「ポスト森保」次期日本代表監督に推したい外国人監督5選
ダニエル・ガルネロ監督(左)ミハウ・プロビエシュ監督(中)ウィリー・サニョル監督(右)写真:Getty Images
来2026年のFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会に向け、世界最速で予選突破を決めた日本代表。2018年7月にコーチから昇格する形で代表監督に就任し森保一監督は、2022年のカタールW杯でドイツ代表、スペイン代表を破りベスト16に進出して契約延長を勝ち取り、森保ジャパンは2度目のW杯に臨む。
もちろん森保監督3期目の可能性もあり、そうなればJFA(日本サッカー協会)会長も務めた長沼健氏(2008年死去)の、のべ11年(1962-1969、1972-1976)の在任記録を超える可能性も出てくる。しかし史上最高のW杯8強入りを果たさない限り、次なるステージを目指し、JFAには次期監督を選定するという大仕事が待っている。
森保監督が日本代表史上最も成果を挙げている指揮官であることで、次期監督の選定は重要だ。少々気の早い話題ではあるが、ここでは、スペイン・ポルトガル・モロッコで共同開催される2030年のW杯へ向けて、次期日本代表監督として推したい5人の外国人監督を挙げる。
森保一監督 写真:Getty Images
外国人監督招聘の可能性について
日本人を次期日本代表監督候補とするならば、Jリーグでの実績から鹿島アントラーズの鬼木達監督、川崎フロンターレの長谷部茂利監督といった名が浮かぶが、いずれも就任1年目ということで“引き抜き”は考えにくい。
外国人監督となれば、未知数の要素が多くなる。事実、ヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督(2015-2018)は事あるごとにJFAと揉め事を起こし、最終的には選手の不満が爆発。2018年のロシアW杯直前に解任された。
その前のハビエル・アギーレ監督(2014-2015)は、2015年にレアル・サラゴサ監督時代の八百長疑惑(2011)によりスペイン検察から告発され、裁判所が訴追を受理したこと、そして同年のアジアカップで8強止まりに終わったことで契約解除。また、両監督の招聘に深く携わった霜田正浩技術委員長は、詰め腹を切らされる形でJFAを去った。
これらの出来事によって、再び外国人監督を招聘するのはハードルが高いようにも思えるが、日本の立ち位置は昔のような「未知のサッカー途上国」ではなく、今やW杯常連の「サッカー強豪国」になりつつある。おそらくは海外のエージェントからは売り込みもあることだろう。
海外での経験豊富な外国人監督の招聘は、選手の多くが欧州で活躍する現在の日本代表に新たな戦術をもたらす可能性がある。
ミハウ・プロビエシュ監督 写真:Getty Images
ミハウ・プロビエシュ監督(52歳/前ポーランド代表監督)
次期日本代表監督候補として挙げる1人目は、ミハウ・プロビエシュ監督だ。今年6月12日、ポーランド代表で絶対的エースとして君臨しているFWロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)との確執に屈した形で監督を辞した。
現役時代は目立った実績こそないが、指導者としてはポーランド国内で豊富な経験があり、特に若手選手の育成に定評がある。2023年にポーランド代表監督に就任し、UEFAネーションズリーグや欧州選手権予選でチームを率いていた。戦術は【4-2-3-1】を基調とし、守備の組織化と速攻を重視するスタイルが特徴だ。
プロビエシュ監督の魅力は、戦術的な柔軟性と若手育成の手腕だ。日本代表ではMF三笘薫、MF久保建英、MF堂安律などの推進力を最大限に引き出す戦術が求められる。同監督の攻撃的なサッカーは、こうした選手の個性を活かしつつ、守備の安定感も保てるバランスのあるチーム作りを可能にする。“ワンマンチーム”ではない日本代表では、選手とも良好な関係を築けるだろう。
さらに、プロビエシュ監督はデータを活用した現代的なアプローチを採用しており、欧州のトレンドにも敏感だ。日本代表の選手たちが所属するプレミアリーグやブンデスリーガの戦術傾向を熟知している点も強みとなる。
問題があるとすれば、ポーランド国外での指導経験が少ない点だろう。アジアサッカー特有の環境や文化への適応が課題となる可能性がある。それでも、彼の情熱的で選手との距離が近い指導スタイルは、日本の若手選手たちにポジティブな影響を与えるだろう。
フェルナンド・サントス監督 写真:Getty Images
フェルナンド・サントス監督(70歳/アゼルバイジャン代表監督)
2人目は、フェルナンド・サントス監督だ。ポルト(1998-2001)、スポルティングCP(2003-2004)、ベンフィカ(2006-2007)の「トレス・グランデス」と呼ばれるプリメイラ・リーガ3強を率いた経験があり、代表監督としても、ギリシャ代表(2010-2014)、母国のポルトガル代表(2014-2022)、 ポーランド代表(2023)を経て、2024年からはアゼルバイジャン代表監督を率いている。
2016年のUEFA欧州選手権(ユーロ)ではポルトガル代表を初優勝に導き、2019年のUEFAネーションズリーグでも同大会初代王者に輝いた。FWクリスティアーノ・ロナウドを中心としながらも、堅実な守備をベースとしたチーム作りを得意とする。
2022年のカタールW杯では、決勝トーナメント1回戦のスイス代表戦でエースのロナウドをベンチに置き、若手FWゴンサロ・ラモスを先発に抜擢。ラモスはこの試合でハットトリックの大活躍。続く準々決勝モロッコ代表戦でも同様に、試合には敗れてしまったが、大エースを外してまで“旬”の若手を起用する大胆な采配を見せた。
サントス監督の強みは、このような大一番での思い切った選手起用だ。日本代表にとって彼のような経験豊富な監督は、トーナメントでの戦い方を熟知している点で理想的だ。戦術は【5-4-1】や【4-3-3】を基盤とし、守備ブロックを低く設定してカウンターを狙うスタイルが特徴であり、DF冨安健洋やDF板倉滉といったセンターバックを軸にした守備の安定感を高めつつ、三笘やFW伊東純也のスピードを活かした攻撃が可能になる。スター選手のマネジメントにも長けており、久保や堂安のような個性的な選手を効果的に起用できるだろう。
一方で、彼の保守的とも言える戦術には、攻撃的なサッカーを好む日本代表サポーターからの期待とのズレが生じるリスクもある。さらに70歳という年齢から来る体力的な不安があり、アジアサッカーへの適応も未知数だ。しかし、その経験や実績は魅力的に映る。
ダニエル・ガルネロ監督 写真:Getty Images
ダニエル・ガルネロ監督(56歳/ウニベルシダ・カトリカ監督)
3人目は、先頃、選手としてプレーしたチリの名門ウニベルシダ・カトリカに約30年ぶりに監督として戻った、アルゼンチン人指揮官のダニエル・ガルネロ監督だ。キャリアは南米を転々としている。
2022年と2023年、パラグアイの強豪クラブ・リベルタッドでリーグ連覇を達成し、その実績が買われて2023年からはパラグアイ代表監督に就任。W杯南米予選やコパ・アメリカでチームを率い、堅守速攻のスタイルを浸透させた。戦術は【4-4-2】や【4-3-3】を併用し、攻守の切り替えの速さと組織的なプレスが特徴だ。
森保ジャパンも【4-2-3-1】や【4-3-3】を基盤にハイプレスと速攻を組み合わせたサッカーを展開していたため、現在の日本代表のスタイルと親和性が高い。ガルネロ監督の下では、MF遠藤航やMF守田英正の中盤でのボール奪取力をさらに強化し、三笘やMF伊東純也のサイド攻撃を効果的に引き出せるだろう。また、南米サッカーのフィジカル面や狡猾さを熟知しているため、アジア予選でのタフな試合で優位性を発揮できる。
問題は、欧州サッカー経験の少なさだ。日本代表の選手のほとんどが欧州でプレーしており、ガルネロ監督が彼らの環境や戦術トレンドにどれだけ適応できるかは未知数だ。しかし、アルゼンチン人監督特有と言える戦術へのこだわりが、選手たちに新たな刺激を与えるだろう。パラグアイ代表での実績を踏まえれば、アジアの舞台でも結果を残せるポテンシャルは十分にある。
ウィリー・サニョル監督 写真:Getty Images
ウィリー・サニョル監督(48歳/ジョージア代表監督)
4人目に挙げるのは、現役時代はバイエルン・ミュンヘン(2000-2009)の右サイドバックとして活躍したフランス人指揮官ウィリー・サニョル監督だ。
指導者としては、フランスU-21代表やボルドーの監督、また古巣バイエルンではカルロ・アンチェロッティ監督(現ブラジル代表監督)が解任された後に暫定監督も務めた。2021年からジョージア代表監督に就任。UEFAネーションズリーグでグループ首位に導き、2024年の欧州選手権本大会出場を果たした。戦術は【4-2-3-1】や【3-5-2】を採用し、ウイングバックを活用した攻撃的なスタイルが特徴だ。
サニョル監督の魅力は、その若さと欧州サッカーにおける戦術トレンドへの理解だ。48歳という年齢は、選手とのコミュニケーションや現代サッカーのトレンドに適応する上で有利に働くだろう。特に、ジョージア代表ではMFクヴィチャ・クヴァラツヘリア(インテル)のようなスター選手を効果的に起用しており、久保や三笘のようなアタッカーを活かす戦術の構築が期待できる。また、バイエルン時代に培ったプロフェッショナリズムは、欧州でプレーする日本選手たちとの信頼関係構築に役立つ。
サニョル監督の【3-5-2】システムは、冨安や板倉を3バックの中心に据え、DF菅原由勢やDF伊藤洋輝をウイングバックとして生かす可能性があり、これにより守備の安定と攻撃の幅を両立できる。経験不足は否めず、今やW杯常連国となった日本代表を率いるプレッシャーへの対応は未知数だが、彼の攻撃的なサッカーは新たな可能性を引き出すかもしれない。
ミヒャエル・スキッベ監督 写真:Getty Images
ミヒャエル・スキッベ監督(59歳/サンフレッチェ広島監督)
最後に1人だけ、Jリーグから候補を挙げたい。2022シーズンからサンフレッチェ広島を率い、いきなりルヴァン杯を制してみせたドイツ人指揮官ミヒャエル・スキッベ監督だ。
ヒザのケガのため21歳の若さで現役引退したスキッベ監督は、古巣シャルケのユースで指導者キャリアをスタートさせ、国内ではボルシア・ドルトムントやバイエル・レバークーゼン、国外でもガラタサライ(トルコ)やグラスホッパー・クラブ・チューリッヒ (スイス)など欧州の名門クラブでの指導経験も豊富だ。ギリシャ代表監督の経験もあり(2015-2018)、これだけ実績のある指揮官の招聘を成功させた広島フロントの慧眼には恐れ入ったという他ない。
スキッベ監督の最大の強みは、日本サッカーへの理解だろう。広島で4シーズン目を戦っていることでJリーグの文化や選手の特性を熟知し、大卒ルーキーのFW中村草太や、ユース出身のMF東俊希を起用しながら成長を促した実績がある。この経験は、日本代表監督として選手やJ各クラブとの信頼関係を築く上で大きなアドバンテージとなる。
戦術的には【3-4-2-1】をベースとしながらも、試合中に可変するシステムを採用し、ハイプレスとサイド攻撃を重視。守備の安定性を担保しながらも中盤での創造性を引き出している。
また、ドイツサッカーのメソッドを背景に持ち、欧州での指導経験も豊富だ。欧州で活躍する日本人選手の多くがブンデスリーガやプレミアリーグでプレーする中、彼の戦術的アプローチは選手たちに自然に受け入れられるだろう。
広島就任1年目にして優秀監督賞を受賞し、月間優秀監督賞にも複数回選ばれている。就任以来、3シーズン連続3位以内という成績は、毎年のように主力選手が海を渡っていることを考慮すれば、優秀だと言える。
これといった短所は見当たらないが、強いて挙げれば指導への情熱が時として審判批判に繋がってしまう点だろうか。今2025シーズンの名古屋グランパス戦後、審判団を猛批判。その末、2試合のベンチ入り停止と罰金20万円の処分を受けた。それでも、日本での実績と欧州サッカーへの造詣を考慮すれば、「ポスト森保」の有力候補の1人であると言えるだろう。
5人の候補はいずれも魅力的で、日本代表の新たな歴史を刻む可能性を秘めている。サントス監督のような実績重視の選択や、サニョル監督のような新世代の監督も魅力的だが、日本代表の現状と目標を考慮すると、スキッベ監督が最もバランスの取れた選択肢と言えるだろうか。
最終的な選定は「短期的な結果」か「長期的な成長」か、JFAの目指す方向性に左右されるだろう。森保監督の後継者として、どの外国人監督が次の日本代表を率いるのか、また日本人監督の抜擢があるのかも含めて、今後の動向に注目したい。