F1分析|レッドブルのあまりにも痛い伝達ミス。角田裕毅、ピットストップ”1周遅れ”で失ったのは約12秒

 F1ベルギーGP決勝レースでは、18番手からスタートしたルイス・ハミルトン(フェラーリ)が7位、7番手からスタートした角田裕毅(レッドブル)が13位となった。この結果には、インターミディエイトタイヤからドライタイヤに交換するタイミングが大きく寄与していたと言えよう。

 ベルギーGPの決勝レースは、スタート時刻に大雨が襲来。セーフティカー先導でフォーメーションラップが開始されたものの、その途中で雨量が多すぎるとの判断が下され、赤旗中断。スタート時刻は大幅に遅れることになった。

 雨雲がスパ・フランコルシャンの上空を通り過ぎた後、レースは改めてセーフティカー先導でスタート。当初の予定よりも、1時間20分ほど経って、ようやく戦いの火蓋が切られた。

 この段階では雨は完全に上がっていたどころか、日差しがコースを照りつける状況。路面が急激に乾いていった。そして4周を走ったところでセーフティカーランが解除されることになった。

 先頭を行くオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、レーシングスピードとなった1周目に1分59秒0のラップタイムを記録。計算上では、すでにドライタイヤで走れるコンディションに近いラップタイムであった。

 インターミディエイトタイヤからドライタイヤに交換すべきタイミングは、そのラップタイムがドライタイヤでのペースの112%を切った頃と言われている。今回のレースでのピアストリのドライタイヤでのレースペースは、その大部分が1分46秒台だった。ここから計算すれば、1分59秒という数字はちょうど112%程度である。

 ただインターミディエイトタイヤでのペースは、5周目以降どんどん落ちていく。ピアストリの10周目のペースは、2分2秒ちょうど……僅か6周で3秒も落としてしまったことになる。

 しかしこれは、雨量が多くなったからではない。インターミディエイトタイヤのデグラデーション(性能劣化)が激しかったからだ。

 そういう状況下では、いつドライタイヤに履き替えるのか……というのがとても重要になる。早すぎれば、まだ濡れている路面に足を取られ、スピンしてコースアウト……リタイアを喫してしまうリスクがある。逆に交換のタイミングが遅れてしまえば、大きくタイムロスしてしまう可能性がある……1周の距離が長いスパ・フランコルシャンならば、他のサーキット以上のリスクを被ることになる。

 そんな中で真っ先に動いたのは、フェラーリのハミルトンだった。ハミルトンは11周目を終えた段階でピットインし、インターミディエイトタイヤからドライタイヤ(ミディアム)に履き替えた。この効果は顕著であった。

F1ベルギーGP決勝レースペース推移(インターミディエイト→ドライへのタイミング)

 こちらのグラフは、ベルギーGP決勝レース中に、各車がインターミディエイトタイヤからドライタイヤに交換したタイミングのペース推移を示したものだ。

 ハミルトンのピットストップ前のペースは、2分3秒4。そしてドライタイヤに履き替えてコースに戻った直後には1分51秒0で走っている(グラフ赤丸の部分)。つまり、1周あたり12秒もペースアップしたわけだ。

 ハミルトンと同じタイミングでピットストップしたピエール・ガスリー(アルピーヌ)やニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)も、ほぼ同等のペースアップを遂げている。

 このペースアップは、ライバルたちも即座に察知。彼らはラップタイムではなく、走行中のミニセクターのペースも把握することができるため、即座に陣営のドライバーをピットに呼び込むため、準備を整えた。

 ただ、12周目を終えてもピットストップできていなかったドライバーが4人いた。ランド・ノリス(マクラーレン)、アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)、エステバン・オコン(ハース)、そして角田だ。この4人のうち3人は、ある意味仕方なかったかもしれない。それは、彼らがチームメイトと近い位置を走っていたからだ。

 本来ならば、12周目にリスクを負ってでも2台立て続けにピットストップさせた方が良い。実際、メルセデスとウイリアムズは、12周目に2台を立て続けにピットストップさせた。

 ただノリス、ハジャー、オコンの3人はチームメイトと1〜3秒差と非常に近い位置を走っていたためそれは無理だった。同時にピットストップしても、チームメイトが作業を受ける後ろで待たねばならず、大きくタイムを失う可能性があったのだ。

 なおレーシングブルズは、前を走っていたハジャーではなく、後方を走っていたリアム・ローソンを優先し、12周目にピットストップさせている。ハジャーはマシントラブルを抱えていたため、後にスローダウン……最下位でのフィニッシュとなった。おそらくこの時点で、チームはハジャーのトラブルを認識していたということだろう。

 一方で角田に関しては、12周目にマックス・フェルスタッペンとダブルストップをさせず、もう1周走らせることになってしまった。この時、フェルスタッペンと角田の差は7秒ほど。つまり十分にダブルストップ可能な間隔であり、チームとしてもダブルストップの準備を整えていたらしい。しかし、角田に指示を出すのが遅すぎた……この悪影響は、あまりにも大きく、ポジションをかなり下げることになった。レッドブルのローレン・メキーズ代表も、チームのミスであったことを認めている。

 前述の通りハミルトンら11周目にピットストップを終えたドライバーたちは、ドライタイヤを履いて一気に12秒ほどペースを上げた。角田らはここから2周ほど遅れてしまったため、単純計算で24秒も失ったことになる。

F1ベルギーGP決勝レースギャップ推移

 それが、こちらのグラフを見ていただくとよくわかる。これは、レース中の首位からのギャップの推移をグラフ化したものである。

 実際10周目終了時点で角田は、ハミルトンの9秒前を走っていた(グラフ赤丸の部分)が、14周目には逆にハミルトンが14秒先行することになった(グラフ青丸の部分)。対角田という基準で言えば、ハミルトンは23秒稼いだことになるわけだ。

 ここで順位を下げたのは、角田にとってはあまりにも痛かった。角田のマシンはある程度ウエットコンディションを見据えたセッティングであり、ダウンフォース多め……つまり空気抵抗が大きかった。

 そして角田はピットストップ直後、最高速重視のガスリーにオーバーテイクされてしまった。本来のペースは角田の方が優れていたはずだが、ガスリーとはトップスピードの差が大きく、真後ろにつけてDRSを使って攻め立てたものの、ついぞオーバーテイクする決め手がなかった。グラフを見ても、角田がガスリーにビタッと押さえ込まれていたのがよくお分かりいただけるだろう(グラフ紫丸の部分)。

 チームも反省しきりの今回の伝達ミス。このミスがなければ、ハミルトンにはアンダーカットを許したかもしれないが、十分にその後ろの8番手は狙えるレースだっただけに、悔やまれる一件であった。

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