イーサリアムの急上昇でアルトコイン市場に再び熱気、過去バブルとの違い・値崩れのリスクは?

イーサリアムが牽引するアルトコイン市場。その背景、そしてリスクは?(写真:Imagepocket/イメージマート)

 2025年8月に入り、株式市場が連日のように史上最高値を更新する中、ビットコインも1BTC=12万4000ドルと過去最高値を記録した。米国の利下げ期待や関税リスクの後退を背景に、投資家のリスク選好が回復し、リスク資産全体に資金が流入している。

 こうしたなか、暗号資産市場ではビットコインだけでなく、いわゆるアルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産)への注目も一段と高まっている。特にイーサリアム(ETH)が市場を牽引しており、投資家の間では「アルトシーズン」が再来するとの声も広がりつつある。本稿では、アルトコイン市場の現状と今後の行方を読み解いてみたい。

(松嶋 真倫:マネックス証券 暗号資産アナリスト)

アルトコインの代表格、イーサリアムが急上昇

 低迷が続いていたイーサリアムは、主要アルトコインの中でも特に力強い上昇を示している。2025年4月の安値から米ドル建てで2倍以上の反発を果たし、足元では2021年11月に記録した過去最高値(約4900ドル)に迫る水準まで急騰している。

イーサリアム/米ドルのチャート(出所:Tradingview)

 イーサリアムは、ビットコインに次ぐ時価総額を誇る暗号資産で、単なる決済手段ではなく、アプリケーション開発や取引サービスを支える基盤として機能している点が特徴だ。新しいデジタル経済のインフラと位置づけられ、金融市場でも投資対象として徐々に存在感を高めつつある。

 この急伸を牽引したのは、米国市場におけるイーサリアム現物ETF(上場投資信託)への資金流入である。8月中旬には1日で10億ドルを超える純流入が確認され、関連ETFの総運用額は200億ドルを突破した。ETFを通じた旺盛な需要は、一過性ではなく継続的なトレンドになりつつあることを示している。

 加えて、米国では「ステーキングを組み込んだETF」への期待が高まっている。ステーキングとは、保有するイーサリアムをブロックチェーンのネットワークに預け入れ、その維持に貢献することで報酬(利回り)を得られる仕組みであり、暗号資産特有の“預金利息”のようなものだ。

 米証券取引委員会(SEC)は2024年以降、ステーキングを直ちに証券と見なさない姿勢を示しており、年内解禁の可能性が意識されている。もし現物ETFにステーキング利回りが加われば、価格上昇益と安定した収益を同時に享受できる投資商品となり、年金基金や保険会社といった長期運用主体にとって魅力的な選択肢となるだろう。

 機関投資家の関心の高さは調査データにも表れている。2025年3月にCoinbaseとEYが共同発表した調査によれば、回答者の約83%が年内に暗号資産への投資比率を引き上げる意向を示しており、その大半はビットコインとイーサリアムをコア資産に位置づけていた。

 一方で、企業による需要の拡大も見逃せない。米国ではBitMineやSharplink Gamingなどが、マイクロストラテジー社のビットコイン戦略を踏襲し、資金調達を通じてイーサリアムを継続的に購入している。企業によるイーサリアム保有総額はすでに100億ドル規模に達しており、一部はステーキング運用で利回りを確保しながら長期保有にシフトしている。

 こうした動きを反映して、アナリストや金融機関は相次いで価格予想を上方修正している。英スタンダードチャータード銀行は最近のリサーチで、2025年末のイーサリアム予想を従来の4000ドルから7500ドルへと大幅に引き上げた。想定を上回るETF需要とオンチェーン取引の活発化を理由に挙げており、イーサリアムが再びビットコインに次ぐ市場の主役に躍り出つつあることを示唆している。

米国では多様なアルトコインへの注目が集まる

 米国ではアルトコイン関連の金融商品が着実に拡充している。CME(シカゴ商品取引所)は今年3月にソラナ(SOL)先物、5月にリップル(XRP)先物を上場させるなど、ビットコイン・イーサリアム以外のデリバティブ市場整備に乗り出している。

 また、米SECには数十本に及ぶアルトコインETFの申請が行われており、その中でもCMEで先物が上場したソラナとリップルについては承認期待がとりわけ高い。ソラナは先行して2025年7月に米国初のステーキング対応ETFが承認されており、リップルについても、米SECとの長年の訴訟問題がひと段落したことから、米国での承認は時間の問題とみられている。

 制度面での整備と並行して、企業によるアルトコイン投資も広がりつつある。ビットコインを自社財務に組み入れる動きはマイクロストラテジー社やメタプラネット社などを通じて市場に浸透してきたが、アルトコインを大量取得する企業はまだ少なく、発表と同時に株価が急騰するケースが目立っている。

 代表的な事例が、米ナスダック上場のDeFi Development社(ティッカー:DFDV )である。同社は2025年4月にソラナを財務戦略の中核に据える方針を発表して以降、購入を継続し、現在の保有量は約140万SOL(約2.5億ドル)に達している。SOL価格の上昇も相まって、株価は年初来で数十倍という驚異的な上昇を遂げている。

ソラナ/米ドルのチャート(紫色・右軸)、DFDV株価(赤色・左軸)(出所:Tradingview)

 他にも、リップルを財務戦略に組み込むWellgistics Healthや、バイナンスコイン(BNB)を採用するWindtree Therapeutics、さらにはドージコイン(DOGE)を購入するBit Originなど、様々なアルトコインを購入する事例が相次いでいる。いずれも保有銘柄の上昇時には株価が連動して動いており、アルトコイン財務企業は暗号資産に間接的に投資する手法としても人気を集めつつある。

 このようにアルトコインについても、規制整備や金融商品の拡充に伴って、個人投資家だけでなく機関投資家や企業による投資が徐々に拡大している。

 ただし、実際にアルトコイン購入に踏み切っているのは、いずれも中小規模の上場企業や一部のヘッジファンドが中心である点には注意が必要だ。

 流動性が相対的に限られる市場で、こうした投資主体が一斉に売りに回れば価格変動が増幅されるリスクもある。拡大する投資トレンドの裏側には、相場下落時に売り圧力が急激に高まる可能性が潜んでいる。

アルトコインブームは続くのか?

 イーサリアムをはじめ主要アルトコインが上昇するなか、市場では2017年末や2021年に見られたような「アルトシーズン」の再来が期待されている。当時はビットコインの上昇に呼応して資金が一斉にアルトコインへ流れ込み、上位銘柄から草コインに至るまで軒並み高騰する局面があった。

 今年も7月以降、相場には同様の兆しが現れている。ビットコインドミナンス(暗号資産全体に占めるBTCの時価総額比率)は7月時点で約65%だったが、その後イーサリアムなど主要アルトコインの上昇に伴い急低下し、足元では60%を割り込んでいる。

BTCドミナンス(出所:Tradingview)

 実に半年ぶりの低水準であり、資金がビットコインからアルトコインへ移りつつあることを示している。実際、8月にはイーサリアムがビットコインを大きくアウトパフォームし、他の主要アルトコインも揃って上昇した。

 もっとも、過去のように「どのアルトを買っても上がる」楽観的な相場が再現する可能性は低い。ひとつは供給過剰の問題である。現在では数万種類のアルトコインが存在し、誰でも容易にトークンを発行できる環境が整った結果、市場は希釈されている。さらに、暗号資産の主要インフラがすでに出揃ったことで、DeFiやNFTが出始めた頃のような、新しいブレークスルーが生まれにくい構造になっている。

 もう一つの要因は市場参加者の構造変化だ。ビットコインではすでに最大供給量の15%超をETFや上場企業、政府系機関といった大口主体が保有しており(BitcoinTreasuries)、市場は個人主導から機関主導へと転換しつつある。また、イーサリアムを中心に主要アルトにも同様の流れが波及しており、今後は機関層が支持する銘柄に資金が集中する展開が予想される。

 こうした要因を踏まえれば、今回の相場は熱狂的なアルトコインバブルではなく、機関層が支持する銘柄を中心に選別色が鮮明になる展開になりそうだ。今後はプロジェクト単位で事業や技術の持続性、規制環境への適応力を見極める投資姿勢が求められる。

※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。