電撃トレードのリチャードと秋広は共倒れの危機 移籍で最もプラスなのは変則左腕の大江か
ソフトバンクのリチャードと巨人の秋広優人、大江竜聖の1対2の交換トレードが5月12日に発表され、1カ月が経った。将来の中心選手として期待が大きかったリチャード、秋広の電撃移籍は大きな反響を呼んだが、新天地でのパフォーマンスを見ると、現実の厳しさを感じさせられる。
リチャードは6月12日のソフトバンク戦に「8番・三塁」でスタメン出場。古巣相手に勇姿を見せたかったが、0-0の6回無死一塁でエンドランのサインを見落として一塁走者が盗塁死。打席では中飛に倒れて直後の守備からベンチに退くと、試合後にはファーム降格が決まった。
「サイン見逃しは言い訳できませんが、リチャードは必死だったと思います。2ストライクと追い込まれたらカットしてファウルにするなど、何とかして出塁しようという気持ちは見えました。でも、ストライクゾーンに甘く入った半速球でないと打てないのが実情です。全力で振らなくても8割の力で逆方向に本塁打を打てるパワーはある。技術は一朝一夕で身につくものではないですが、打席での意識を変える必要があるでしょう」(巨人を取材するスポーツ紙記者)
リチャードは移籍後初出場となった5月13日の広島戦で、移籍後初アーチを含むマルチ安打の活躍で最高の滑り出しを切り、同月18日の中日戦でも代打で逆転の2号3ランをバックスクリーンに放った。だが、コンタクト率が低い課題が解消されない。42打数4安打で打率.095と1割に満たない。45打席で19三振を喫し、選球眼にも課題が残る。阿部慎之助監督は我慢してチャンスを与えてきたが、サインの見落としは看過できなかった。
■長打は二塁打2本だけの秋広
一方の秋広は13試合に出場し、30打数7安打の打率.233、0本塁打、0打点(6月12日終了時)。6月11日の古巣・巨人戦では、3回に糸を引くようなライナー性の打球で右中間を割る二塁打を放った。だが、7安打のうち5安打が単打、長打は二塁打2本だけという数字をどう判断するか。ソフトバンクの球団OBは次のように指摘する。
「秋広が巨人時代に本塁打を求められ、コンタクト能力が持ち味と考えていた自分のスタイルとズレが生じていたことは理解できます。でも、2ストライクに追い込まれるまではもっと振ってもいいのでは。チームの同じ左打者には、首位打者経験のある近藤健介、現在打率リーグトップの柳町達がいます。彼らはホームランバッターではないですが、パンチ力があり強振するので、相手バッテリーが神経を使う。秋広はフリー打撃では軽々とオーバーフェンスの打球を打っているのに、試合になると合わせるようなスイングが目立つのが、もったいなく感じます。巨人でも23年に2ケタ本塁打をマークしています。打率と長打の両方を追い求めてほしいですね」
身長2メートルの恵まれた体格を持つ秋広だが、長打力よりバットコントロールの巧みさを強みにしている。ただし、首位打者を争うような高打率で単打を積み重ねるならともかく、打率2割5分前後で長打が少ない打者になってしまっては、1軍定着が難しい。足が速いと言えず、外野の守備力も高いとは言えない。打撃で他の選手との違いを見せなければ、ソフトバンクのハイレベルな定位置争いには食い込めない。
スポーツ紙デスクはリチャード、秋広の今後についてこう話す。
「リチャードは球界屈指の飛距離が魅力ですが、確実性を欠き、打席でも迷いがあるのか集中しきれていません。秋広もレギュラーをつかむには物足りない。巨人もソフトバンクも選手層が厚い球団なので、2人に与えられるチャンスはそう多くないでしょう。細川成也(中日)、郡司裕也(日本ハム)のように伸び悩んでいた選手がトレードで環境を変えることで活躍するケースがありますが、決して多くはない。2人はこのまま共倒れに終わることもあり得ます」
■4試合連続無失点登板の大江
リチャードと秋広の陰に隠れる形になったが、他球団の編成担当が「今回のトレードで最も活躍するかもしれない」と評価するのが変則左腕の大江だ。5月25日に1軍昇格後は、4試合連続無失点。巨人時代は2021年に47試合登板で13ホールドをマーク。昨年も16試合登板で5ホールド、防御率2.62で投球内容は決して悪くない。
巨人は左腕のリリーバーが豊富だったので登板機会に恵まれなかったが、ソフトバンクの救援陣は左腕が手薄だ。長谷川威展が開幕前にトミー・ジョン手術を受けて今季中の復帰が絶望となり、ダーウィンゾン・ヘルナンデスが左太もも付近の違和感で5月下旬に登録抹消された。リーグ連覇を目指すピースとして、大江に首脳陣の期待が大きいことは間違いない。
「大江を補強できたことは、ソフトバンクにとって大きなプラスだと思います。スライダーとチェンジアップの質が高く、直球も140キロ前後の球速表示より速く感じる。26歳とまだまだ若いですし、ここから全盛期を迎える可能性が十分にあります」(他球団の編成担当)
大江は山本由伸(ドジャース)、今井達也(西武)と同学年。高校時代は二松学舎大付1年の2014年に同校を夏の甲子園初出場に導く好投で話題になった。エースとして臨んだ翌年春の甲子園では1回戦・松山東戦で16三振を奪っている。当時はオーバースローの本格派左腕だったが、16年のドラフト6位で巨人に入団後はサイドスローにフォームを改造して活路を見出した。
今回の電撃トレードは巨人の主砲・岡本和真が左肘靭帯損傷で長期離脱したため、巨人サイドが「長打を打てる強打者」としてリチャード獲得を熱望して成立したと報じられている。岡本の故障で転がり込んできた環境の変化を機に、大江は輝きを放てるだろうか。
(今川秀悟)