首相候補は必然?「高市早苗の演説」が気になる訳

要所に差し込まれる「関西弁」の妙, あえて一点に集中する理由, 「シルエット」の説得力, 笑顔が少ないのが課題ではあるが…

各メディアの世論調査で「次期首相候補」に名前があがる高市早苗衆議院議員(画像:高市早苗公式Instagramより)

テレビ中継の画面越しに突き刺してくる視線。街頭演説では、腹から響く声が群衆を一瞬で黙らせる。派手な衣装も大げさなジェスチャーもない。それでも「この人なら最後まで貫く」と感じさせる──。

【写真】珍しい? 高市早苗議員の「ド派手なジャケット」と「説得力マシマシなファッション」

各メディアの世論調査で「次期首相に相応しい人物」のランキングに名を連ねる、自由民主党の高市早苗衆議院議員。その背景には、言葉を超えた存在感の強さがある。

これまで積み重ねてきた経験が政策論争での強さを支えているのと同時に、声や視線、服装、所作──この4つの要素も、彼女の“迫力”を支えているのは間違いない。

要所に差し込まれる「関西弁」の妙

高市氏の最大の武器は「声」である。国会や街頭で耳に残るのは、腹から響く低めの声だ。語尾まで力が落ちず、聞き手には「この人は揺るがない」という印象を残す。

興味深いのは、標準語で淡々と政策を論じつつ、要所で関西弁を差し込む点だ。緊張感ある論理に生活感のある響きが混ざることで、語りに独特のリズムが生まれる。聴衆は「説明」と「本音」の両方を行き来することになり、その緩急こそが説得力を高めている。

声の高さそのものも、非言語戦略の要素である。高い声は感情的に響きやすく、権威を弱めるリスクがある。一方、低い声は安定感や信頼感と結びつきやすい。

英国で女性初の首相となったマーガレット・サッチャーは、就任前に徹底したボイストレーニングを行い、声を低く鍛え直したことで知られている。女性が男性中心の政治の舞台で「首相」という地位を目指すとき、声は単なる個性ではなく、権威の象徴に変わるのだ。

高市氏もまた、もともと低めの声を持ち、それを抑揚や間の取り方で生かしている。自然体のまま説得力を伴う声質は、彼女が次期首相候補として存在感を放つうえで、大きな資産になっている。

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演説上手として知られる高市氏。「声」も影響している(画像:高市早苗公式Instagramより)

あえて一点に集中する理由

討論や対談での高市氏は、視線をそらさず相手を見据える。さらに強調したい局面では、眼を見開き、一瞬静止する。

歌舞伎の「見得」のように、その瞬間が場を支配する。そこにはわずかな緊張感が漂い、見る者に静かな圧力を印象づけるのだ。

政治家の中には、聴衆全体に視線を散らして柔らかさや親近感を印象づけるタイプも少なくない。しかしそのスタイルは、対立局面では迫力や支配性に欠けることがある。

高市氏は演説の際には広く視線を配るものの、討論や対談では視線を一点に束ね、射抜くようなまなざしで、揺るがない意志や強固な立場を強烈に伝えている。

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射抜くような視線の強さも持ち味(画像:高市早苗公式Instagramより)

心理学の研究では、強い視線は優位性や権威のシグナルとされる。さらに近年の実証研究では、強いアイコンタクトが「有能」「カリスマ的」といった評価につながりやすいことが示されている。

高市氏の“視線戦略”は、まさにその効果を最大限に引き出し、場全体を掌握する力として機能している。とりわけ女性政治家において、ここまで視線を強く前面に打ち出す例は稀であり、彼女の存在感を際立たせる要因となっている。

高市氏の装いは一貫している。白・黒・紺系のスーツに、パールや銀の細身のネックレス。余計な装飾を避けることで、聴衆の注意は声や表情に自然と集まり、伝えたいメッセージが濁らない。

シンプルさは迫力を削ぐどころか、むしろ注目を一点に集中させる戦略として機能している。

「シルエット」の説得力

とりわけ重要なのは、シルエットがもたらす効果だ。

肩幅のしっかりしたジャケットは舞台上での存在感を際立たせ、直線的なラインは決断力や統率力を、張りのある素材は力強さを直感的に印象づける。

男性が多数を占める政治の世界では、こうした要素が視覚的に「引けを取らない」印象を与え、リーダーとしての立ち位置を強固にしている。

心理学でも、直線は強さや緊張感と結びつき、曲線は親しみやすさや柔和さを連想させることが知られている。つまり彼女の装いの選択は、「強いリーダー像」を補強する方向に働いているといえる。

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しっかりとした肩幅を強調するようなジャケットを選ぶことが多い(画像:高市早苗公式Instagramより)

さらに、高市氏の装いは、横から見たときに奥行きのあるシルエット(または立体感)を生み出している。歴史的に見ても、権威を象徴する服装は男女を問わず「立体感」を強調してきた。軍服や制服が肩や胸元を整えるように設計されてきたのもそのためであり、ビジネスの世界でも立体的な仕立ては信頼感と安定感を伝える。

壇上に立つ経営者やリーダーが堂々と映るのも、服の構造と姿勢が一体となって「揺るぎなさ」を示すからだ。

高市氏のテーラードジャケットスタイルもまた、直線美を強調する仕立てと張りのある素材によって立体感を際立たせ、装いそのものが力強さを補強している。

テレビ番組などでの所作は抑えめだが、対談や演説では場面に応じて動きに強弱をつけている。演説で大勢に語りかけるときには手のひらを左右や上に大きく広げて空間を掌握するように示し、細部を説明するときには指先や小さな動きで補う。

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ストンと直線的なシルエットの洋服が特徴的(画像:高市早苗公式Instagramより)

ビジネスのプレゼンでも、全体像を示すときには大きな身振り、要点を押さえるときには小さな動きが効果的とされる。高市氏の演説も同じで、腕の振りや掌の開きが言葉とぴたりと合うことで、聴衆は自然に引き込まれていく。言葉と所作の一致は、伝える力を何倍にも高めている。

笑顔が少ないのが課題ではあるが…

一方で、課題は笑顔にある。

彼女の笑みは突然現れてすぐに消えることが多く、自然さよりも作為性を感じさせる。本物の笑顔は目元まで動き、余韻を残して続くのに対し、一瞬で消える笑顔は形だけと見なされ、時に相手に緊張や距離を感じさせてしまう。

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身振りや所作も説得力を増しているが、笑顔の作り方が課題でもある(画像:高市早苗公式Instagramより)

とはいえ、笑顔は「つねに多ければよい」というものではない。むしろ、所信表明や政策論争の場で無理に笑みを作れば、迎合や弱さと受け止められる危険がある。

重要なのは、強さを打ち出す場面ではあえて笑顔を抑えつつ、言葉を言い切った直後など緊張が解ける瞬間に自然な笑みを余韻として残すことだ。その一瞬が、威厳を保ちながら温かみも伝えるバランスを生み、リーダーとしての幅を広げていく。

要所に差し込まれる「関西弁」の妙, あえて一点に集中する理由, 「シルエット」の説得力, 笑顔が少ないのが課題ではあるが…

2025年4月に台湾を訪れ、前総統の蔡英文氏との会談などを行った高市氏は珍しく派手な柄のジャケットをチョイスしていた画像:高市早苗公式Instagramより)

もし彼女が首相の椅子に座ったとき、その声や視線がどんな日本像を世界に映し出すのか──。それは、日本で初の女性首相が誕生する可能性を含め、まだ未来に委ねられている。

ただ確かなのは、非言語の力が理念や政策と同じくらい、リーダーの印象を左右し、人々の記憶に残る要素となることだ。そう考えると、彼女の姿は「次の日本のリーダー像」を思い描くうえで、示唆に富む存在といえる。