【参院選・激戦区ルポ】山尾志桜里氏を意に介さない「立憲・塩村氏」と榛葉幹事長全面支援の「国民・牛田氏」…それぞれの反応は?

 7月20日に投開票される参議院議員選挙の選挙戦が始まり、街頭では候補者たちの演説合戦が繰り広げられている。東京選挙区は7議席をめぐり32人が立候補する激戦区。参院選の情勢をシミュレーションしたAERA(7月7日号)で当選候補として名前が挙がった立憲民主党の塩村文夏氏(46)と国民民主党の牛田茉友氏(40)は、序盤でどのような選挙戦を展開しているのか。4日、都内で演説する両者を取材した。

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 うだるような暑さで蒸しかえる世田谷区の下北沢駅前。平日の午後4時にもかかわらず、塩村氏の演説には100人ほどの聴衆が集まっていた。

「最初は警察にこう言われたんですよ。『塩村先生、風営法は警察の一丁目一番地。指一本触れさせないよ』と。でもここまでの問題になってさすがにまずいということで、ある時点からコロッと態度が変わって協力してくれるようになりまして、風営法の改正につながりました」

 開口一番、塩村氏がアピールしたのは減税や現金給付ではなく、「風俗営業法」についてだった。悪質ホスト問題とその背景にある反社会的勢力「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の対策として、風営法改正への動きを自らがけん引した実績を語った。

 犯罪に巻き込まれやすい若年層が多い“シモキタ”では、刺さる訴えかもしれない。制服姿で最前列に立っていた18歳の女子高校生に話を聞くと、「おじさんよりも若手の政治家さんが好きで。だって生き生きしているじゃないですか。パワフルな人に頑張ってほしい」と目を輝かせていた。立憲の支持層は高齢者が多いとされるが、若者たちもビラを片手に足を止めていた。

 今回の参院選の争点となる物価高対策については、「給付と減税だけでは絶対にダメ」と断言。短期的な対策頼みではなく、再生可能エネルギー分野に投資してエネルギー自給率を上げる、長期的な対策が必要だと強調した。

 正直こちらの訴えは、投票をうながす選挙演説として効果的なのか疑問だったが、塩村氏は胸を張ってこう続けた。

「分かりにくくて、全然選挙向きの公約じゃありません。でも参議院議員は6年間の任期があるのだから、長期の視点を持った政策を進めていかなくてはいけない」

■山尾氏が“参戦”したことによる影響は?

 塩村氏の演説中、聴衆からは終始「そうだー!」という合いの手や拍手もあった。最後まで聞き終え、「(他候補と比べて)一番まともなこと言ってるわ」とつぶやく人もいた。

 本人の手応えはどうなのか。演説後の塩村氏に、AERAの当落予測では当選可能性が最も高い◎判定がついていることを伝えると、「絶対そんなことないですよー!」と満面の笑みが返ってきた。

「私の公約は、演説を聞いてくれた人には確実に届いていると思いますが、それは砂漠に水をまくようなもので、どれだけ多くの人に伝わるかは疑問です。でも(7議席ある)東京選挙区なら、一人くらいはこういう候補を選んでくれるんじゃないかと」

現職としての自信もありそうだが、一方で新たなライバルも現れた。国民民主党の公認内定取り消しを受けて無所属での出馬を決めた山尾志桜里氏(50)だ。塩村氏と同世代の女性候補であり、票を食い合う可能性もあるが、塩村氏は笑顔を崩さずこう応じた。

「あっちの支持層がこっちに来る、こっちの支持層があっちに行く、ということはないと思いますが、無党派層は知名度のある人を選ぶ傾向があるので一定の影響はあるでしょう。ただ、選挙なので結果は結果として受け止めるだけです」

 知名度という意味では、今年4月にNHKを退局した元アナウンサー、国民民主の牛田氏も有力候補だ。在局中は、政治討論番組「日曜討論」の司会も務めていた。

 この日、牛田氏が演説会場に選んだ大田区の蒲田駅前には120人ほどが集まっていた。SNSでの切り抜き動画拡散を歓迎する国民民主だけあって、本格派の機材を設置して動画撮影をしているYouTuberの姿もあった。

 演説が始まると、牛田氏はアナウンサー時代の葛藤と出馬への思いを切々と訴えた。

「私は人の役に立ちたい、社会の課題解決をしたいと思って前の仕事を選びました。けれど目の前に声を上げられない人がいる。これは本当に課題解決になり得ているのだろうかという思いもありました」

 出馬当初の演説は、元アナウンサーゆえか、原稿を読んでいるようで熱量に欠けると評した一部報道もあった。だがこの日は、政治家然としたメリハリある話しぶりを披露し、パラパラと拍手も起きていた。

 成長の裏には、この人の存在もあるのかもしれない。応援弁士として牛田氏の隣に立った、幹事長の榛葉賀津也氏だ。榛葉氏は女性人気が高いことで知られ、この日も熱いまなざしを送るマダムたちの姿がちらほら見受けられた。

■「他候補のことをどうこう言うことは控えます」

 榛葉氏は「この炎天下の中、58歳、暑苦しくてすみません」と笑いを誘いながら、「給料が上がる日本経済を取り戻そうよ。中国人が日本の土地を、マンションを買いあさっている」などと、国民民主のスローガン“手取りを増やす”を猛アピールした。

 ただ、聴衆の中に分け入って握手や記念撮影をしていた際、支持者とみられる年配女性に対し、「覚えてるよ、美人は忘れないから」と容姿について発言してしまうあたりは危うさも感じた。榛葉氏は5月末の福岡市での街頭演説の冒頭で「博多の女性はきれいだね」と発言して批判を浴び、その後の記者会見で「他意はないが下手なつかみだった。以後気を付ける」と釈明したが、まだ懲りてはいないようだ。

 演説後、牛田氏にトークスキルについて聞くと、「(演説が得意でないという以前の評判は)どこからの評判ですか? スキルを磨いた方法? いや、別に特にないです」と言葉少なに去っていった。

 前述の山尾氏については、国民民主は公認を取り消した側になる。候補者としてはそれをどう受け止めて戦うのか。牛田陣営の関係者は「うちのモットーは“対決より解決”ですし、他候補のことをどうこう言うことは控えます」と濁した。

 選挙戦はまだ始まったばかり。候補者たちの“熱い夏”はあと2週間続く。

(AERA編集部・大谷百合絵)

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東京選挙区ではこのほか、共産の吉良佳子氏、れいわの山本譲司氏、無所属の吉永藍氏、無所属の土居賢真氏、諸派の藤川広明氏、社民の西美友加氏、保守の小坂英二氏、参政のさや氏、諸派の峰島侑也氏、自民の武見敬三氏、立憲の奥村政佳氏、諸派の酒井智浩氏、諸派の福村康広氏、諸派の桑島康文氏、諸派の渋谷莉孔氏、国民の奥村祥大氏、諸派の吉田綾氏、自民の鈴木大地氏、無所属の吉沢恵理氏、諸派の市川たけしま氏、公明の川村雄大氏、維新の音喜多駿氏、無所属の平野雨龍氏、諸派の千葉均氏、無所属の増田昇氏、諸派の辻健太郎氏、諸派の早川幹夫氏、諸派の石丸幸人氏、無所属の高橋健司氏が立候補している。