【決算書テクニック】商品の強さは「売上と原価の差」でわかる 分析のプロは、さらにココに注目する
GWが明け、5月中旬は日本企業の決算発表が集中するシーズン。この会社は儲かっているのかどうか? プロの注目ポイントを、グロービス経営大学院教授の佐伯良隆氏が解説します(佐伯良隆著『決算書「分析」超入門2025』から抜粋・編集)。
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■収益性の分析は「比率分析」が基本
はじめは「収益性」の分析です。収益性とは「会社がどれだけ稼げているか」ということ。それを測る方法はいくつかありますが、まずは「売上に対してどれだけ利益が出ているか(売上高利益率)」をみていきます。売上高利益率の算出に必要な情報はすべて損益計算書に書かれています。
ここで思い出してください。損益計算書に書かれている利益は合計5つありましたよね。同じように、売上高利益率も5つあります。計算が大変そうに感じますが、まったくそんなことはありません。それぞれの利益を売上高で割れば、自然と5つの利益率が導き出されます。
これらの利益率から、会社が「どれだけ効率的に収益をあげられているか」や「収益をあげるための戦略」などがみえてくるのです。
■①売上総利益率(粗利率)→商品の付加価値の高さがわかる!
最初は「売上総利益率(粗利率)」です。
売上総利益率は、「売上に占める売上総利益(粗利)の割合」です。一方で「売上に占める売上原価の割合」を原価率といいます。
例えば、A社が100円のパンをつくるのに20円の売上原価がかかったら、売上総利益率は80%、原価率は20%になります。
さて、この売上総利益率からは、その会社の商品(モノやサービス)の「付加価値」の高さがわかります。この付加価値とは、何を表しているのでしょうか。
先のパンの例で考えてみましょう。A社は100円のパンを作るのに、20円の売上原価(費用)を支払いました。この費用は、小麦粉などの材料費や水道光熱費などで、いわば「他社から購入した価値」といえます。
そしてA社は、この他社から購入した価値(20円)に、新たに80円分の利益(価値)を乗せた商品を作りました。この新たに付け加えられた80円こそが、A社の商品の付加価値です。つまり付加価値とは、「自社の資源や技術を使って、新たに生み出した価値」といえます。
これは言い換えれば、売上総利益率が高いほど、「付加価値が高い商品を提供できている」ということです。例えば、アップル社のiPhoneのように、独創性の高い製品は、付加価値が高いため、他社製品より価格が高くても売れます。付加価値が高ければ、利益も大きくなり、収益性も高まるのです。
一方、同業他社と品質が同じか、劣っていれば、商品の価格を下げて数を売る「薄利多売型」の戦略をとらざるを得ません。価格を上げれば売上総利益率はあがりますが、それで商品が売れなければ元も子もありません。
このように売上総利益率の水準は、会社の規模や技術力の高さのほか、販売戦略(業態)や業種によって大きく異なります。
ちなみに産業別の売上総利益率をみると、製造業は19%程度、小売業は28%程度が平均値です。また同じ製造業でも、医薬品製造業は43%程度であるのに対し、食料品製造業は21%、繊維工業は20%、鉄鋼業は11%程度と差が大きいのが実情です(※)。
■②営業利益率→事業で儲ける力がわかる!
2つ目は「営業利益率」です。
営業利益率は、「売上に占める営業利益の割合」で、売上から商品を売るために必要な費用(販管費)を差し引いた後の利益率です。
営業利益は事業活動にかかわるすべての費用を引いた後の利益であるため、その大きさの割合を表す営業利益率は、「会社が本業で稼ぐ力」を判断する指標といえます。営業利益率が高ければ、会社の経営が上手くいっている証拠、つまり事業の収益性が高いといえるでしょう。
ちなみに日本企業の営業利益率の平均値は、製造業で約4.9%、小売業で約2.8%となっています(※)。業界平均よりも高い営業利益率をあげられていれば、優秀な経営ができているといえるでしょう。
さて、この営業利益率に大きな影響を与えるのが、販管費です。例えば、製品を売るために多額の広告宣伝費を投入するなど、販管費が膨らむほど営業利益率は下がります。
ただし広告宣伝費が上昇している場合は、それが新製品の認知度を高めるためなのか、販売に苦戦しているためなのか、理由を探ることが大切です。例年に比べ、大きな変動のある費用については、決算書の「注記事項」に理由が書かれている場合があります。
また、大手製薬会社などは、新薬の開発を行うため、膨大な研究開発費を投入しています。今までにない画期的な薬を生み出し、製品の付加価値を高めることで、販管費が膨らんでも十分な利益を確保できるのです。
このように営業利益率には、各会社が商品を売って利益を得るための「販売戦略」の結果が加味されます。
例えば、高付加価値の商品を販売する会社(業種)は、商品の開発やブランディングにお金がかかるため販管費が膨らみ、売上総利益率に比べて営業利益率が大きく下がることがあります。化粧品会社がいい例です。
一方で、薄利多売型の会社(業種)は、販管費を抑制して利益を確保するため、売上総利益率と営業利益率の差は小さくなります。スーパーがいい例です。
他社比較分析を行う際、我々プロは、業態ごとの差がより少なく、事業からの収益性がわかる営業利益率を重視します。
(※ 2022年度の平均値。経済産業省『2023年企業活動基本調査確報ー2022年度実績ー』を参照)
《好評発売中の書籍『決算書「分析」超入門2025』では、経常利益率、当期純利益率に注目したさらなる収益性分析についても詳しく解説しています》
著者:佐伯良隆(さえき よしたか) 早稲田大学政治経済学部卒。ハーバードビジネススクール修了(MBA)。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)にて企業向け融資業務に携わるほか、財務研修の企画および講師を務める。その後、米国投資顧問会社であるアライアンス・バーンスタインで株式投資のファンドマネジャーを務めるなど、金融の最前線で活躍。現在は、グロービス経営大学院教授(ファイナンス)。また、企業の財務アドバイザーを務めている。さらに、自身の英語スキルと経験を生かし、吉祥寺英語塾を主宰。主に中高生を対象とした実践的な英語教育に取り組んでいる。