EVシフトで「スバルらしさ」は失われないのか?

琵琶瀬展望台で撮影した「レヴォーグ レイバック」(写真:SUBARU)

もっと遠くまで、行きたい。

でも、この楽しさはいつまで続くのか――。

【写真】美しい北海道の大地で「スバルの未来」を考えた

スバル「レヴォーグ レイバック」を相棒に、北海道を巡りながら、そう思った。

レヴォーグ レイバックは、ツーリングワゴンの楽しさとSUVとしての使い勝手を両立させた、日本市場を強く意識したスバル車として根強い人気を得ている。

同車が世に出て1年9カ月。直近では、2024年12月に一部改良を行っている。なお、筆者は発売以前にも、プロトタイプを新潟県佐渡で試乗している。

そんなレヴォーグ レイバックで釧路から東へ、霧多布(きりたっぷ)岬を目指す旅に出た。

進化を感じるも危惧するスバルの未来

この地でも強く感じるのは、ロードホールディング性(路面を捉える力)の良さだ。

スバルの真骨頂である「水平対向エンジン+シンメトリカルAWD」のパッケージだから、ワインディングが得意なのは当然だが、そこに柔軟性が加わっていて、走りがさらに楽しいのだ。

また、道東自動車道で一部改良された「アイサイト」を試してみると、改良ポイントである「車線中央維持制御」の進化を実感できた。

具体的には、直線路で車線中央付近を走る際、ステアリングに対するアシスト量が以前より少し軽めになっている。

釧路試乗中に立ち寄った霧多布岬近くの温泉施設にて(筆者撮影)

近年、他メーカーの車線逸脱防止機能では、システムによるステアリングのアシスト量を強める傾向があるが、スバルは逆にそれを弱めて、ドライバーが介入しやすくした。

そのうえでコーナーに入ると、システムがより多く介入する従来のアイサイトの味付けに戻る仕組みとなっている。

こうした、高速道路での安心感とワインディングでの走りの楽しさが相まって、スバルが目指す「もっと遠くまで走っていきたい」という商品コンセプトが、ドライバーの意識とシンクロする。

一方で、スバルブランド全体に対する不安もある。

このところスバルは、海外で新型EVの発表を相次いで行っており、このまま一気にEVへシフトして他ブランドとの差別化が難しくなるのではないか。

そして、従来のスバル車の魅力が失われてしまうのではないか、と危惧している。

アメリカ・ニューヨークで4月、「ソルテラ」改良モデルと新モデル「トレイルシーカー」を世界初公開。

ブラック素地だったバンパーやフェンダーがボディ同色となった「ソルテラ」(写真:SUBARU)

「トレイルシーカー」は「ソルテラ」よりも全長が長く、荷室が拡大されている(写真:SUBARU)

さらに7月に入ると、同じくニューヨークでトヨタ「C-HR+」と基本構造を共通化する新モデル「アンチャーテッド」を披露し、欧州では「eアウトバック」を公開した。これはトレイルシーカーの欧州版だ。

「C-HR+」の兄弟車となる「アンチャーテッド」(写真:SUBARU)

このように、海外でEVモデルを立て続けに発表したことに対し、「アメリカ一本足打法の経営体質がさらに強化されるのか」「トランプ関税対策で、日本の生産体制はどうなるのか」「新設する大泉工場で生産する、スバル自前EVはいつ量産されるのか」という、スバルに対する複雑な思いが頭をよぎる。

すでに示しているマルチパスウェイ戦略

むろん、スバルがやみくもにEVシフトすることはないだろう。なぜならば、企業方針として電動化戦略をすでに示しているからだ。

具体的には2023年8月の「新経営体制における方針」と、2024年11月に公開した「ビジネスアップデート」で示されている。

そこで、群馬県内の本社工場、矢島工場、新設する大泉工場、そしてアメリカのスバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)で、ガソリン車、マイルドハイブリッド車、ストロングハイブリッド車、そしてEVの生産バランスを、EVで協業するトヨタとも連携し、グローバル市場の変化を敏感に捉えながらうまく調整していくとしている。

いわゆるマルチパスウェイ戦略である。

5月の2025年3月期決算を受けた大崎篤社長の会見でも、トランプ関税への影響に十分な配慮をしながら日米の生産体制を仕立てるとした。

「レヴォーグ レイバック」は純ガソリン車のみの設定(筆者撮影)

そうとはいえ、スバルをブランドとして見た場合、ツーリングワゴン、アウトドア、そしてSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)に代表されるスポーティ性などの多面性があり、それとパワートレインのマルチパスウェイを組み合わせて、次世代のスバルブランドを構築するのはかなり難しい印象がある。

「コモディティ」にならないクルマづくり

この点について、筆者はスーパー耐久シリーズ2025「富士24時間レース」で実施されたスバル幹部の会見に出席し、取締役専務執行役員でCTO(最高技術責任者)の藤貫哲郎氏に、次のような疑問をぶつけてみた。

「スバルブランドのこれからについて聞きたい。スポーツ性の強いSTIがある一方で、収益の中核はフォレスターなどのSUVだ。スーパー耐久などレース活動も含めて今後、スバルブランドの訴求をどう考えているのか」

富士24時間レース開催時にスバルが行った会見の様子。中央が藤貫氏(筆者撮影)

藤貫氏は筆者の質問に対し、次のように切り出した。

「(スバルが)コモディティになったら(市場での競争に)負ける。(顧客が)あえてスバルを選んでくださる理由は何かを、しっかり考えないといけない」

そのうえで続ける。

「社内でいろいろ議論しているが、(大事なのは)決して我々がやりたいことではなくて、お客様が(スバルに)望んでいることをやっていくことだと思っている。考えるだけではなく、(まずは)いろいろやってみて、お客様の反応を見ながらどうしていくかを考えていくということだと思っている。拡張性と柔軟性で、フィードバックしながら作っていく」

また、スバルの事業の大黒柱であるアメリカについても触れた。

「我々はアメリカで(近年の)ブランド(イメージ)ができあがった(という経緯がある)が、決して我々が作ったわけではない。お客様に作っていただいたブランド価値だ。(今後も)いろいろな仕掛けをしながら、お客様とブランドを一緒に作っていくアプローチになると思う。(日本市場も含めて)SUV系、またスバルらしいスポーツ系とはどうなるべきかを、模索していきたい」

6代目「フォレスター」の試乗会にて。奥の車両は5代目「フォレスター」(筆者撮影)

スバルブランドはこれから先、どのように進化していくのか。

さまざまなイメージを描きながら、レヴォーグ レイバックとの北海道の旅を続けた。