かつての「佐々木朗希の相棒」松川虎生の厳しい現在地 ロッテに居場所なく「トレード要員」の声も
ロッテの正捕手争いで評価が急騰している選手がいる。高卒2年目の寺地隆成(19)だ。他球団のスコアラーは「日本球界を代表する捕手にもなれる」と評する。
「昨年から感じましたが、モノが違いますね。打撃はコンタクト能力が高く広角にヒットゾーンに飛ばせるので打率を残せる。タイプとしては、近藤健介(ソフトバンク)と重なります。守備でも積極的に投手とコミュニケーションをとり、打者をどう打ち取るかリードに明確な意図を感じます。プロに入ってキャッチング、ブロッキングの技術が向上していますし、将来は侍ジャパンに選ばれる可能性が十分にあると思います」
ロッテには、佐藤都志也(27)という強打の捕手がいる。昨年は初の規定打席に到達し、リーグ4位の打率.278をマークし、ベストナインも初受賞した。11月に開催されたプレミア12で侍ジャパンに初選出され、11打数5安打と活躍。今年も正捕手の最有力候補と見られていたが、2月の春季キャンプ中に打撃練習で自打球を当てて右足の親指先端を骨折。開幕に間に合ったが、打率.105と打撃の状態が上がってこない。
代わって台頭したのが寺地だった。4月18日の楽天戦では、3回に早川隆久から右翼席へライナーでプロ初アーチを放つと、6回も藤平尚真のフォークをすくい上げる技ありの右翼ソロと連発した。4月29日まで12試合出場で.367をマーク。高卒1年目の昨年はイースタンでリーグ2位の打率.280をマークしたが、1軍でも打撃技術が十分に通用することを証明している。
19歳の若武者が躍動する中で伸び悩んでいるのが、かつて「チームを背負って立つ逸材」と評された松川虎生(21)だ。21年のドラフト1位で入団し、高卒4年目。開幕からファーム暮らしが続き、イースタン・リーグでも先発マスクをかぶる機会が少ない。今期はイースタンで13試合に出場し、打率.200、0本塁打。佐藤が打撃不振で4月23日に登録抹消されたが、代わって1軍に昇格した捕手は植田将太(27)だった。
■監督交代後、出場機会が激減した松川
「松川の課題は打撃に尽きます。高校通算43本塁打をマークし、強肩強打の捕手として期待されましたが、コンタクト率の低さを解消できていない。真面目な性格ですが、あまりガツガツしていないので必死さが見えにくい部分もあります。捕手陣は佐藤、実績がある田村龍弘(30)がいて、年下の寺地にも序列で抜かれる形になっている。ファームでも新人の立松由宇(26)、1軍経験がある柿沼友哉(31)が先発マスクをかぶる機会が多く、このままでは居場所がなくなる危機を迎えています」(ロッテを取材するスポーツ紙記者)
松川のルーキーイヤーの活躍は、ファンの脳裏に焼き付いているだろう。22年、当時の井口資仁監督に評価され、高卒1年目の捕手で史上3人目となる開幕スタメンに抜擢されると、4月10日のオリックス戦で歴史的偉業に名を刻む。佐々木朗希(ドジャース)とバッテリーを組み、佐々木の完全試合達成をアシスト。完全試合達成の捕手で18歳は史上最年少の快挙だった。「佐々木の相棒」として評価を高め、球宴にも捕手部門で選出される。この年は76試合に出場し、打率.173、0本塁打、14打点だった。
ところが、井口監督がこの年限りで退任し、吉井理人監督が就任したプロ2年目以降は出場機会が激減する。23年は9試合出場、昨年は2試合出場にとどまった。
「監督交代で立場が代わることは決して珍しくありません。それでも松川が結果を残せば出場のチャンスが増えたと思いますが、アピールできなかった。ノーステップで打ったり、足を上げたり、打撃フォームでいろいろ試行錯誤を繰り返していましたが、なかなかしっくりこないのでしょう。1軍昇格のカギは打力向上に尽きると思います」(ロッテのチーム関係者)
■ドラフト1位でもトレードがある時代
高卒で入団した捕手が一本立ちするのに時間がかかるのは事実だ。現役時代にNPB記録の通算3021試合出場を樹立した谷繁元信氏も、1軍で初めて100試合以上に出場したの高卒5年目のシーズンだった。現役時代に捕手だったプロ野球OBは松川の立ち位置について、こう指摘する。
「年齢が重要な世界ではなく、捕手陣の編成が大きく影響すると思います。ロッテでは高卒入団で松川より若い寺地が出てきたことで、首脳陣が寺地と佐藤を軸に起用する方針を固めれば、松川は厳しくなる。松川は打撃が課題に挙げられますが、守備面では他球団の評価が高い選手です。昔はドラフト1位で入団した選手を他球団にトレードで出しにくい風潮がありましたが、時代は変わっています。移籍したほうがその選手のチャンスが増えると球団が判断したら、トレードや現役ドラフトで放出する可能性があります」
かつての相棒、佐々木はメジャーへ飛び立った。松川もポジション争いの序列をひっくり返すために飛躍できるだろうか。
(今川秀悟)