「笑う電車」の登場相次ぐ それにはワケがあった!

 【汐留鉄道倶楽部】 「またしても『笑う電車』だ」。東京都の第三セクター鉄道、東京臨海高速鉄道(りんかい線)が2025年度下半期に営業運転を始める次期車両71―000形(ななまんいっせんがた)の報道公開で、電車の「顔」である先頭部が笑っているような装飾なのに気づいた。笑みを浮かべたような新型車両は他社にもあり、「笑う電車」が相次いで登場しているのにはワケがあった。

東京臨海高速鉄道の次期車両71―000形=2025年7月1日、東京都品川区

 品川区にあるりんかい線の八潮車両基地の留置線で2025年7月1日、ともにステンレス製の現行車両70―000形(ななまんがた)と真新しい71―000形が並んでいた。りんかい線は大崎駅(品川区)から人工島「お台場」を通り、JR京葉線・東京メトロ有楽町線と接続する新木場駅(江東区)までの臨海部の主に地下を走る。計8駅で、全長がわずか12・2キロのミニ鉄道だ。

東京臨海高速鉄道の71―000形(左)と、現行車両の70―000形=25年7月1日、東京都品川区

 ところが、多くの電車は大崎で相互直通運転をしているJR東日本の埼京線・川越線に乗り入れており、「通勤快速」や「快速」は新木場―川越(埼玉県川越市)間の65・2キロという長距離を結ぶ。途中で東京の副都心の渋谷、新宿、池袋各駅を通り、東北新幹線なども乗り入れる埼玉県の「交通の要衝」大宮駅にも姿を見せるだけに、りんかい線の車両はミニ鉄道らしからぬ発信力の高さを誇る。

 りんかい線は1996年3月に部分開業して以来、70―000形が唯一の型式として30年近く駆けてきた。今や開業後初の世代交代を控え、2027年度には8編成(計80両)全ての置き換えが完了する。バトンを引き継ぐ71―000形は10両編成で、1両当たり全長20メートルの車両に4カ所の両開き扉を設け、窓際に座席が並ぶロングシートなのはいずれも70―000形と同じだ。

東京臨海高速鉄道の71―000形の優先席=25年7月1日、東京都品川区

 変更で目立ったのは、東京臨海高速鉄道の開発担当者が車内で教えてくれた「誰でも使いやすいようにバリアフリー化を推進した」という点だ。車いすやベビーカーの利用者が過ごしやすくしたフリースペースを全車両の車端部に設け、3人掛けの優先席は識別しやすいようにピンク色を基調にしたモケットを採用。1本追加した保護棒は大きく湾曲した形状にすることで、利用者がつかみやすいようにした。また、両開き扉の上にあるランプの点滅によってドア開閉を案内したり、チャイム音でドアが開いている位置を知らせたりする機能を設けた。

東京臨海高速鉄道の71―000形の運転席=25年7月1日、東京都品川区

 そして何よりも目につく特色は、まるで笑顔のような先頭部だ。上部の左右にある前照灯が両目で、白地に描いたスカイブルーとエメラルドブルーのラインがまるで口を開けて白い歯を見せているように映るのだ。同社に確認したところ、その受け止めの通りで「イルカのほほえみをイメージした」と教えてくれた。同社はイルカのマスコットキャラクター「りんかる」を起用しており、イルカがほほえんだようなデザインにすることで「親しみやすいイメージを持ってほしいと考えた」そうだ。

東急電鉄の6020系の5両編成=25年6月20日、横浜市緑区

 この「笑う電車」を目の当たりにして思い浮かべたのが、東急電鉄が大井町線の各駅停車用として2025年7月2日に営業運転を始めたステンレス製電車6020系の5両編成だ。18年に導入されていた大井町線急行電車用の7両編成を含めた6020系は、先頭部にある左右の前照灯が両目のようで、その間にある湾曲のオブジェが組み合わさって人の笑顔のようだ。東急電鉄は「笑顔をつなぎ、幸せを運ぶ鉄道」としてサステナブル(持続可能)な未来を目指しており、これを体現している。

 5両編成については2027年ごろまでに18編成、計90両を順次入れ、9000系と9020系の全てを本車両に置き換える。9000系と9020系の一部は西武鉄道の多摩川線と多摩湖線、西武秩父線などで運用される。

東急電鉄6020系の5両編成の車端部にある優先席とフリースペース=25年6月20日、横浜市緑区

 6020系の車内には、東京臨海高速鉄道の71―000形と同じく全車両の車端部にフリースペースがあり、優先席に大きく湾曲した保護棒を取り付けているのも同じだ。ロングシートの背もたれのモケットは東急沿線の風景をイメージした緑色で、71―000形が臨海部のビル群を表現したブロックパターンなのとは異なるものの、座席の上にある窓の形状もよく似ている。

 そう、6020系、71―000形ともに製造したのはJR東日本子会社の総合車両製作所(旧東急車両製造)で、双方とも全長20メートルで4カ所の両開き扉を設けた共通プラットフォーム「sustina(サスティナ)24シリーズ」を採用しているのだ。

東急電鉄6020系の5両編成の運転席=25年6月20日、横浜市緑区

 東急電鉄の車両担当者は、導入の背景を「(旧)東急車両製造を売却後も、車両の発注を続けている」と紹介。71―000形は埼京線・川越線を走るE233系と床下機器がほぼ共通で、東京臨海高速鉄道は「当社は(直通する)JR東日本にメンテナンスの一部を依存しているので、導入する車両は必然的にJRを走っている車両に準じることになる」と説明した。

 よって71―000形と6020系の共通点は多いが、サスティナ24シリーズを導入している鉄道会社は「特に利用者の目につきやすい前面部分や、座席のモケットの色や柄は独自性を出すように工夫した」と振り返る。

東急電鉄6020系の5両編成の車内壁面にある総合車両製作所製を示す銘板と、「sustina」のシール=25年6月20日、横浜市緑区

 東京臨海高速鉄道と東急も先頭デザインを工夫したところ、それぞれ笑顔を浮かべたような「笑う電車」に行き着いたようだ。入ってくる電車を見た利用者にも笑顔が広がる、明るい雰囲気の電車として軌道に乗ることを期待したい。

 ☆共同通信・大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう) 経済部次長。東京臨海高速鉄道と東急大井町線が乗り入れる大井町駅が拙宅から徒歩圏内のため、6020系は「各停 大井町」の行き先表示の写真を採用。一方、71―000形の行き先表示には残念ながら大井町が設定されていませんでした。