豊田章男会長、坪井翔のハースF1テスト激励訪問時にルーキーレーシングの勝利にも言及 「SUPER GTで勝った仁嶺はすごいよ」「高田エンジニア初勝利」

ハースF1シャツでインタビューに応えるトヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 豊田章男氏

富士のF1テストに訪れた豊田章男会長

8月6日~7日の2日間にわたって富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)においてMoneyGram HAAS F1 TEAM「Testing of Previous Cars」が行なわれた。これはF1のTPCと呼ばれる旧型車両によるテストで、一定の条件の下で旧シーズンのF1マシンをテスト走行できる。

ドライバーは年間にテスト走行可能なマイレージ(距離)が決められていることから、現役ドライバーよりもリザーブドライバー、新人ドライバーが起用されることが多く、富士のTPCではハースF1のリザーブドライバーであるTOYOTA GAZOO Racingの平川亮選手が6日を担当。7日には、スーパーフォーミュラとSUPER GTのダブルチャンピオンである坪井翔選手が起用された。坪井選手にとっては初めてのF1走行となり、2日間ともそれぞれのドライバーにより100周以上の走行テストが行なわれた。

坪井選手の活躍に触れつつ、「SUPER GTでそこ(1号車)に勝った仁嶺はもっとすごいよ!」「(ルーキーレーシング移籍後の)高田エンジニアの初勝利なんです」と語る豊田会長、というよりルーキーレーシング 豊田オーナー

その2日目には、ハースF1とTOYOTA GAZOO Racingの協業について決断したトヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏が富士スピードウェイを訪問。関連記事で既報のとおり、ハースF1 小松礼雄チーム代表と会談したほか、坪井翔選手に「この瞬間を楽しめよ」と激励するなど、富士で17年ぶりに本気で走るF1を見守っていた。

豊田会長に対しトヨタ系のドライバーの育成について聞く機会があったのだが、ほとんどの場面で豊田会長として話をしていたものの、時折のぞかせていたのがルーキーレーシングオーナーとしての顔。とくに8月3日に行なわれたSUPER GT第4戦富士のレース2では、14号車 ENEOS X PRIME GR Supra(福住仁嶺選手)が、前日優勝したポイントリーダーの1号車 au TOM'S GR Supra(レース1は坪井選手、レース2は山下選手が担当)を抑えて優勝したばかりとあって、そこについての言及も多かった。

とくに1号車のau TOM'S GR Supraは、2年連続のチャンピオンマシンであり、今シーズンも最強のチームとしてポイントで首位に立っている。もちろん、そのドライバーの一人は今回走る坪井選手であり、坪井選手を激励しつつもGTで勝った14号車のドライバーである福住仁嶺選手とチームをたたえていた。

豊田会長は、坪井選手の国内レースでの活躍を「ここ数回の違うカテゴリーのレースにおいても、絶対今日この瞬間(F1のテスト走行)をね、意識しての運転だったと思いますよ」と分析。その上で、「SUPER GTでそこ(1号車)に勝った仁嶺はもっとすごいよ!」と再び14号車の勝利の話に。

「書かなくていいですけど、チームオーナーなんです」と、とにかくルーキーレーシングの勝利もうれしいようで、インタビューの初期には「書かなくていいですけど」と語っていたが、途中ではスーパーフォーミュラとSUPER GTで結果を出した坪井選手に触れつつ、「でも、そこにルーキー勝ちましたからね」と語り、後半では「(ルーキーレーシング移籍後の)高田エンジニアの初勝利なんです。もっと言わせてもらえれば、前日の3時まで(クルマを)直しているんです」「それを書いてください」と、エンジニアや監督らチームスタッフの働きあっての勝利だと語り、その素晴らしさを伝えてほしいと語っていた。

ハースF1チームと記念写真

豊田会長はこの日がトヨタ自動車の決算だったため、午前中の役員会に出席してから午後にヘリコプターで来場。前述のように小松代表とあいさつし、坪井選手を激励し、坪井選手の走りを見届け、チームとの記念写真に参加した後、すぐに立ち去ったようだ。

ハースF1のテストに参加していたメカニックとも談笑

豊田会長は社長時代にトヨタのF1撤退を決断したトップであり、このインタビューの冒頭も「何度も言っている話ですけど、私はトヨタ系ドライバーにF1の道を閉ざした男だったんですよ」から始まっている。

今でもF1撤退という経営判断に間違いはないと語るが、一人のモータースポーツ好きとしてはさまざまな思いを背負って生きている。2008年に赤字に陥ったトヨタ自動車の経営を立て直し、2011年に東日本大震災で甚大な被害を受けた東北に新たな自動車生産会社を立ち上げて新たな雇用を生み出し、2012年にハイブリッドマシンでWEC(世界耐久選手権)に再参戦し、ル・マン24時間レースに復帰した。

2017年にはWRC(世界ラリー選手権)に18年ぶりに復帰し、このF1テストの直前にはラリーフィンランドで35年ぶり(前回はランチア)の1-2-3-4-5フィニッシュを成し遂げ、「トヨタ勝ちすぎ」と言われるまでになった。

ここ数年のトヨタ自動車の強さは、「トヨタが~」という主語で語られがちなことではあるが、赤字となった会社を引き継ぎ、品質保証問題を引き受け、TNGAという新しいビジョンを示した豊田章男氏のリーダーシップによって実現してきたものであるのはよく知られているとおり。ここ数年でも、バッテリEV一辺倒だった世界的な流れに対し、バッテリEV、PHEV、ハイブリッド、FCEV、そして水素というマルチパスウェイ戦略を掲げて、どのような時代が来ても対応可能な強い会社経営を行なっている。

そんなリーダーが今でも「F1を撤退した男ですよ」との思いを抱く一方、「ルーキー勝ちましたからね」と勝利をよろこび、WRCのラリー2や新型GT3車両、新しいカート車両でモータースポーツの裾野を少しずつ広げていこうとしている。

ちなみにこの日は自身が購入したルーキーレーシング向け車両「ランドクルーザー 250」「クラウン エステート」と初めて対面した日でもあった。そのコクピットに乗り込んで「愛車ですから!」「新車のにおいがする!」とはしゃぐ姿も見ていると、もともと理解してはいたものの「本当にこの人は底なしにクルマが好きなんだな」と改めて感じたハースF1のテストデーだった。

「新車のにおいがする!」とはしゃぐ豊田章男会長。ステアリングを握るのが心から楽しそう