米雇用の弱含み、NY連銀総裁らは冷静に受け止め

米ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁
7月の米雇用統計を受けて金融市場に動揺が広がり、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の次回会合で利下げを実施する可能性は大幅に高まった。
しかしFRBの高官2人は1日、米国の労働市場はなお十分に均衡状態にあるとの考えを示し、直近の雇用統計で示された弱含みは懸念すべき悪化ではなく、緩やかな減速の一環だと説明した。
米ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁は1日のインタビューで、9月の会合では利下げについて「非常にオープンな姿勢」で臨むと述べた。しかし慎重な見方も示し、積極的な金融緩和への期待を駆り立てる切迫感を和らげる姿勢を見せた。
FRBのジェローム・パウエル議長の側近であるウィリアムズ氏は、「過去1年間に見られた労働市場の動きは、緩やかな減速と表現できるが、それでも依然として堅調な状態を保っている」と述べた。
FRB高官らは、7月30日までの2日間にわたり開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きを巡って意見が分かれ、2人の理事が利下げを支持した。他の9人は据え置きの決定を支持した。
ただ7月の金利据え置きを支持した高官の間でも、今後数カ月における労働市場とインフレ率の上昇見通しのどちらをより懸念すべきかを巡り意見が分かれ始めており、パウエル氏が今後コンセンサスを形成する上で課題となっている。
7月の失業率は6月の4.1%から4.2%へと若干の上昇にとどまったものの、雇用統計の弱い数字により、労働市場に力強い勢いがあるとの見方が揺らぎ、パウエル氏は利下げに向けた合意形成を進める余地を得た。FRB高官は次回会合までにもう1カ月分の雇用統計を確認することになる。

大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長
ウィリアムズ氏は、5月と6月の就業者数の伸びの異例となる大幅下方修正が「今回の統計の本当のニュースだった」と指摘。これは労働需給の方向性と労働市場の勢い鈍化を理解する上で重要な情報だと語った。
求人件数や新規失業保険申請件数を含む幅広い指標は、過去1年の特徴となっている「採用に慎重で解雇も少ない」という均衡状態が続く経済の姿を示しているとウィリアムズ氏は述べ、「労働市場は私の見方では依然として底堅い」と続けた。
クリーブランド連銀のベス・ハマック総裁も同様の見解を示した。1日のブルームバーグテレビのインタビューで、労働市場は「依然として十分にバランスが取れた健全な状態のように見えるが、非常に注意深く監視すべき懸念材料もある」と述べた。また、移民の減少を考えれば雇用の伸び悩みは理解できると付け加えた。
大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長は、1日に発表された雇用統計は「失望を招く内容」だとしながらも、テクニカルな要因や一時的な要因が背景にあると指摘した。
ミラン氏はインタビューで、5月と6月の就業者数の伸びの下方修正のうち、約60%は季節調整の問題によるものだと述べた。関税を巡る政策の不透明感が一時的に採用を抑制していたが、最近発表された貿易協定によってその問題が解決され、今後数カ月で雇用の伸びは回復するはずだと語った。

クリーブランド連銀のベス・ハマック総裁
ウィリアムズ氏は、医療、教育、政府機関などの特定のセクターに雇用の伸びが集中していることは、新型コロナウイルス流行時からの回復の動きを部分的に反映していると述べた。2021~22年の人手不足の労働市場では、より高い給与を支払う余裕のある雇用主が労働者を獲得するために積極的に競う一方、特に政府機関、医療システム、学校などは「同じように競争する能力がなく」、人員不足の状態が続いていた。
労働市場が落ち着くにつれ、こうした雇用主は採用競争が激しかった時期に埋められなかったポストを埋めることができるようになっていると、ウィリアムズ氏は述べた。
ウィリアムズ氏は9月に利下げする可能性に関する質問に慎重に答え、市場が1日、9月の利下げ確率を80%と一時織り込んだことについて、擁護する発言は避けた。
「われわれが政策当局者として直面している難しい問題に、市場参加者も同様に直面している」とし、市場が「方向性としては理解できる形でシグナルに反応している」と述べた。
より中立的なスタンスに徐々に移行する中で、目の前にある問題は、適度に引き締め的な金利政策を維持する「必要があるかどうか」ではなく、引き締めの程度を微調整することだと指摘。「調整の度合いを少し下げる時期なのだろうか」と語った。
7月のFOMCで利下げを支持して金利据え置きに反対票を投じたミシェル・ボウマン理事とクリストファー・ウォラー理事は、1日の雇用統計発表前に声明を公表し、FRBが昨年開始した利下げを再開しなければ、労働市場の状況が悪化すると警告した。

ウィリアムズ氏(左)とジェローム・パウエルFRB議長(2018年)
ウィリアムズ氏は、貿易・移民・財政政策に関するさまざまな変化を巡って不確実性が高まっていることを考えれば、意見が分かれるのは自然なことだと述べた。
ウィリアムズ氏の慎重な姿勢は、FRBがインフレ対策でまだやるべきことがあるという同氏の見方を反映している。変動の大きい食品とエネルギーを除いた個人消費支出(PCE)価格指数のコア指数は、FRBの目標である2%を「依然として大幅に上回っている」と同氏は指摘した。FRBはインフレ指標としてPCEを重視している。
ウィリアムズ氏は、企業と消費者のインフレ期待は低位で安定的な水準を維持していると述べる一方で、それが継続するよう確実にすることはFRBにとって引き続き重要な役割だと指摘した。「経済の良好なバランスを保つ政策によって、こうした状態を強化または補完する必要がある」と語った。
ウィリアムズ氏は、今年の経済成長率が約1%に減速すると予想しているが、政策の不確実性やその他の逆風が後退し、新たな人工知能(AI)技術における米国の優位性などの追い風が生まれることで、26年には成長率が回復すると見込んでいると述べた。
「現時点で、経済が縮小したり大幅に弱まったりすることを特に懸念していない」と同氏は語った。「経済は減速したが、この成長ペースが数四半期続いた後、回復すると予想している」