あれ、ビッくらポン!がない…「プレミアムくら寿司」と「いつものくら寿司」の圧倒的な違い

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

回転寿司チェーン「くら寿司」に”プレミアム店”があるのをご存じだろうか?(筆者撮影)

くら寿司が満を持して関東に初出店させたプレミアム店「無添蔵」。中目黒という東京の一等地に現れた新店舗は、郊外型の関西店舗とは全く異なる戦略を見せていた。暗めの照明、5カ国語対応のタブレット、1200円の高級ネタ……それは単なる高級化ではなく、海外展開を見据えた壮大な実験場だ。これまでのくら寿司とはどこが違うのか、マーケティング・コンサルタントが実際に潜入調査してみた。“プレミアムなくら寿司”の魅力と課題とは?(講演・研修セミナー講師、マーケティング・コンサルタント 新山勝利)

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか

 人気回転すしチェーン「くら寿司」が、プレミアム回転寿司「無添蔵(むてんくら)」を関東に初出店させた。無添蔵は2005年から関西エリアで4店舗を展開してきたが、ついに5月29日、東京・中目黒に、関東初の店舗をオープンさせたのだ。

 競合店舗を比較・調査して、自店の商品サービスを改善することを、ストア・コンパリゾン(Store Comparison)という。また、利用客を装って店舗やサービスを体験し、その接客や品質などを評価する調査がミステリー・ショッパー(Mystery Shopper)である。こうした調査を実施し、全体評価レポートを作成するマーケティング・コンサルタントとして、実際に同店を訪問し、その実態を明らかにしてみた。

郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ

 入店の前から違和感を覚えた。それは事前に関西の無添蔵4店舗について、SNSコメント等で情報収集していたのとまったく違ったからだ。関西の伊丹昆陽店、北花田店、泉北店、紀伊川辺店は、いずれも郊外ベッドタウン近くの道路沿いにあり、車で来訪することを前提とした立地である。コメントを読むと、通常店と同じネタもあるが、ワンランク上の品揃えだという。

 これに対して、中目黒は都内でも有数のおしゃれな街として知られている。セレクト・ショップやこだわりの光る個人経営の飲食店が充実し、最新トレンドの発信エリアでもある。「ナカメ」の愛称で親しまれ、東急電鉄・東京メトロ中目黒駅から徒歩1分という好立地に同店は位置している。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

関東初出店のプレミアムくら寿司「無添蔵」中目黒店は、駅前のビル2階にある(筆者撮影)

海外展開を見据えたリブランディング

 店内に入って驚いたのは、照明の暗さだった。一般的に欧米の高級レストランやホテルでは、日本と比べて照度が低く、間接照明を用いて落ち着いた雰囲気を演出している。同店も部屋全体を明るくする蛍光灯を使わず、スポットライトで照らしていた。注文用タブレットでは、外国語対応が5カ国語となっていた。

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関東初出店のプレミアムくら寿司「無添蔵」中目黒店は、駅前のビル2階にある(筆者撮影)

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

タブレットとは別に、ブックタイプのメニューもある(筆者撮影)

 既存ブランドを見直し、新たなブランドを再構築することをリブランド(Rebrand)という。つまり、中目黒店は関西店舗とは異なるブランド、リブランドした無添蔵と見るべきだ。しかもこれは、海外出店を見据えたくら寿司の新戦略だろうと判断できる。

 同社は中国本土の全店舗を閉店し、上海市の3店舗を順次閉めると報じられた。2023年に中国本土へ出店したが、後発で現地顧客をつかみきれず、原材料高も響いて採算が悪化していた。海外展開は同業他社に先行する米国と台湾に集中し、立て直しを急ぐとしている。もし無添蔵が日本人向けであれば、関西店舗と同様のフォーマットで良いはずだ。海外出店を目指し、顧客データを収集・分析している途上なのではないか。

ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客

 中目黒店の席数は全部で59席。内訳はボックス席が7ブース(4人席、計28席)、カウンター席が31席である。ボックス席には個々にロールカーテンがあり、個室空間を作れる仕様だ。通常店はグループ・ファミリー向けのボックス席がメインでカウンター席が少ないが、同店では席数が逆転している。ひとり客やカップル需要を狙っているのであろう。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

(左)ロールカーテンで個室風に仕切れるボックス席、(右)カウンター席(筆者撮影)

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

カウンター席はひとり客向き(筆者撮影)

 価格帯も大きく異なる。通常店では110円(税別)がメインだが、同店では150円~1200円(「こぼれすぎいくら軍艦」単品の価格)まで幅広い価格帯となっていた。調査当日は、380円の価格帯が寿司では最も多いゾーンであった。

 また、獺祭などの日本酒やワインなど、アルコール類のラインアップも充実している。通常店ではアルコール類にそれほど力を入れていない。滞在時間が伸びて回転率が下がるからだ。一方、同店ではアルコール類を揃えることで単価アップにつなげている。通常店とは全く違うネタの種類であり、シャリの大きさも異なっていた。

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1200円のいくら軍艦やうにの殻盛りなど、単品でも高価格な皿がある。またアルコールのラインナップも豊富(筆者撮影)

改善すべきポイントは?

 問題点も見受けられた。いかやほたてには、ゆず塩がかけてあるが、何も注意書きがなく不親切だ。気づかずに醤油をつけていたら、塩気が強くなりすぎて食べられたものではない。メニューにも記載がなく、食べる前にこちらが気づいてスタッフに確認した(しかも最初のスタッフは把握しておらず、他のスタッフが答える始末だった)。これは本来、外国語でも記載すべき内容のはずだ。

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ほたてにはゆず塩がかかっているが、説明はなかった(筆者撮影)

 さらに、タブレットには「特製いなり」があったが、何が特製なのか説明がない。スタッフに確認したところ、金ゴマとしいたけが入っているとのことだった。写真だけでは中身がわからず、不親切な印象を受けた。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

特製いなりは何が入っているのか、説明が欲しいところだ(筆者撮影)

 水やお茶はセルフサービスで、給茶機に取りに行くシステムだ。通常店は座席でお茶を入れられるようになっているのに比べるとやや不便だが、これは高級すし店の雰囲気を目指しているのかもしれない。また、皿を5枚入れるとゲームに挑戦できる「ビッくらポン!」もなかった。これだけでも家族需要を狙っていないことがわかる。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

無添蔵の給茶機。お茶と水はセルフサービス(筆者撮影)

 わさびは個装ではなく、卓上調味料のねりわさびが常設されていた。別途、自分ですり下ろす「生本わさび」(280円)もメニューに用意されていたが、POPもなく、タブレットで気づかなければ注文されないだろう。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

練りわさびは卓上に常備されているが、本わさびも注文できる(筆者撮影)

 現在、くら寿司では、ガリ(生姜の薄切りを甘酢に漬けたもの)の代わりに大根の甘酢漬けを卓上に置いて提供しているが、同店にはなかった。一般のくら寿司と同様、生姜のガリは有料で注文するシステムだが、無添蔵のような高級店でガリが有料というのは疑問が残る。

 寿司の配置にも統一感がなかった。皿に「蔵」の文字が手前にくるよう配置されているものもあれば、そうでないものもある。アットランダムに寿司を置くのであれば、マークやロゴを入れるべきではない。ラーメン店で丼の12時の位置にロゴが入っていて、チャーシューやメンマが適当に配置されているものはないはずだ。

中目黒のプレミアムくら寿司「無添蔵」は、関西と何が違うのか, 郊外ベッドタウンのロードサイド店から、“駅から1分”立地へ, 海外展開を見据えたリブランディング, ターゲットはファミリーではなくカップルやひとり客, 改善すべきポイントは?

「蔵」の文字が、寿司の上にある皿(左)とない皿(右)がある(筆者撮影)

 同店はプレミアムな高級店をうたっており、価格も高いのだから美味しいのは当たり前。その中で、より差別化戦略を図っている。高品質で希少なネタやアルコール類、飾り包丁など一手間かけて仕込んだ高級寿司を取り揃えているのが同店だ。しかし、それらのメッセージがお客に届いていない。

 サービス業の世界では、お客が疑問を持つ前にアピール内容をメニューやPOPでわかるようにしておくのが鉄則だ。改善すべきポイントは多い、と感じた。