「軽油はガソリンより安い」常識が覆る恐れ…暫定税率の廃止に向けた議論に「軽油引取税」は取り残された
軽油引取税に上乗せされている暫定税率の扱いが宙に浮いている。廃止されれば、トラック業界だけでなく、ディーゼルエンジン車の利用者にも少なからず恩恵が及ぶ。だが、秋の臨時国会で廃止が審議されるのは、ガソリン税の暫定税率のみ。場合によっては軽油とガソリンの価格が逆転し、「安い軽油」という常識が覆る可能性がある。(山中正義)
軽油 ガソリンと同じく原油から精製する石油製品。無色から薄い黄色をしている。ディーゼルエンジンを搭載したトラックやバス、船舶、建設機械などで使用される。ガソリンより沸点が高く、高出力で熱効率が良い。課される税金の違いからガソリンより一般的には低価格。国内の燃料油消費の約2割を占める。軽自動車という名称から誤って軽油を入れる「誤給油」が散発している。
◆軽油は「地方税」だから地方自治体に遠慮した
ガソリンスタンドの給油機(資料写真)
野党7党が8月の臨時国会に提出した法案は、ガソリン税の暫定税率を11月から廃止する内容で、軽油は対象外になった。地方税の軽油引取税は1リットル当たり32.1円が課せられ、そのうち17.1円が上乗せの暫定税率。野党側は「軽油も遠からぬ時期に廃止するのが筋だ」などとしつつも、地方の税収減に配慮し、今回は廃止を見送った。
現在、軽油にはガソリンと同じく1リットル当たり10円程度の政府補助金が出ている。ガソリンについて、野党は段階的に補助金を5円ずつ引き上げ、11月までに暫定税率と同程度の25.1円に上げて、減税(暫定税率の廃止)に切り替えれば、円滑に移行できるとする。
一方、軽油の補助金の扱いは現時点では決まっていない。ガソリンと同様に軽油などの補助金を2.5倍に引き上げると、財源の基金が約6000億円不足するとの政府試算もある。
◆補助金廃止とガソリンだけの暫定税率廃止で「逆転」
12日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は174.9円、軽油は154.9円で、価格差は20円。仮にガソリン税の暫定税率の廃止と同時に、軽油の補助金がなくなれば、ガソリンと軽油の価格が逆転することになる。軽油への補助金10円が維持されれば、価格差は縮まって5円ほどになる。
第一生命経済研究所の新家義貴氏は「ガソリンより安い軽油」という認識が揺らぐ「象徴的」な状況になると指摘。軽油引取税の暫定税率廃止には「物流業界への影響が大きく、今後議論になるだろう」と話す。
過去には2008年末から2009年にかけ、ガソリンと軽油の価格差が5円を下回ったことがある。販売不振に伴う価格競争でガソリン価格が下落、地域によっては店頭価格が逆転した。
◆暫定税率分の税収は5000億円近いだけに
トラック業界などからも廃止を求める声が上がる。全日本トラック協会の担当者は「経営を圧迫している」と説明。国内貨物輸送量の9割がトラック輸送で大半が軽油を燃料に使う。暫定税率がなくなれば「負担軽減になる」。
第一生命経済研究所の試算では、ガソリンと軽油の暫定税率が廃止されると、日本の名目国内総生産(GDP)は今後3年間で、軽油抜きの場合と比べ約1.6倍押し上げ効果が拡大する。日本自動車販売協会連合会によると、2024年の新車販売(軽自動車を除く)のうちディーゼルエンジン車は4.4%。軽油引取税の暫定税率廃止による恩恵は利用者にも及びそうだ。
ただ財源の議論は避けて通れない。総務省によると、都道府県の軽油引取税の暫定税率分の税収は、2023年度(決算ベース)は計4839億円で小さくない。
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