【プロの決算分析】ここがプラスだと要注意……「お金をうまく使っている会社」と「そうでない会社」の違い

 GWが明け、5月中旬は日本企業の決算発表が集中するシーズン。「決算書、今年は読めるようになりたい……」という人もいるでしょう。実は決算書には、「プラスだと要注意」の項目があることをご存じでしょうか? グロービス経営大学院教授の佐伯良隆氏が解説します(佐伯良隆著『決算書「分析」超入門2025』から抜粋・編集)。

■資産・負債の増減と現金の増減は表裏一体

 キャッシュ・フロー計算書は、上から順に、次の3つの活動に分けて現金の出入りを記録しています。

①営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)

②投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)

③財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)

 それぞれの特徴や細かな項目については、後ほど詳しく説明しますが、その前にキャッシュ・フロー計算書の基本的なルールを知っておいてください。

 ルールは1つだけ。それは「資産の増加は現金の流出を、負債の増加は現金の流入を意味する」ということです。

 資産が増えれば(何かを買えば)手元の現金は減りますし、負債が増えれば(お金を借りれば)手元の現金は増えますよね。

 逆に資産が減れば(売れば)現金は増え、負債が減れば(借金を返せば)手元の現金は減ります。

 キャッシュ・フロー計算書では、この原則に従って、各活動における現金の出入りを「プラス」と「マイナス」で示しています(※実際の表では、マイナスは「△」と表記されています)。

 プラスは会社に現金が入ってきたということ、マイナスなら会社から現金が出ていったということです。まずはこれだけ覚えておいてください。

■営業キャッシュ・フロー →「事業で稼げているかどうか」がわかる

 ここからは、キャッシュ・フロー計算書の具体的な中身をみていきましょう。

 1つ目は「営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、営業CF)」です。ここでいう営業活動とは、「会社の事業」のこと。つまり営業CFは「事業でどれだけ現金を得られたか(稼げたか)」を示しています。体に例えると、「十分な量の血液を自分で作り出せているかどうか」ですね。

 営業CFがプラスであれば、事業で現金を得られている、いわば血液を作り出せている状態です。逆にマイナスだと、事業を続けるほど現金が外に出ていく、いわば出血しながら運動している状態です。

 これが長く続くと、出血多量で倒れる、つまり倒産の危険性が高くなってしまいます。そのため営業CFは、多ければ多いほどいいといえます。

 営業CFの細かな項目をみていきましょう。「税引前当期純利益」「減価償却費」「売上債権」「棚卸資産」「仕入債務」など、今までに見覚えのある言葉が並んでいますね。

 これらの項目の共通点は、「発生主義(帳簿上の数字)と現金主義(実際の現金の動き)で金額にズレが生じる部分がある」ということです。

 例を挙げてみましょう。減価償却は、工場設備など金額が大きなもの(資産)を買ったときに、その費用を複数年に分けて計上していくことでした。しかし実際は、工場設備の費用(代金)は、買った年にすでに支払い終えているのが普通です。

 そうすると2年目以降は、損益計算書に「減価償却費」として工場設備の費用を計上しているのに、会社の現金は外に出ていかない、つまり帳簿上の収益(費用)と手元の現金にズレが生じることになります。

 営業CFでは、このように発生主義によって算出した会社の利益(税引前当期純利益)から、実際の現金の動きとズレが生じる部分を1つ1つ洗い出して、金額の差を調整しているのです。

■②投資キャッシュ・フロー →「将来に投資しているかどうか」がわかる

 2つ目は「投資活動によるキャッシュ・フロー(以下、投資CF)」です。

 投資活動とは、「固定資産や有価証券などを取得したり売却したりする」こと。つまり投資CFは「会社の将来のためにどれだけ投資ができているか」を示しています。

 営業CFに比べ、投資CFが表していることはかなりシンプルです。投資CFがプラスなら、土地や建物、有価証券などを売って現金を得ている、逆にマイナスなら、お金を払って、新たな固定資産を得ているということになります。

 さて、ここでひとつ注意していただきたいのが、成長している会社の投資CFは、通常「マイナス」になるということです。

 貸借対照表の項目を思い出してみてください。固定資産は「会社の筋肉」であり、売上を生み出す動力源でしたね。

 投資CFがマイナスであるということは、いわば血液(現金)を使って将来のために“筋トレ”をしている状態。現金は減りますが、新しい設備や工場などを手に入れることで、もっと強くて大きな体になろうとしている意思の表れなのです。

 逆に、投資CFがプラスのときは、現金は増えますが、会社がもっていたビルや工場、株や債券は減っています。つまり筋肉を削って血液を作り出しているような状態です。

 事業と関係のない投資有価証券や不稼働資産を売却しているのであればさほど問題はありませんが、事業からの資金不足(営業CFのマイナス)を補うために資産を売っている場合は要注意。筋力が衰え、中長期的な業績に悪影響を与える危険性があります。

《好評発売中の書籍『決算書「分析」超入門2025』では、「お金の貸し借り」に関する財務キャッシュ・フローの見方や、損益計算書、貸借対照表とのつながりについても詳しく解説しています》

   

著者:佐伯良隆(さえき よしたか) 早稲田大学政治経済学部卒。ハーバードビジネススクール修了(MBA)。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)にて企業向け融資業務に携わるほか、財務研修の企画および講師を務める。その後、米国投資顧問会社であるアライアンス・バーンスタインで株式投資のファンドマネジャーを務めるなど、金融の最前線で活躍。現在は、グロービス経営大学院教授(ファイナンス)。また、企業の財務アドバイザーを務めている。さらに、自身の英語スキルと経験を生かし、吉祥寺英語塾を主宰。主に中高生を対象とした実践的な英語教育に取り組んでいる。