なぜトヨタのプロボックスは”営業車の王者”になれた?《営業マンのお昼寝タイム》を見逃さなかったトップメーカーの「正しい戦略」
営業車の王者「プロボックス」
トヨタは、日本で最も販売台数の多い自動車メーカーだ。
2025年上半期(1〜6月)の販売統計によると、トヨタの国内販売台数は約77万台だった(レクサスを含む)。比率に換算すると、2025年上半期に国内で売られた新車の33%がトヨタ車になる。小型/普通車に限ると51%に達する。
トヨタは一部のOEMを除くと小型/普通車のみを扱うメーカーで、2025年上半期における軽自動車の国内販売比率は36%だったから、軽自動車を含めるか否かでトヨタの国内販売比率は大きく変わる。
そしてトヨタが2025年上半期に国内で販売した小型/普通車の内、商用車の比率は11%だった。少ないように思えるが、トヨタは2025年上半期に、1カ月平均で1万1344台の小型/普通商用車を登録している。この販売実績は、日産の約3倍だから、トヨタは小型/普通商用車でもトップメーカーだ。
トヨタの商用車ではワンボックスボディのハイエースが売れ筋だが、ボンネットを備えた通称「ライトバン」と呼ばれる小型商用車のプロボックスも、2002年の発売以来、人気が根強い。

2002年に発売されたプロボックス。脇には当時社長だった張富士夫氏が立つ/photo by Gettyimages
以前はプロボックスのライバル車として、ボンネットを備えた商用車の日産ADもあったが、2025年10月に生産を終える。日産の販売店では「当店のADの受注台数は、5月上旬に、2025年に生産する割当台数の上限に達した。そこでADの販売を終了した」という。
前述の通りADの生産は10月に終わるから、もはや新車では買えない。一方、プロボックスは2002年の発売時点から売れ行きが好調で、2014年の大幅な改良、さらに2018年にはハイブリッドも追加されている。これらの効果で、高い支持を得続けている。
“走るオフィス”を実現した
そうなるとボンネットを備えた小型商用車は、プロボックスと、そのOEM車になるマツダファミリアバンだけだ。実質的にボンネットを備えた小型商用車は、プロボックスのみになる。
なぜプロボックスの人気は根強いのか。その背景には複数の理由がある。

2024年4月発売のプロボックスGX (ハイブリッド車)/トヨタ公式HPより
まずプロボックスの商品力が高いことだ。プロボックスのようなボンネットを備えた小型商用車は、2名以内の乗車で長距離を移動することも多い。荷物の運搬と併せて、打ち合わせなどの営業活動にも使われる。
そこでプロボックスは、車内をオフィスのデスクのように使える機能を充実させた。

インパネテーブル/トヨタ公式HPより
インパネの周辺には、A4サイズのノートパソコンやコンビニ弁当などを置ける引き出し式のインパネテーブル、A4サイズのバインダーなどを挟めるインパネトレイ、ドリンクも収まるLED照明の付いたセンタートレイ、スマートフォンなどを収納できるマルチホルダー、スーツなども吊るせるアシストグリップなどが装着される。
またアクセサリーソケットに加えて、100V・100Wの電源コンセントも備えられている(GXはメーカーオプション)。
昼寝がしやすい一工夫も
シートにも工夫を凝らした。リクライニング角度は76度と大きく、サービスエリアなどで、背もたれを大きく寝かせて休憩できる。
これらの装備により、移動時の隙間時間などに車内でデスクワークをしたり、食事を取ったり、仮眠もできる。商用車は荷物を積むクルマだが、プロボックスはビジネス空間として付加価値を高めた。

2014年モデルから角度が76度になった/トヨタ公式HPより
そもそも多量の荷物を積みたいなら、荷室が圧倒的に広いワンボックスバンのハイエースなどを選ぶ。ボンネットの付いた小型商用車には、運転のしやすさ、重心の低いボディによる走行安定性、長距離移動時の快適性、オフィスの機能などが求められる。
プロボックスは、そのニーズに応えて人気を得た。
つづく記事〈結局、どの自動車メーカーも勝てなかった…企業の営業車がトヨタのプロボックスばかりになった「納得の理由」〉では、トヨタの巧みな戦略や企業としての強さを中心に、プロボックスの人気の理由をさらに解説する。