フィギュア世界国別対抗戦、日本は「銀」大黒柱は“りくりゅう” 各選手が手に入れた来季への自信

 フィギュアスケートの今季最終戦となる世界国別対抗戦(4月17~20日、東京)が行われ、日本は銀メダルを獲得した。ミラノ・コルティナ五輪の団体戦の前哨戦となる一戦。来季への好材料と課題を手に、シーズンを締めくくった。AERA 2025年5月5日-5月12日合併号より。

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 国別対抗戦は、主要大会の上位6カ国で競うチーム戦。五輪の団体戦とはポイント換算方法が若干異なるが、メダル争いという面ではほぼ同様の力比べが出来る。今回はアメリカが126ポイント、日本が110ポイント、イタリアが86ポイントでメダルを獲得し、総合力を示した。日本の応援団長の坂本花織(25)は、銀メダルを胸に笑顔を見せた。

「今回のメンバーの中から来季の五輪団体戦に出る選手がいると思うので、この経験が五輪に生かされれば良いなと思います。チームジャパンと観客の応援のお陰で楽しくなり、演技中に疲れていても気合で乗り切ることができました」

■大黒柱は“りくりゅう”

 五輪の団体戦は2014年ソチ五輪から採用され、日本は同年5位、18年平昌五輪でも5位。22年の北京五輪で初のメダルを獲得し、カミラ・ワリエワのドーピング違反でROC(ロシア・オリンピック委員会)が降格になり、銀メダルに繰り上がった。ミラノ・コルティナ五輪でも、ロシアは団体競技への参加が認められておらず、日本とアメリカの金メダル争いが濃厚だ。

 この団体戦の大黒柱ともいえるのが、ペアの“りくりゅう”こと三浦璃来(23)&木原龍一(32)。ジャンプ一つで順位が変動する男女シングルに対して、この2人の存在感は大きい。木原は言う。

「ソチ、平昌と、僕の実力が足りず、チームジャパンの皆さんの足を引っ張っている気持ちでした。『りくりゅうがいるから大丈夫』と言ってもらえるよう来季はもっと成長していきたいです」

 三浦&木原は、シーズン前半はストイックになり過ぎて、2人でネガティブ思考の時期が続いた。年明けに目標を軌道修正すると、3月の世界選手権では笑顔を取り戻し、2季ぶりに世界の頂点へ駆け上った。

「シーズン前半の失敗があったからこそ『2人で滑ることを楽しむ』という初心に立ち戻ることができました。五輪前年に経験できたことにむしろ感謝です」(木原)

「自分たちのやってきた練習は嘘をつかない。2人の練習を信じて、あとは楽しむだけです」(三浦)

■表現力の幅広げた坂本

 国別対抗戦では、自信を取り戻した2人が力強い滑りでリンクを駆け抜ける。世界選手権は幅が4メートル狭い北米サイズだったが、今回は幅30メートルのフルサイズだ。

「世界選手権では全力で(スケートを)押せなかったけれど、今回は100%以上の力で滑ることができ、オリンピック(同様の)サイズは自分たちに合っていると感じました」

 と2人は手応えを実感。総合226.05点で、2年ぶりに自己ベストを更新した。

「ミスがあっても自己ベストが出せたことは大きいです。来季も笑顔でスタートさせたいと思います」(三浦)

 また団体戦の応援団長、そして日本女子のエースとして活躍したのは坂本だ。今季は、全日本選手権4連覇を達成。4連覇がかかった世界選手権では、重圧を背負いながらも、フリーは会心の演技で総合2位となった。

 国別対抗戦では疲労もたまるなか、ミスを最小限に抑える演技で、ショート2位、フリー3位と、チームジャパンのメダルに貢献した。

「今季が始まる時から『今季と来季は2年で一つと考えて、五輪を最終目標に』と言ってきました。ここが折り返し地点。(2年間の)前半戦で課題をたくさん残して終われたことは、来年への良い課題になりました」

 今季は、ジャンプ構成を大幅に変えて試行錯誤。プログラムも、ショートはタンゴ、フリーは「シカゴ」で、振り付けが濃密なものを選び、表現力の幅を広げた。

「来季はジャンプ構成をちょっといじって、ショートの安定感を取り戻したい。あと、もうちょっと落ち着いた曲がいいかな。自分は意外と速い動きが苦手なので、本来のスケートの滑りを出せる曲で勝負したいです」

 今季はあくまでも課題を得るシーズン。たくさんの希望を手に笑顔を見せた。

 また世界選手権銅メダルの千葉百音(19)も、持ち味の艶やかなスケートを披露。ショート4位、フリー5位と存在感を示し、来季に繋げた。

「精神的にタフに臨むためにも、ある程度楽しんで、ある程度集中するバランスが大切。今回のフリーは楽しむ気持ちで自分のスケートを見せることができました」

■佐藤は覚醒のシーズン

 一方、男子はエース鍵山優真(21)と佐藤駿(21)が、ともに死力を尽くした。鍵山にとって今季は忍耐のシーズン。前半は初の全日本王者を目指す重圧と闘い、世界選手権はエースとしての責任感を胸にメンタルの難しさを学んだ。国別対抗戦のフリーでは、前半にジャンプのミスがあっても、後半にエネルギッシュな滑りを見せた。

「最後はお客さんの顔を見ながら自分が伝えたいものをしっかりと意識しながら頑張りました」

 スケーティング力は世界随一。来季の五輪に向け、戦略を見定めることが勝利のカギになるだろう。

 また佐藤は覚醒のシーズン。優勝を意識しすぎた全日本選手権では、ミスが相次ぎ7位に沈んだ。自分の精神面を分析し、失敗を恐れない気持ちで臨んだ世界選手権では、実力を発揮して6位。国別対抗戦は38度超えの体調不良のなか、フリーでは4回転ルッツも降り、限界突破の演技を見せた。

「世界選手権で精神的に一皮むけたことで、この大会も楽しむことができました」

 彼の鮮やかな4回転ルッツは、五輪に向けて大きな武器になる。

 各選手が手に入れたのは、来季への自信と、団体戦金メダルまでの伸びしろ。チームジャパンは胸を張り、来季を見つめた。(ライター・野口美恵)

※AERA 2025年5月5日-5月12日合併号