【参院選・激戦区ルポ】自公がつぶし合う大激戦の兵庫 知名度抜群の泉房穂氏の人気に他陣営は「改選数3だが2議席の奪い合い」
参院選が7月3日、スタートした。石破茂首相が第一声を上げたのは、東京でも大阪でもなく、兵庫県神戸市の東遊園地。厳重な警備態勢の中でマイクを握り、
「困った方々に重点的にお払いをする、それが給付金。決してバラマキでもなんでもありません」
と給付金を強調した。
兵庫選挙区は改選数3のところに自民党、公明党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組、参政党、社民党、NHK党などの候補が出馬し、3年前の参院選と同じ過去最多となる13人が争う大激戦区だ。
石破首相が第一声の地に兵庫県を選んだことについて、自民幹部はこう話す。
「表向きは阪神大震災、防災を訴えたいという格好です。しかし、あまりに激戦で、改選数3なのに自民が議席をとれないなんてことは絶対にダメ。公明もきつい状況で、自公ともに議席を落としかねない。そこで石破首相がマイクを握った」
公明の斉藤鉄夫代表も神戸市西区で第一声を上げた。兵庫選挙区で現職議員がいる自公両党にとって、議席を失いかねない厳しい選挙戦となっているのだ。
■「とんでもない大量得票の可能性」
公明県議は、改選数3だが「2議席を各党で奪い合う構図だ」と言い、こう話す。
「春に参院選出馬を表明した泉さんは、兵庫県内をくまなくまわって十分に態勢を整えて選挙に臨んでいる。抜群の知名度でトップ当選は堅い。80万票とか90万票とか、とんでもない大量得票になるかもしれない」
無所属(立憲民主党県連推薦)で立候補した前明石市長の泉房穂氏が圧倒的だというのだ。
テレビのコメンテーターもしていた泉氏の知名度は高く、確かに泉氏が繁華街に繰り出すと、すさまじい人波にのみ込まれそうになるほどの人気ぶりだ。
そこで泉氏を直撃すると、
「圧勝だ、トップ当選だと言ってくださる方はいますが、まだ始まったばかり。選挙は何が起こるかわかりません」
と慎重な口ぶりだった。
兵庫選挙区は改選数3になった2016年以降、自民、公明、維新が議席を分け合ってきた。16年は自民候補がトップ当選で約64万票、19年は維新候補がトップで約57万票、前回22年は維新候補がトップで約65万票を獲得している。知名度の高い泉氏は、それを上回る大量得票をするのでは、という見立てが多く聞かれる。
■6年前は安倍氏が自公を“はしご応援”
今回改選となる19年に当選した現職の候補は、自民の加田裕之氏、公明の高橋光男氏の2人。6年前は維新の勢いが強く、維新候補の当選は確実視され、実質的に加田氏、高橋氏と立憲民主の女性候補の3人が2議席をめぐって激しく争った。安倍晋三首相(当時)が三宮の繁華街で加田氏を応援した後、100メートルほど離れて待機していた高橋氏のためにもマイクを握るという異例の応援を繰り広げ、高橋氏が約50万票で2位、加田氏が約47万票で3位となり、立憲民主候補の猛追をかわして当選している。
前出の公明県議がこう話す。
「兵庫県内で公明の基礎票は30万票に届かない程度でしょう。兵庫選挙区が改選数3になり、うちが立てるようになってからは、自民からも票が回ってきていた。その段取りをしてくれたのが、元自民幹事長の二階俊博氏。その采配で、高橋氏のために二階氏とその親族が骨を折って業界を集めて講演会を開催してくれ、その票があったから当選できていた。しかし、二階氏は政界引退し、公明党が頼りにしていた二階氏の親族もお亡くなりなった。今回は自民も苦しく、公明独自でやらねばならない。うちにとってある意味、自民党がライバルで、与党同士のつぶしあいという展開にもなりかねない」
では、自民はどうかというと、自民県議がこんな話をする。
「加田氏は裏金で名前が出た旧安倍派議員。昨年の衆院選では裏金で名前が出た大物議員が続々と落選したものの、そろそろ影響は少なくなったかと思っていたが、都議選でも『裏金議員』に対して厳しい結果が出た。活動していても、自民や裏金に対しての有権者の目はまだ非常に冷たいものが感じられる。正直、公明の支援をする余裕はありません」
19年の選挙でトップ当選したのは維新の清水貴之氏。清水氏は昨年11月の兵庫知事選に出馬したため失職し、その後、今回の参院選に出馬の意向を示したが、結局辞退。急きょ新人の吉平敏孝氏が擁立された。維新の県議は、険しい表情で話す。
「現場で活動していると、維新のこれまでのトレンドが、国民民主や参政に変わってしまったように感じます。維新のおひざ元の大阪でも苦戦のようで、兵庫県でもなかなか流れに乗れていない。苦戦です」
■斎藤知事は「どの候補の応援もしない」
昨年の衆院選から勢いづいた国民民主は新人の多田ひとみ氏を擁立。党勢には陰りも見られるが、労働組合の支援が強固だ。
参政は都議選で議席ゼロから3議席を獲得と急伸し、メディアの世論調査でも支持率を急上昇させている。兵庫では新人の藤原誠也氏を擁立。6月15日の兵庫県尼崎市議選では女性候補がトップ当選を果たし、兵庫県でも波に乗っている。
昨年の兵庫県知事選で斎藤元彦氏(現知事)を応援するために知事選に出馬し、「2馬力選挙」だと問題視されたNHK党の立花孝志氏も立候補した。
いまだに、斎藤知事の一連の問題が大きな影響を及ぼし、県政の混乱が続く兵庫県。
「公務優先で、参院選挙はどの候補者にも応援などはしない」
と、斎藤知事自身は「静観」するという。
* * *
兵庫選挙区ではこのほか、共産新人の金田峰生氏、れいわ新人の米村明美氏、社民新人の来住文男氏、諸派新人の浦木健吾氏、諸派新人の高橋秀彰氏、諸派新人の前田実咲氏が立候補している。
(AERA編集部・今西憲之)