「いすゞのトラック」アウトドア向け登場のワケ

東京オートサロン2025で初公開された「エルフ ミオ クロス コンセプト」(写真:いすゞ自動車)
いすゞ自動車(以下、いすゞ)が最近、アウトドアやレジャー向けに積極的な動きを見せている。
【写真】マイカーになるかも?「いすゞのトラック」のアウトドア仕様
例えば、6月27日〜29日に行われた「東京アウトドアショー2025」では、普通自動車免許で乗れる小型トラック「エルフ ミオ」をベースとした2台を提案した。
「エルフ ミオ クロス コンセプト」は、エルフ ミオの上級グレード「SE CUSTOM」の機能を活用し、ラギットな外観と、スチールフロアの荷台で多様なアレンジをしたモデル。

東京アウトドアショー2025では荷台にハンモックが設置されていた(筆者撮影)
ボディ寸法は全長4690mm×全幅1695mm×全高1965mmで、ホイールベースが2500mm。車両重量は1980kgで、乗車定員3人や荷物などを含めた車両総重量が3445kgとなる3.5トン車だ。
エンジンはディーゼルの排気量1898cc「RZ4E」で、最大出力88kW。70Lの燃料タンク容量を持つ。
もう1台の「エルフ ミオ スペースキャブ 特別仕様車」は、エルフ ミオのキャブ空間を300mm拡大し、室内の居住性と積載性をバランスよく向上させたクルマ。運転席のシートは、最大で40度までリクライニングできる。

キャビン後方が延長・拡大されている「エルフ ミオ スペースキャブ 特別仕様車」(写真:いすゞ自動車)
このほか、「トラヴィオ」をベースとした定員7名のキャンピングカーも参考出展した。
なぜ、商用車メーカーがアウトドア仕様を?
いすゞといえば、トラック・バスの大手として知られている商用車メーカーで、今回のように乗用領域に踏み込んだ提案をするのはめずらしい。
時計の針を戻せば、1960〜1970年代には「ベレット」や「117クーペ」、1980年代以降には「ジェミニ」「ピアッツァ」「アスカ」、そして本格4駆「ビッグホーン」やSUV「ビークロス」など、日本のユーザーにも馴染みの深い乗用モデルがあった。

一般公開を行っているミュージアム施設「いすゞPLAZA」にて「117クーペ」(筆者撮影)
現在は、タイなどで乗用・商用を兼用するピックアップトラック「D-MAX」やSUVの「MU-X」を製造販売しているが、日本では展開していない。
AT限定・普通自動車免許でも運転できるエルフ ミオが登場したことで、キャンピングカーやアウトドア向けに、いすゞが再び乗用領域の市場開拓に乗り出したのだろうか。
そんな印象を持ったまま、7月末にいすゞのマザー工場である神奈川県藤沢工場を訪れた。
筆者は近年、同工場の目の前にあるミュージアム「いすゞPLAZA」や、隣接する宿泊施設「PLAZA annex」を利用することがある。
今回は、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)向けの事業説明会と、藤沢工場視察が目的だ。

いすゞ藤沢工場に今回、特別に屋外展示された各種トラック(筆者撮影)
説明会では、専務執行役員・カーボンニュートラル戦略部門EVPの大平隆氏、常務執行役員・国内営業部門EVPの能登秀一氏、常務執行役員・開発部門EVPの上田謙氏、そして常務執行役員・SVP渉外担当役員・開発部門VPの佐藤浩至氏など、いすゞの開発部門幹部らが登壇し、事業の実状と将来の方向性について詳しく説明してくれた。

いすゞの専務執行役員/カーボンニュートラル戦略部門EVPの大平隆氏。エルフ EVトラックの技術展示車両と(筆者撮影)
まず、いすゞの事業概要を確認しておこう。2024年度の売上高は3.2兆円、営業利益は2291億円で、生産拠点は30カ国、42カ所。サービス拠点は国内416、海外は3500カ所におよぶ。
連結販売台数はグローバルで約52万台、そのうち国内が約8万台だ。
売上高を事業分野別で見ると、CV(コマーシャルビークル=商用車)が約50%、ピックアップトラックなどのLCV(ライトコマーシャルビークル=小型商用車)が約23%、アフターセールスが約18%、そして産業用エンジンが約9%だという。
CVは、大型バスの「エルガ」、大型トラックの「ギガ」「クオン(UDトラックス)」、中型トラックの「フォワード」、そして小型トラックでは「エルフ」と「エルフ ミオ」で構成されている。

今年7月、エルフ ミオに総重量3.5トン未満のキャブオーバートラックで唯一という4WDが追加された(写真:いすゞ自動車)
「3.5t未満車のみ」となった普通免許
話をエルフ ミオを使ったコンセプトモデル登場に戻し、その背景を考察してみたい。
直接的な要因は、現行の運転免許制度を意識したエルフ ミオの販売促進だ。以前は、普通免許の条件等が「中型車は中型車(8t)に限る」だったが、現行では「車両総重量が3.5t未満車のみ」に改定されている。
「3.5t以上、8t未満」では、5t限定 準中型免許、準中型免許、そして8t限定 中型免許など細かく規制されている。
一方で、物流事業ではドライバー不足が社会問題化しており、普通免許で乗れるエルフ ミオの社会に対する役割は大きい。
そうした社会課題に注目を集めるためにも、乗用車の延長上として商品をイメージしやすいアウトドア仕様で、商品広報戦略を打ったといえよう。

「エルフ ミオ クロス コンセプト」は樹脂製フェンダーやバンパーガードでSUVムードを演出(筆者撮影)
さらに、いすゞの事業全体を俯瞰すると、2030年に向けた企業価値の抜本的な転換のきっかけとして、エルフ ミオは重要モデルのひとつに位置づけられている。
「いすゞのトラック」が見せる「いすゞの未来」
いすゞは、新中期計画「ISUZU IX」の中で、「安心×斬新」でお客様・社会の課題を解決する「商用モビリティソリューション カンパニー」を目指すと定義している。
今回の藤沢工場視察では、中大型トラックの最終組み立てラインなどを視察したが、トラックが「キャブ付きシャシー」と「架装物」が一体となって、最終的にはウイング車、ミキサー車、ダンプ車などになる商品であることを再認識した。

いすゞ藤沢工場での車両組み立ての様子(写真:いすゞ自動車)
いすゞが製造するキャブ付きシャシーは、架装物を想定して合計2500種類を混流生産しており、生産ラインではいすゞ独自の製造技術が数多く盛り込まれている。
こうした商品軸で見ると、いすゞのトラックは「社会インフラそのもの」なのだ。さらに、物流自体が社会を支えるインフラでもある。

いすゞ初の量産BEVトラックである「エルフEV」(筆者撮影)
新たな取り組みとしては、バッテリー交換式EVソリューション「EVision Cycle Concept」がある。
三菱商事と連携し、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に採択され、2025年度からタイで実証事業を進めているものだ。
こうしたEVトラックのバッテリーを用いた試みも、電気エネルギーの移動と保管の観点から社会インフラとなりうるだろう。
エルフ ミオ・アウトドア仕様コンセプトは、「いすゞの未来」の先導車なのかもしれない。