.3%~0.5%台だったので、短期金利上昇の影響が変動型のローン金利にも表れ始めているわけだ。

 この短期金利、2025年内にもう一段、二段の引き上げがあるのではないかとみられている。そうなると変動型住宅ローンの基準金利は3%台となり、金利引き下げ後の適用金利も0%台から1%台まで上がる可能性が高いのではないだろうか。

いま「変動→固定」に借り換えると返済額はいくら増えるのか

 このところ金利水準の低さで注目度を高めてきたネット銀行の変動型金利も上がり始めている。

 ネット専門銀行は実店舗をほとんど持たないため、賃料や人件費などのコスト負担が少ない上、日本銀行の「貸出増加支援制度」を積極的に活用して、大手行より低い金利を提示。0%台前半の金利でシェアを伸ばしてきた。

 貸出増加支援制度というのは、民間企業への貸出を増やした銀行に対して、日本銀行が増加分と同額を市場より低い金利で貸し付ける制度で、ネット銀行各社はこれを利用して、住宅ローンの金利を引き下げてきたわけだ。

 しかし、その制度が2025年6月に終了。ネット銀行各社の金利が上がり始め、2025年7月にはネット銀行7社の平均金利がメガバンクより高くなってしまった。それも住宅ローン金利の上昇に拍車をかける形となっている。

 このように変動型の金利上昇が始まり、リスクが高まっていることもあり、より安全度の高い固定型を志向する動きが強まっている。

 不動産・住宅情報サービスのLIFULL HOME’Sが、「住宅購入者と購入検討者に聞いた『住宅ローンに関する意識調査』」を実施している。それによると、【図表2】にあるように変動型の利用率は、現在ローンを利用している人では、69.7%から64.1%に減り、今後利用を考えている人でも57.3%から56.0%に減っている。

 代わって固定型の全期間固定型は、現在利用している人では22.2%から24.4%に、今後の利用を考えている人では35.1%から38.4%に増えている。

変動型の基準金利は年内にさらなる引き上げの可能性も, いま「変動→固定」に借り換えると返済額はいくら増えるのか, それでも変動型を利用したい人の「金利上昇に負けない対策」とは, 年収に占める「返済負担率」を低く抑えておくのが無難

 そうした点を考慮すると、変動型を利用している人は、本格的な金利上昇が始まる前に、多少返済額が増えることを覚悟して、固定型に切り替えておくのが無難かもしれない。

 例えば、借入額5000万円、金利0.5%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は12万9792円で、5年経過後の残高は4338万1430円。この時点で、金利1.5%の固定型に切り替えると返済額は14万9718円に増えてしまうが、安全のためには避けられない増額かもしれない。

 この試算は借り入れから5年が経過している人の例だが、借り入れからの経過期間が長くなるほど借り換えによる金利上昇の影響が小さくなるので、さらなる金利上昇が始まる前に、固定型への借り換えを実行するべきだろう。

 上記の条件で、10年が経過している人だと残高は3659万5345円に減り、1.5%の固定型に借り換えると毎月返済額は14万6358円になる。

 20年が経過していれば残高は2250万3566円まで減り、1.5%の固定金利型に借り換えたとしても返済額は13万9689円で済む。残りの返済期間が少ないからと安心せず、一層の安心を買うための投資と考えて借り換えを実行してみてはどうだろうか。

それでも変動型を利用したい人の「金利上昇に負けない対策」とは

 金利上昇による増額を回避するために、固定型に借り換えておくのが安心なのだが、実際のところ、金利上昇でどのくらい返済額が増えるのだろうか。

 変動型の返済額の見直しは5年に1度なので、現在3年が経過している人は2年後に適用金利が上がり、返済額が増えることになる。

 3年前に5000万円を金利0.5%、35年元利均等・ボーナス返済なしで借りた場合、毎月の返済額は12万9792円だが、今から2年後、借り入れから5年が経過したときには適用金利が見直され、返済額が増えることになる。

 5年後の金利が0.5%から0.7%になっていると返済額は13万3634円で、3.0%の増額。1.0%に上がっていると13万9531円で、7.5%の増額。1.50%では14万9718円で、15.9%の増額になる。

 おそらく現在の経済状況などからみると、この程度の上昇や増額は避けられないので、それまでに家計管理を徹底して、返済額の増加に対応できるようにしておきたい。また、増額前の負担が少ないうちに貯蓄を進め、増額時に繰り上げ返済で、毎月の返済額を減らすといった対応もありかもしれない。

 一方、これから住宅ローンの利用を考えている人にとっては、金利上昇により返済額が増えるため、ローンを組みにくくなり、場合によっては借入額の抑制、物件選択の見直しが必要になるかもしれない。

 とはいえ、変動型の金利の低さは捨てがたい。前出のLIFULL HOME’Sの調査でも、変動型希望が減っているとはいっても、まだまだ固定型より希望者が多いのが現実だ。それだけに、変動型を利用する場合には、十分な対策を立てて、金利上昇に負けないようにしておきたい。

 何より大切なのは、自己資金を増やしておき、できるだけ金利上昇の影響を小さくすることだ。

 借入額5000万円だと金利1.0%の毎月返済額は14万1142円だが、自己資金を増やして借入額が4000万円になれば、返済額は月々11万2914円に減少する。毎月の生活にゆとりが生まれ、新居での生活も明るくなるのではないだろうか。もちろん、金利上昇による返済額の増額にも耐えやすくなるだろう。

 また、借入額を減らして自己資金割合を高くしておけば、将来的にマイホームの価格が下がったとしても、住宅ローン残高が売却可能額を上回る“担保割れ”になりにくいというメリットもある。

 ローン残高が売却可能価格より少なくなれば、スムーズに売却できる可能性が高い。金利上昇による返済額増加で返済が難しくなっても、売却して身軽になり、もう一度仕切り直すことができるわけだ。

年収に占める「返済負担率」を低く抑えておくのが無難

 また、年収に占める年間返済額の割合を意味する返済負担率を、できるだけ低くしておきたい。

 銀行では年収400万円以上なら返済負担率35%まで融資が可能だが、年収の高い人なら返済負担率35%でも大丈夫かもしれないが、年収が数百万円であれば、25%程度に抑えておくのが無難だ。35%まで借りていると、金利が上がって返済額が増えると、たちどころに返済が苦しくなってしまう。

 それでは必要な金額を借りられないという場合は、計画の見直しや延期を実行するのも勇気ある決断ではないだろうか。

 さらに、可能な範囲で返済期間を短くするのも有効である。返済期間を短くすれば、毎月返済額が増えるが、逆に完済までの総返済額を減らすことができる。返済中に金利が上がって、返済額が増えるときにも、返済期間が短いほど増額率が低くなるというメリットがある。

 例えば、5000万円を金利1.0%で借りる場合、35年返済だと毎月返済額は14万1142円だが、5年後に金利が2.0%に上がると毎月16万2197円に増え、増額率は14.9%に達する。

 それが20年返済だと毎月22万9947円に増えるが、5年後に金利が2.0%に上がっても返済額は27万7242円で、増額率は7.5%にとどまる。20年返済を15年、10年と短縮できれば、リスクは限りなく小さくなる。

 いま変動型を利用している人も、これからの利用を考えている人も、今後の金利上昇に備える対策を立てて実行すれば、金利上昇も怖くなくなるはずだ。